かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

0のない速度の二重数直線

  • 小島順: 日本の算数教育の実情について 上, 数学教室, 2020年11月号, pp.65-67, あけび書房 (2020).

数学教室 2020年 11 月号 [雑誌]

数学教室 2020年 11 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/10/07
  • メディア: 雑誌
 連載ものらしく,p.65の左上には「まっとうな数学教育と学習指導要領⑧」がついています。個人的にたまたま書店で見かけて購入したため,以前の内容は把握していません。
 この中で目を引いたのは,「15秒で60cm進む」「時間1秒当たりの距離が4cm」というのを表現した,p.66左カラムの図です。

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 「図の説明」を取り出します。

 下に時間(経過時間)の直線,上に距離(移動距離)の直線を,平行に並べた。時間直線の上に二つの点を置き,その真上の距離直線上に,対応する距離の点を置いた。主役は矢線である。15という名前の二つの矢線は×15という作用を表す。この二つが同じ長さなのは点の目盛りに対数を使っているからである。矢線60cm/15sは4cm/sの作用なのだが,置かれる場所に合わせた分数表現を採用している。

 他の情報源と照合します。「矢線」は,同じ著者による次のPDFファイルに頻出します。*1

 次に,「量」や乗除算が想定される文脈で「対数」に言及しているものとして,Nagumo (1977)があります。https://projecteuclid.org/euclid.ojm/1200770204よりPDFがダウンロードできるうちのp.10(最後のページ)です。
 2×2で4つ(「60cm÷15=40」「60cm」「1s」「15s」)の要素を置き,それぞれの間に作用を入れたというと,例えばVergnaud (1983, 1988)です。

(略)「a×b=x」とは何なのかを示す,2種類の図が載っています.


前のページには,"two measure-spaces M1 and M2"と書かれています.measure-spaceは「量空間」と訳すのがよさそうです.

かけ算と構造 - わさっきhb

 『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』では,比例の関係となっている2行の表において,同じ列の間で「×4」,同じ行の間で「×2」や「÷2」を,矢印に添えている表記を,見ることができます。
 ちなみに『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』では,数直線の図(いわゆる二重数直線)に矢印や作用を示すものは見当たりません.とはいえ二重数直線で表現することは差し支えなく,上記の4つの要素は,「4(または60÷15)」「60」「1」「15」になり,上の線の右に「(cm)」,下の線の右に「(秒)」を添えるというのが一つの描き方です。教科書を見て図にしたのは次のものでした。

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令和2年度算数教科書読み比べ(8)~速さ

 小島の図式と,小学校の算数で採用されている二重数直線とで,違いもあります。前者には「0」が書かれていません。「対数を使っている」ため,0にあたる量をもし,考えるのなら,数直線では-∞に対応することになります。
 二重数直線やテープ図で,「0」を入れているのは,量のあいだの倍の関係を明示しているためと考えられます。これは,省略棒グラフが(算数教育・統計教育において)批判的に吟味する対象*2となっていることと,関連するようにも見えます。波線などを用いて一部を省略した棒グラフでは,二つの棒を比較しておよそ何倍なのかが,見えにくくなります。「60cm÷15=40」「60cm」「1s」「15s」に平行線と4つの矢線を取り入れた図においても同様です。