かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

花はぜんぶで何本でしょう

20代で知っておきたい算数授業のつくり方

20代で知っておきたい算数授業のつくり方

  • 作者:博文, 楠
  • 発売日: 2020/11/13
  • メディア: 単行本

 読み進めると,見開き(pp.36-37)で,「かけ算の順序を問う問題」が入っていました。まずはp.36から.

 もう一つ別の話題を。第2学年の「かけ算」の学習でのことである。

5つのグループに
3本ずつ花をくばります。
花はぜんぶで何本でしょう。

 内側の引用は,原文では黒板を模した絵の上に書かれ,(同書で頻出する)先生が立っているイラストが添えられていました。
 この下には,「どんな式になるでしょう?」という先生の問いかけと,数行進んで,「はい。5×3です!」という子ども答えが,太字になっています。2番目の太字のあとには,「しかし,子どもの答えを聞いて,にっこりしていた先生の表情は瞬時に曇った。自信をもって発表したその子は,先生のその表情を見ると一気に元気がなくなってしまった。」と続きます。
 次のページは「「3×3」と「5×3」どちらが正しいの?」という小見出しから始まります。"Sarah has 5 groups of 3 flowers. How many flowers does she have all together? Multiply: 5 groups × 3 in each group = 15 flowers"という英文の画像が,目を引きます。
 ここまで見てから,花を配る,「かけ算の順序を問う問題」が,坪田耕三氏の著書にあったことを思い出しました。当ブログで主要部を書き出していました。

 これについて、2014年出版の本に、類題があります(『算数科 授業づくりの基礎・基本』p.60)。

チューリップがたくさんありました。
子どもが7人います。
そこで,このチューリップを3本ずつくばったら,ちょうどなくなりました。
チューリップは何本あったのでしょう。

 すると,必ず文章に登場する数の順に式を書く(ア)のような子が現れる。
 (ア)7×3 (イ)3×7
 こんな二つの式が登場して議論になる。こんなときは,図が生きる。チューリップを●で表す。「3本ずつ配る」というところを□で囲んでいくところがポイントだ(図11-7)。

f:id:takehikoMultiply:20170524062119j:plain
図11-7

 このような図を介して,式の約束にそって,「3×7」と書くことを思い出させるのがいいだろう。文章に登場する数のままに式を書いていくのではなく,その意味をしっかり受けとめて書くことを確認したい。
 もしも,「7×3」の式に意味をこじつけようとするならば,まずは7人の人に1本ずつチューリップを配り,次のもう1本ずつを配り,さらに3度目として1本ずつを配ると,都合3回で配り終わるので,1回に配る数をひとかたまりと考えて,「7×3」とできる。このように説明できる子がいれば,それはそれでたいしたものである。だが,素直に問題を読めば,「3本ずつ配る」と書いてあるので,さきのように解釈すべきであろう。

 このチューリップの問題では、「3本ずつくばったら」の3を、一つ分の数として、配った人数の「7」を、いくつ分として、数量の関係を認識することが、主眼となっています。
 野球の人数の問題も、同様で、「各チームの人数は9人」の9が、一つ分の数であり、「4つの野球チーム」の4が、いくつ分に当たります。
 チューリップで「7×3」について、「こじつけようとするならば」や「このように説明できる子がいれば、それはそれでたいしたものである。だが、」といった表現により、この著者(坪田耕三氏)は正解とすべきでないという路線をとっています。学校で、□×△と△×□の比較をしているからこそなのでしょう。

 ここで2つの文章題を並べてみます。

  • 『20代で知っておきたい算数授業のつくり方』より:5つのグループに3本ずつ花をくばります。花はぜんぶで何本でしょう。
  • 『算数科 授業づくりの基礎・基本』より:チューリップがたくさんありました。子どもが7人います。そこで,このチューリップを3本ずつくばったら,ちょうどなくなりました。チューリップは何本あったのでしょう。

 子どもたちが,情景を思い浮かべて,花または丸などで数量の関係を図にし,既習の「1つ分の数×いくつ分」を用いて式に表す,という授業の展開を想定したとき,より効果が高いように見えるのは,後者です。前者の「花はぜんぶで何本でしょう。」という問い方が,ぶっきらぼうにも思えてきます*1。「花はぜんぶで何本いりますか。」だったら,配る者の立場で捉えやすくもなるのですが。
 『20代で知っておきたい算数授業のつくり方』のpp.36-37,とくにあとのページ*2を読んで,もう一つ,気になったのが,この文章題の正解・不正解が,一人の先生と一人の子どもとのやりとりで決まるように見える点です。
 それに対し,子どもが式を立てて,他の子どもたちが違う違うというエピソードを,『坪田耕三の算数授業のつくり方』より読むことができます。小学校学習指導要領解説算数編と合わせて読みたい,2010年・2011年の文献で引用しています。
 『算数科 授業づくりの基礎・基本』も『坪田耕三の算数授業のつくり方』も,『20代で知っておきたい算数授業のつくり方』の参考文献に入っています。著者にとって「坪田耕三先生」との関わりは,pp.156-167およびp.200を通して知ることができます。
 もちろん,薫陶を受けたからといって,坪田氏による,かけ算の捉え方や,子どもとのやりとりを,再現する必要はありません。
 結局のところ,「花はぜんぶで何本でしょう。」を含むpp.36-37の内容について,子どもに寄り添っているものと,読んで判断することはできませんでした。

*1:この文は,p.37の"How many flowers does she have all together?"に対応する質問文です。なのですが違いもあって,紹介されている英文は,(米国などでの学習では)かけ算学習の比較的初期に使用され,Greer (1992)の"a child's earliest encounter with an application for multiplication"に当たる事例なのに対し,p.36のような文章題から3×5の式にするのは,日本の算数の教科書では,かけ算の単元の途中に出現します。

*2:ところで「「3×3」と「5×3」どちらが正しいの?」という小見出しには違和感を覚えました。「「3×5」だけが正しいの? 「5×3」も正しいのでは?」としたいところです。