かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

度数法の値を360で割って,2πにかければ,弧度法の値

\frac{\pi}{180}をかける」と「\frac{1}{360}をかけて、そして2\piをかける」は数学的には完全に同じですが、人間の捉え方としては異なります。

 上記の「数学的には同じだけど」で思い浮かんだのは,Vergnaud (1983)でした。メインブログを見直すと,Vergnaudと銀林氏の「かけ算の意味」 - わさっきhbの中で,a×b=xという式の解釈に関して「この2項演算は,aとbをともに(純粋な)数と見るなら正しい.しかし,(量の)大きさとして見たとき(以下略)」という訳を書いていました。
 度数法から弧度法の値を求めるにあたり,「\frac{\pi}{180}をかける」という操作は,Vergnaud (1983, 1988)の「関数関係」で説明ができます。かけ算と構造 - わさっきhbに載せた,以下のシェマです。

 この図の「×a」は,値を単純にa倍するだけでなく,量空間M1の値を,量空間M2の値に変換することを意味します。
 弧度法の話では,M1に度数法の値(度)の集合,M2に弧度法の値(ラジアン)の集合を,それぞれ対応付けます。そうすることで,「\frac{\pi}{180}をかける」のが,度数法から弧度法への変換になる,というわけです。
 なお,\frac{\pi}{180}は,弧度法の値÷度数法の値により得られ,ペアとなる弧度法・度数法の値が変わっても,同じ値をとります(商一定)。比例定数(弧度法の値=\frac{\pi}{180}×度数法の値)とするのではなく,「\times\frac{\pi}{180}」とするのが,関数関係の面白いところです。
 算数・数学を通じて慣れ親しんでいる,2行の表にすると,次のようになります。

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 もう一つの「\frac{1}{360}をかけて、そして2\piをかける」を,同じように表にするにあたり,表現を少し変更します。「\frac{1}{360}をかけて,2\piにかける」を経て,「360で割って,2\piにかける」とします。この変更で,読点以降のかけ算では,2\piが「かけられる数」になります。
 では「かける数」は何かというと,度数法の値を,360で割って得られる値です.360°のときは1,180°のときは\frac{1}{2},30°だったら\frac{30}{360}=\frac{1}{12}(「°」を書いていませんが,左辺の分数の分母と分子の値に「°」をつけることもできます。結果は,「°」の付かない,純粋な値,別の言い方をすると無次元量となります),そして1°なら,\frac{1}{360}です。
 この値は,1周分の角度に当たる360°を1としたときの「割合」になります。割合が1のときの,弧度法の値(基準量)は2\piです。割合が2,3,または任意の実数pのとき,ラジアンは2π×2,2π×3,または2π×pです。「基準量×割合=比較量」に適用して,得られるのが「度数法の値を360で割って,2\piにかければ,弧度法の値」というわけです。
 割合は無次元量であり,基準量と比較量はともに同種の量(ここでは弧度法の値)です。ということで,Vergnaudのスカラー関係に基づく乗法構造と見なせます。シェマは次の通りです。同じ量空間の中で「×b」を行っています。

 度数法・割合・弧度法の関係は,次のような3行の表になります。

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 ところで冒頭の記事に関して,「\frac{\pi}{180}をかける」も「\frac{1}{360}をかけて、そして2\piをかける」も,本質的な意味が失われているように思います。
 本質となるのは,“弧度法における角度は「円の半径が1のときの、2つの線分が切り取る弧の長さ」である”ということであり,これは弧度法の定義です。
 2種類の手続きも,また読み替えを試みた「度数法の値を360で割って、2\piにかければ,弧度法の値」も,弧度法の定義や性質をもとにした,度数法から弧度法へ変換する手段であることに,変わりありません。
 「2π」「本質」それと「Vergnaud」について,以前に書いた記事をリンクします。