かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

商集合にドドレ型

 なお,等分除と包含除についても,集合論的に次のように一般的な形で述べることができる。集合Xに同値関係Rがあるとき,商集合X/Rは包含除による商(あるいはその一般化)である。一方,集合の間の写像f:X→Yがあるとき,各y∈Yの逆像f^{-1}(y)は,等分除による商(あるいはその一般化)である。

 上記は『子どもの算数、なんでそうなる?』p.142の一節です。
 等分除が逆像(反対の操作)と関連付けられることは,「量と数」の理論に基づき,2年前に検討していました。

 その定式化のもとで,包含除を表現することもできましたが,アルキメデス性が満たされる対象の整数倍に,限られていました。
 商集合のよく知られた事例を活用することで,「商集合X/Rは包含除による商」と,小学校で学習する包含除との間で,共通の性質を持つのに気づきました。
 活用するのは「加法巡回群」です。

 Zを整数全体からなる集合とします。正整数nに対し,nZをnの倍数(0および負の数を含みます)全体からなる集合とします。そうしたとき,a,b∈Zに対して,「aをnで割ったときの余りと,bをnで割ったときの余りが等しい」は,「a-b∈nZ」と表せますので,nZを同値関係と見ることができます(反射律,対称律,推移律が成り立ちます)。[k]={l∈Z | l-k∈nZ}とおくと,商集合Z/nZは{[0], [1], ..., [n-1]}と表せます。
 算数でいうと,Zが「わられる数」,nZが「わる数」,そしてZ/nZが「商」に当たります。ZとnZは無限集合(加算無限)なのに対し,Z/nZは有限集合で,その要素数はnです。これは,以下の記事で紹介した「ドドレ型」の,「左辺は同じ単位で右辺は違う単位」を言い換えたものとなります。

 算数では,「商×わる数=わられる数」という関係も学習します。集合の話で,かけ算といえば,直積集合(デカルト積)です。(Z/nZ)×nZは,Zと異なる集合となりますが,(Z/nZ)×nZ={([k], m) | [k]∈Z/nZ, m∈nZ}に対して,S1={(k, m) | k∈Z, [k]∈Z/nZ, m∈nZ}そしてS2={k+m | k∈Z, [k]∈Z/nZ, m∈nZ}と集合を定めると,それらの定義から,(Z/nZ)×nZとS1,S1とS2にはそれぞれ全単射が存在し*1,S2=Zですので,(Z/nZ)×nZはZと同等と言えます。
 加法巡回群を一例として,小学校で学習するわり算のいくつかの性質が成り立つことを見てきました。一般の商集合X/Rにおいて,同様の性質が言えるかどうかは,XとRを同種の集合と見なせるかどうか,そして(X/R)×RとXとの間にうまく,全単射が構成できるかによります。

*1:S2からS1への写像は,例えば,a∈S2に対し,a=nb+kおよび0≦k<nを満たすb, k∈Zをもとに(k, nb)を対応させることとします。