かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

法令の「乗じて得た額」

 どこで読んだのか忘れましたが,著作権法の損害の額の推定で,日本語でかけ算を説明していました。
 しかも「かける数が1あたり」でした。
 検索すると,著作権法第百十四条に載っていました。

第百十四条 著作権者等が故意又は過失により自己の著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において、その者がその侵害の行為によつて作成された物を譲渡し、又はその侵害の行為を組成する公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行つたときは、その譲渡した物の数量又はその公衆送信が公衆によつて受信されることにより作成された著作物若しくは実演等の複製物(以下この項において「受信複製物」という。)の数量(以下この項において「譲渡等数量」という。)に、著作権者等がその侵害の行為がなければ販売することができた物(受信複製物を含む。)の単位数量当たりの利益の額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において、著作権者等が受けた損害の額とすることができる。ただし、譲渡等数量の全部又は一部に相当する数量を著作権者等が販売することができないとする事情があるときは、当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものとする。
(以下略)

 言葉の式にすると,「数量×単位数量当たりの利益の額=損害の額」です。
 法令では,かける数は1あたりなのかと思いながら,「乗じて得た額」で,Google検索してみると,上位に出てくるのは,割合(倍率)ばかりでした。
 例えば:

 地方公務員等共済組合法 | e-Gov法令検索のページ内で「乗じて」を検索すると,最初に出現するのは第四十九条第三項の「その返還させる額に百分の四十を乗じて得た額」です。
 分数倍のほか「三十を乗じて得た額」というのも見つかりました。かける数に該当するのが数値ではなく「当該各号に定める割合を乗じて得た金額」や「付与率を乗じて得た額」といった表記もありました。
 第七十三条には「同表に定める月数を標準報酬の月額に乗じて得た金額を支給する」と書かれています。「を乗じて得た金額」ではなく「に乗じて得た金額」なのに注意すると,直前の「標準報酬の月額」が,かけられる数になり,かける数は「(同表に定める)月数」となります。


 「かける数が1あたり」について,当ブログでは以下の記事で整理を試みています。

 「数量×単位数量当たりの利益の額=損害の額」について,「数量×単価」という会計の慣例に合わせたものと解釈すればいいのですが,そのほか,「×単位数量当たりの利益の額」を,数量を損害の額に変換する,作用素と見なしてもよさそうです。
(追記)「作用素」の考え方が有用な法律がありました。

 計算内容の規定方法|参議院法制局では「・・・の合計数に一を乗じて得た数と・・・」を挙げています。公立高等学校の適正配置及び教職員定数の標準等に関する法律第12条とのことで,e-Govによると第十二条には3箇所,「一を乗じて得た数」があります。
 「×1」はいちいち書かなくてもいいじゃないかと言いたくなりますが,第九条のいくつかの表には「乗ずる数」という列があり,一や一以外の整数が並んでいまして,整合性をとるためと考えられます。
 生徒の数に「×1」や「÷8」などの演算を施して,教諭等や事務職員の数などに変換するわけです。ただし,もとの数も演算結果も,人数です。
 と思いながら条文を遡って読んでいくと,例外がありました。

第八条 校長の数は、学校(中等教育学校を除く。)の数に一を乗じて得た数とする。

 「学校の数×1=校長の数」あるいは「学校の数=校長の数」と表したときに,そんな等式を書いていいのか,学校と人数は,違う数量じゃないかと,文句を付けるわけにもいきません。「×1」が,校数を人数に変換してくれるのです。