かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

8÷4ではなく4÷8~令和3年度全国学力テスト報告書より

 小学校算数および中学校数学の報告書をダウンロードして,ざっと見ました.以下は小学校算数,その中でも大問4(2)に焦点を当てます。問題文は次のとおりで,前後の小問に依存しない出題内容となっています。

8人に,4Lのジュースを等しく分けます。
1人分は何Lですか。求める式と答えを書きましょう。

 報告書のp.72,解答類型と反応率の表を見ると,式に「4÷8」,答えに「0.5」と解答しているものが55.4%,式は同じで答えが「\frac12」または大きさの等しい分数というのが0.3%で,これらが「◎」の正答です。「○」の正答(問題の趣旨に即し必要な条件を満たしている正答)はなく,残りの解答はすべて誤答となります。
 誤答の中でもっとも反応率の高かったのは,式に「8÷4」,答えに「2」と解答しているもので,36.0%です。
 報告書の中で,この出題の趣旨と,指導に当たっての注意点が,異なるページに書かれていました。図と合わせて取り出します。

 平成22年度【小学校】算数A 2(1)(正答率54.1%)において,8mの重さが4kgの棒の1mの重さを求める式と答えを問う問題を出題しており,「商が1より小さくなる等分除の場面で除法が用いられることの理解」を課題として指摘し,誤答については,「「(整数)÷(整数)」の場面では,被除数の方が除数より大きくなると考え,8÷4と立式していると考えられる。」(反応率31.1%)と報告している。設問(2)は,これに関連した問題であり,1mの重さを求める問題場面ではなく,児童にとって身近な,何人かに等しく分けて一人分の大きさを求める問題場面について,商が1より小さくなる等分除(整数)÷(整数)の場面で,場面から数量の関係を捉えて除法の式に表し,計算をすることができるかどうかをみるために出題した。
(p.69)

■学習指導要領における領域・内容
〔第4学年〕A 数と計算
 (4) 小数とその計算に関わる数学的活動を通して,次の事項を身に付けることができるよう指導する。
  ア 次のような知識及び技能を身に付けること。
   (エ) 乗数や除数が整数である場合の小数の乗法及び除法の計算ができること。
 (内容の取扱い)
 (5) 内容の「A数と計算」の(4)のアの(エ)については,整数を整数で割って商が小数になる場合も含めるものとする。
(p.71)

 除法の場面では,何が被除数で,何が除数かを捉えて立式することができるようにすることが重要である。
 本設問で8÷4と解答した児童は,除法が(大きい数)÷(小さい数)であると捉えていたり,問題文に示されている数値の順序通りに立式したりしていると考えられる。
 指導に当たっては,例えば,本設問を用いて,8人に4Lのジュースを等しく分けるということを,4Lのジュースを8人に等しく分けると言い換えたり,4÷8=0.5という立式の理由を解釈する場を通して,問題場面に対応した式について話し合ったりする活動が考えられる。その際,具体物を操作したり,下の絵や図のように表したりしながら,「なぜ4÷8の式になるといえるのか」について理由を説明できるようにすることが大切である。

 また,8÷4=2の式を扱う際は,「(大きい数)÷(小さい数)をしたのではないでしょうか。」や「8人に4Lを分けるときに8÷4=2の式になりますね。」*1などと,8÷4と立式した背景を想像し共感的に受け止めながら,問題場面を適切に理解し,数学的に表現できるようにすることも大切である。
(p.73)

 この問題について,算数授業研究136号に,反応率が公表されていない状況での解説と指導の提案が,書かれていました。

 該当箇所は,p.15の右カラムで,執筆者は,国立教育政策研究所の笠井健一氏です。

5 数量の関係を言葉,数,式,図などを用いて簡潔に,明瞭に,又は,一般的に表現したり,それらの表現を関連付けて意味を捉えたり,式の意味を読み取ったりすること
 ここでは,式を立てる際に使われる考え方について,解説する。
 令和3年の全国学力・学習状況調査の4(2)は「8人に,4Lのジュースを等しく分けます。1人分は何Lですか。求める式と答えを書きましょう。」という問題である。
 この問題について,数量の関係を言葉,数,式,図などを用いて簡潔に,明瞭に,又は,一般的に表現したり,それらの表現を関連付けて意味を捉えるとはどういうことだろうか。
 この問題は「4Lのジュースを8人に等しく分けて,1人分を求める問題である」と,言葉で言い換えることができる。このように言い換えることができれば,第3学年で「等しく分けて1人分を求めるときにはわり算を用いる」と,わり算の意味について一般的に表現したことを学習しているので,「4÷8」と簡潔かつ明瞭な式を立てることができる。
 正しく立式するために,この問題場面を数直線図や関係図に表すことも有効である。その場合は,かけ算やわり算の場面を正しく数直線図や関係図に表せないといけないので,かけ算やわり算の場面ではいつでも数直線図や関係図をかくようにして,かけることができるように育成しておくことが大切である。学校全体で,式を立てるときに使う図はこれにしようと統一しておくといいと思う。

 最後の段落のうち「いつでも」は「必要に応じて」のほうがよさそうに見えます。頭の中で,4÷8でよいと確証できれば,それでいいのですし,もし,「8÷4=2 答え2L…なんだかおかしいなあ」と思ったのであれば,「たしかめ」として,図にするわけです。上に貼り付けた画像の3つの図のうち,真ん中の,テープを8分割したような図に,「2L」「1L」そして「0.5L」がどこになるかを書き添えるのが,一つの案です。
 「学校全体で,式を立てるときに使う図はこれにしようと統一しておくといいと思う。」について,時期的に,令和2年度教育課程研究指定校事業研究協議会*2の進行役の経験を踏まえたものと推測できます。
 ここまで1つの文章題を見てきましたが,同じ算数の出題の中で,比較しておきたいものがあります。大問1(5),「分速540mで走るバスが,2700mを進むのに何分間かかるかを求める式を書きましょう。ただし,計算の答えを書く必要はありません。」です。報告書のp.36の解答類型によると,正答の「2700÷540」は85.2%で,「問題文に示されている数値の順序通りに立式」の「540÷2700」は2.9%です。
 とはいえこの何分間かかるかを求める式を書く問題と,ジュースの等分の問題には,違いがあります。「(大きい数)÷(小さい数)」という方略(誤概念)を用いたのであれば,大問1(5)は正解,大問4(2)は不正解となるのです。

*1:誤記と思われます。「8Lを4人に分けるときに8÷4=2の式になりますね。」に読み替えることで,話が通ります。

*2:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2021/08/25/060118, https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2021/09/02/055721