かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

小学校学習指導要領解説算数編から「抽象」の出現箇所を求める

 『小学校学習指導要領(平成29年)解説算数編』のPDFファイルを対象に,「抽象」が,どのような文脈で出現するかを,取り出してみました。
 以前の同様の当ブログ記事では,KWIC形式にしていましたが,今回は原則として段落ごとです。

 なお,小・中・高等学校を通して,数学的活動を行い,数学的活動を通して育成を目指す資質・能力は同じ方向にあるが,その数学的活動を通して,知識及び技能として習得する具体的な内容は,小学校段階では,日常生活に深く関わり,日常生活の場面を数理化して捉える程度の内容が多い。小学校段階では,数学として抽象的で論理的に構成された内容になっていない。
(p.8)

 小学校の時に具体物を伴って素朴に学んできた内容を,中学校では数の範囲を広げ,抽象的・論理的に整理して学習し直すことになる。そして,さらに高等学校・大学ではそれらが,数学の体系の中に位置付けられていく。
 以上のことから,小学校では教科名を「算数」とし,中学校以上の「数学」と教科名を分けている。
(p.9)

 また,数学的な表現を簡潔・明瞭・的確なものに高めていくと,その一方で表現自体は抽象的になる。そこで,算数の学習では,「つまり」と具体的な事柄を一般化して表現したり,「例えば」と抽象的な事柄を具体的に表現したりすることも大切である。考えたことを目的に応じて柔軟に表現することで,考えをより豊かにすることができる。こうした経験を通して,数学的な表現の必要性や働き,よさについて実感を伴って理解できるようにすることが大切である。
(p.27)

 第1学年では,一つ一つのデータを抽象的な絵で表し,それらを整理し揃えて並べることで数の大小を比較する簡単なグラフに表したり,読み取ったりすることを指導する。第2学年では,データを○や□などに抽象化して並べる簡単なグラフに表したり,読み取ったりすることを指導する。第3学年では,質的データの個数か,あるいは量的データの大きさに相当する長さの棒の長さで違いを示す棒グラフに表したり,読み取ったりすることを指導する。第4学年では,時系列データの変化の様子を示す折れ線グラフに表したり,読み取ったりすることを指導する。第5学年では,データの割合を示す円グラフや帯グラフに表したり,読み取ったりすることを指導する。第6学年では,量的データの分布の様子を示す柱状グラフに表したり,読み取ったりすることを指導する。
(pp.69-70)

 数学は,数・量・形やそれらの関係についての抽象的な構造の研究を行うといった面のほかに,現実世界の問題を数学の舞台に載せて解決する方法を提供するという一面をもつ。実際,幾何学の起源は,ナイル川の氾濫によって変形する肥沃な土地を測り,収穫される穀物の量を推測するために古代エジプト人が行った測量術にあると言われている。つまり,数学は,身の回りの事象を観察・解釈し,またそれを通して問題を解決する方法の一つなのであり,もともと実生活において身の回りの事象の仕組みを読み解くことで役に立つという側面をもっているのである。
(p.71)

 なお,このように計算に関して成り立つ性質などを用いて計算の仕方を考えることは,抽象度が高く,児童によっては分かりにくいということがある。そういう場合は,適宜,面積図などの図を用いて考えさせることも大切である。
(p.289)

  • 「商」「等しい」など,児童が日常使用することが少なく,抽象度の高い言葉の理解が困難な場合には,児童が具体的にイメージをもつことができるよう,児童の興味・関心や生活経験に関連の深い題材を取り上げて,既習の言葉や分かる言葉に置き換えるなどの配慮をする。

(p.327)

 算数科の内容は,児童にとって時に抽象的で分かりにくいということがある。例えば,式を用いて表すことはできても,表現した式を基に考えを進めることが苦手な児童がいる。指導に当たっては,おはじきや計算ブロックなどの具体物を用いた活動を行うなど,児童の発達の段階や個に応じた教材,教具の工夫が必要であることに留意する。
(p.331)

 用語・記号は,社会で共通に認められた内容を簡潔に表現し,それらを的確に用いることによって,思考が節約され,コミュニケーションの効率性が高まる。数学においては,特に記号が大きな役割を果たしている。記号は,抽象的で形式的であるだけに,操作がしやすく,しかも,より一般性をもっている。上手に記号体系を作ることにより,現実の意味を離れて形式的な操作が可能になり,思考を能率的に進めることができるようになるのである。このように,数学において用語や記号の使い方に慣れることで,思考を,より正確に,より的確に,より能率的に行うことができるようになることは,社会や文化の発展に貢献することにもつながる。
(p.332)

 一方で,算数・数学の学習の中で,数や式で説明されたことが,ある児童にとっては抽象的で分かりにくいことがある。このようなとき,数や式で説明したことについて,具体的に,具体物や図,表などを基に説明されるとよく分かるということがある。同様に,伴って変わる二つの数量の関係がある場合は,表と式とグラフの相互の関連を図ることが大切である。このように数学的な表現を用いて柔軟に表したりすることを数学的活動を遂行する上で重視する。
(p.337)

 最初の2つ(p.8, p.9)は,「算数と数学の違いは何か?」の答えを示しています。
 そのあとのいくつかでは,算数の学習や,(小学校段階の)数学的活動における,「具体」と「抽象」が書かれています。
 なお,「抽象」という二字熟語で出現することはなく,「抽象的」が9回,「抽象度」が2回,「抽象化」が1回,となっていました。

*1:URLに「2019/03/18」を含む以前のバージョンと比べて,第2学年の内容など,記載の違いは見つかりませんでした。ただしフォントが変わっているようで,ファイルサイズが小さくなっています。