かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

式の順序を固定するか否かの見解を,日野市教育委員会で審議

 令和3年(2021年)2月8日の定例会では,請願審査として「第2-2号 かけ算の文章題において、式の順序を固定するか否かの見解を、その理由とともに誰でも見える形で公開してほしいに関する請願」というのが入っていました。
 この審議の状況(議事の要旨)は,pp.3-8に書かれています。受付年月日は同年1月12日,請願者の住所・氏名と,請願の要旨は「(議案書に)記載の通り」で,この文書から知ることはできません。
 流れは,かけ算について,委員の一人が求めた「学習指導要領での進め方や市内の市内の小学校での指導方法について説明」を教育部参事が行い,他の委員がおおむねその説明に沿った意見を述べてから「不採択」を表明し,2人の委員も「不採択」,教育長も「不採択」で,異議なしとなり,「請願第2-2号については、不採択とすることに決しました。」で審議が終わりました。
 意見の中でもっとも充実しているように見えたのは,最初に不採択を述べた西田委員です。抜き出します(pp.6-7)。

[西田委員]
 その時間の学習は、指導者が単元全体の学習指導計画に基づいて、児童・生徒の実態にあわせてどのような目標をもって、どのような内容を、どのような方法で進めていくか、その評価はどうするのかを考えて、計画的に行われるものです。学習のどの段階で何を重視するか、どう評価するかは学習計画によるものです。ただいま参事が説明されました、繰り返しになりますが、学習指導要領では第2学年の算数については、数と計算の領域において、「乗法に関わる数学的活動を通して、次の事項を身に付けることができるよう指導する」こととしていくつかあげられていますが、最初の2つ、
(ア)乗法の意味について理解し、それが用いられる場合について知ること
(イ)乗法が用いられる場面を式に表したり、式を読みとったりすること
があります。すなわち2学年では生活の場面から、同じ数を何度も加えると間違いやすく、面倒なことに気付いて、解決するための便利で簡単に計算する方法があること。それをかけ算という記号と呼び名があるという事を学びます。数のまとまりに着目して「一つ分の数」と「いくつ分」が分かれば、全部の数が把握できること。
「一つ分の数」×「いくつ分」=「全体の数」と書くことを学びます。そして式を作ったり式を読み取ったりする学習活動を行います。この段階では被乗数と乗数の順序に約束があることや、その良さを理解するところですから、順序がどちらでもよいとすると、子供は混乱します。しかし場面によっては被乗数と乗数の順序はどちらにしてもよいことがある、そのことを学びます。例えば靴箱の数などです。
 かけ算の学習が進めば、学習の計算の結果を求める場合には交換法則を必要に応じて活用して、被乗数と乗数を逆にしてもよいことを学びます。これらのことは学習指導要領の解説・算数編に詳しく書かれています。また解説には海外在住経験の長い児童にあたっては、表す順序を日本と逆にする言語圏があることに留意することも述べられています。
 すなわち学習活動は、学習指導要領に則り学習指導要領の解説を参考にし、教科書を使用して指導者の計画を基に児童の実態に合わせて行われるものであり、かけ算の文章題において式の順序を固定するか否かについて教育委員会が見解を述べる必要もなく、教育方針として統一を図るものでもないと思います。
 よって採択は不採択と考えます。

 教育行政に関わる立場による,小学校2年で学ぶ「かけ算」の見解として,なるほどと思いました。
 ともあれ,小さな(この意見に反論する意図でない)ツッコミをしておきます。「しかし場面によっては被乗数と乗数の順序はどちらにしてもよいことがある、そのことを学びます。例えば靴箱の数などです。」は,議事の要旨とはいえ何のことか分からない人がいるかもしれません。当ブログでは昨年秋に2つの場面と1つの場面:事例整理で整理しました。「どちらにしてもよいことがある」は,「積の場面では,そこから1つ分の数といくつ分のペアを自分で決めて,かけ算の式に表したり,他の児童が表したかけ算の式の読み取りを行います。」が関連します。
 終わりの一つ前の段落のうち「児童の実態」について,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』のPDFファイルを検索すると何度か出現しますが,むしろ見るべきなのは(解説のつかない)小学校学習指導要領の総則のほうです。


 この議事録要旨では,2件の請願審査がともに「不採択」となっています。内容面の説明や意見交換の中に,請願要旨の書かれ方を,不採択の理由に挙げるくだりが,どちらにもありました。いずれも発言者は「髙木委員」で,p.1のリストによると議事録署名委員の髙木健夫氏が合致します。

私も本請願は不採択と考えております。理由についてですが、1つ目には本請願は学校教育現場での具体的な発生事例に基づくものではなく、請願者の持論として請願要旨の冒頭で示しているように、かけ算の式はどのような順序になっても正当として扱うべきと考えていることを主張するためのものであること。(p.7)

2つ目として請願要旨のなかで、32ページの再下段になりますけれども、無自覚に人命を軽視して云々とありますけれども、具体的な根拠はなく、請願者の主観による一方的な主張であること。(p.10)

 請願に対する審議は,インターネット上における文字や画像などを使用したやりとりや,卒業論文などにおいて発表して質問に答えるといった形態と,異なるというのを,知る機会となりました。