かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

小学校の外から見た,割合の問題

 小学校の「割合の問題」で,思い浮かぶのは,0.4といった「基準量の何倍か」を求めるものであり,出題によっては「40%」「4割」のように百分率や歩合で答えを書くことになります。
 人口密度や速さに関連する,「単位量当たりの大きさ」は,「異種の二つの量の割合」として,とらえることもできます。「同種の二つの量の割合」という表記は,学習指導要領に出現しませんが,単に「割合」と書かれます。
 「1」「A」「B」「p」が割り当てられた二重数直線においてB×p=Aという等式が成り立つとき,pが割合に対応します。この「p」は,「1」と同じ数直線上の値であり,「何倍か」を意味します。

 先月購入した本です。

 問題1「しこう・すいり」Grade Ⅰ(p.174)について,1年生向けの1個の文章題にしては字数が多く,情報過多(ルディの発言のうち「4にん」は使用しない)であるとともに,「基準量が後に示された問題」となっていました。
 また書名に「読解力」が入っていて,国語との連携もうかがい知ることができました。「表現力」を含む文章を抜き出します(p.129)。

 子どもの言う感想や意見が、たとえ大人が準備した正解の通りではなくても、子どもがどんどん自分の考えを話し、人の意見も聞くという授業を展開してほしいと思います。
 「表現力」が大切なのは間違いないのですが、なんらかの型にはめ込もうとはせずに、子どもに自由な表現をさせつつ、子ども自身が自分の考えと他人の考えとの違いや共通点を見いだしながら、それぞれの個性によって自由な表現力を身につけていくようにしてほしいと思っています。

 ただ,算数の指導として本書を読むのは,実のところ,スムーズにはいきませんでした。2番目に引っかかった事項から紹介すると,「かけ算と式の順序」と題する,pp.139-140のところです。ここでの「式の順序」は,かけられる数とかける数の順序のことではありません。本文から抜粋すると,「最初に教えるべきなのはかけ算の意味」「玉井式算数方式では、九九を覚える前に、かけ算の意味を考えつつ、計算式を解く学習をします」とあります。とはいえ教科書や他の書籍を読めば*1,第2学年で「乗法の意味」を指導することになっていますし,九九の各段は「かけ算の意味」よりあとです。また「6×□=6×10+6×4」(p.139),「100×□-100×35=100×50」(p.140)といった式に対して,「玉井式の塾生たちは、小学校2年生の段階で九九の暗記前に解くことができます。」(同)と述べていますが,これは先取り学習であって,小学校では,第4学年で学ぶことになる「乗除先行」---6×10+6×4=60+6×4=66×4=264ではない---と合わせて,式の理解を指導します。

 それでやっと,本題(1番目に引っかかった事項)です。本書では「8人に、4Lのジュースを等しく分けます。1人分は何Lですか。求める式と答えを書きましょう。」という,令和3年度の全国学力テストの算数で出された文章題を,「はじめに」(p.5)や,本の「そで」などにも記載しています。「小学6年生の約半数、およそ50万人が間違えた問題」と紹介し,誤答の状況や,その対策を示すのはいいのですが,本文の見出しに,びっくりしました(p.24)。

 「割合(わり算の意味)」に,大きな違和感を持ちました。「割合」を求める問題でも,「割合」に位置付けるべき問題でも,ないのです。
 この問題の特徴を一言で表すなら,報告書のp.71に書かれた「商が1より小さくなる等分除(整数)÷(整数)の場面」です。国内に限った話ではなく,例えばFischbein et al. (1985)でも,同じ特徴を持つ文章題の正答率が低くなっています*2。商の大小を無視すると,Greer (1992)の分類表*3において,Equal measuresとDivision (by multiplier)の交わるところとなります。
 なぜ「割合」ではないのかというと,このジュースの文章題は,4年のときに学ぶ知識で解けるからです。実際に報告書では(p.71; 1年前の記事),学習指導要領における領域・内容として,第4学年Aの項目を示しています。第4学年で学ぶ「割合」は,「2,3,4などの整数で表される簡単な場合」に限定され,本問は異なります。「比べる量÷もとになる量=割合」(『玉井式 公式にたよらない「算数的読解力」が12歳までに身につく本』p.153)という言葉の式に当てはめたとしても,「割合」に該当するのは8です---0.5Lの8倍が4Lなので。割合を求めようというのも,割合の概念を活用しようというのも,意図されていないのです。
 『玉井式...』の本において,p.24の一つ前は「割合」だけが書かれた見出しのページです。そのあとは,「割合(わり算の意味)正答率55.7%」(p.24),「割合(速さ)正答率56.0%」(p.26),「割合(わり算の意味)正答率47.1%」(p.28),「割合(単位量あたり)正答率63.2%」(p.30),「割合(単位量あたり)正答率66.9%」(p.32),「割合(単位量あたり)正答率65.5%」(p.34),「割合 正答率40.1%」(p.36)です。
 このうち,「速さ」は,「異種の二つの量の割合」と解釈することもできますが,2つの「割合(単位量あたり)」の問題は,「乗数や除数が小数である場合の小数の乗法及び除法の意味」のほうが近いと言えます。
 その一方で,直接的に「割合」を問うものが,含まれていません。全国学力・学習状況調査(小学校・算数)【平成30年度(2018年度)Aの問題8】の「小学校の人数は,集まった子どもたちの人数の何%ですか。」で,https://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/report/data/18pmath_04.pdf#page=34には「割合」の見出しがあるほか,正答率は53.1%です。

 小学校の外の者から見た,間違えやすい文章題への対策として,問題文を適切にイメージすること,類似した問題と比較することのほか,正答率を低くする要素に注意をしながら,「自分を信じて解く」こと,そして自分を信じられるよう普段から学習し(学校・塾の)先生から良いフィードバックを得ることを,ここに提案します。
 「類似した問題と比較」について,上記のジュースの問題なら,「8人に、4Lのジュースを等しく分けます。1人分は何Lですか。」と「8Lのジュースを、4人で等しく分けます。1人分は何Lですか。」を並べて比較検討しよう*4,そうすれば,後者は8÷4で前者は4÷8になるのが確認できる,ということです。2年のかけ算の意味*5のほか,3年の余りのある除法の扱い(商のままでよいか,1加えるか*6)にも見られます。