かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけ算問題のレコメンデーション

 「レコメンデーション」とは,「おすすめ」「推薦」のことです。「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」と同様の文章題を見かけて,小学校ではどのような授業やテストを実施しているのかという問題意識を持った方々に,ぜひ読んでほしい,出題・授業の事例と情報源をいくつかお知らせします。

出題例1. 8mで4kgの棒

8mの重さが4kgの棒があります。この棒の1mの重さは何kgですか。求める式と答えを書きましょう。

 平成22年度 全国学力・学習状況調査 小学校算数A 大問2 (1)の問題です。正解となる式は4÷8です。答え(解答用紙に単位が書かれているので,数値のみ)は「0.5」「\frac12」「\frac48」などが正解です。
 この3年後の全国学力・学習状況調査では,中学校数学で,8と4をそれぞれaとbに変更し,1mの重さを文字式として表す問題が出題されました。また1985年に出版された海外の論文にも,"12 friends together bought 5 kg of cookies. How much did each one get?"(12人の友達が共同で,5kgのクッキーを買った。1人につきどれだけもらえるか。)という出題があり,他の文章題と比べて正答率が低くなっていました。

出題例2. L字型アレイ

 東京都算数教育研究会(都算研)が実施・公表している学力実態調査からです.上記は平成22年度実施分の抜粋です。24年度,26年度,30年度,令和3年度にも同様の出題があります。正答率も公表されていて,完答(2つの適切な求め方を書く)は70%前後,1問正答は10%ほどとなっています。
 正解となる式は,2つでなく,もっとあります。都算研の学力実態調査では,第1学年で,「□-□=9」となるような式を2つ解答するという出題もあります。
 公表されている解答例では,かけ算の式は「縦×横」で統一されているように見えます。ただし教科書や書籍では,横方向にまとまりを作って1つ分としている事例もあります。この問題で「1×30」や「30×1」は「乗法の式になっているが数えていると考えられるので、正答としない。」というのが,集計用紙(Excelファイル)に記載されていました。

出題例3. 7×2.4の作問

7×2.4の式で求められる問題を1つ作りましょう.ただし,(略)面積を求める問題はのぞきます.今まで学習してきたことを思い出して考えてみましょう.(式・答えは書かなくてよい.)

 以下の文献の問4です。個人的には有償のものをダウンロードしましたが,現在は無料でPDF文書をダウンロードして読むことができます。

 式を提示してそれに合う問題を作るのは「作問課題」と呼ばれます。
 解答分類,正答率,解答の詳細については,p.5以降に書かれています。狭義の正答(◎)となる「正しく問題をつくれたと判断するもの」は13.2%,準正答(○)を入れた「おおよそ正しく問題をつくれたと判断するものを含めたもの」は21.0%です。
 ここの解答分類には,誤記が見られます。具体的には,p.5右カラムの「②.7×2.4」は,「②.2.4×7」が正しく,eとfの中のかけ算の式も同様に読み替える必要があります.eに該当するものが23.5%で,「おおよそ正しく...」の総数よりも多くなっています。
 「正しく問題をつくれたもの」に該当する解答として,「1m7gのビニールひもがあります.さて,2.4mだと何gでしょう.」を,また2.4×7になる解答として,「2.4mのリボンが7本ありました.それをぜんぶつなげると何mになりますか.」を,それぞれ例示しています.ビニールひもの問題を,式に表して計算するのは,現在でも,5年の学習*1です。それに対し「2.4mのリボンが7本」の件は,2.4+2.4+2.4+2.4+2.4+2.4+2.4と考えて,図に表したり計算したりすることができ,これは4年の学習*2となります。

授業例1. 対角線の長さが8cmの正方形の面積

  • 大野桂(編): 「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント), 学事出版 (2017). [isbn:9784761922955]

 算数で連続量 (2019.05)より,抜粋します.

 4年の「面積の求め方」の単元です(pp.60-63)。4cm×8cmの長方形と,対角線の長さが8cmの正方形を横に並べ,先生は「どちらの面積が大きいですか」と問います。

 子どもらが,正方形の一辺の長さを測ると,5.6cmと5.7cmの間です。
 mmに直せば,4年でも,面積が計算できます。56mmだと,56×56=3136㎟,57mmだと,57×57=3249㎟で,長方形の面積(3200㎟)は,その間になります。
これは意図的なもので,p.61には「実際は、1辺を4\sqrt2cmとしているため、5.656…cmである。」と,根号を含む表記も見られます。
 三角形やひし形の面積は,まだ学習していないものの,先生のヒントにより対角線の長さが8cmであることを子どもらは知ります。図形を切って貼って,1辺の長さが4cmの正方形を2つ作り,最終的に,面積は32㎠となることを,導いていました。
 この授業から,平方根無理数の概念を,子どもたちが学んだわけではありません。\sqrt2を取り入れ,定規できちんと測れない長さの図形を用意したのは,先生による「作為」です。その作為を乗り越え,面積を求めることができたという経験が,授業としては大事なところです。そして切り貼りしても面積は変わらないこと(量の保存性)や,1cm=10mmだけれど1㎠≠10㎟であることなど,小さなポイントも,見逃すわけにはいきません。

授業例2. 2つの式が違った場面を表すのに使えないって言うのですか?

  • Chapin, S. H., O'Connor, C. and Anderson, N. C. (2009). Classroom Discussions—Using Math Talk to Help Students Learn, Grades K-6, Second Edition, Math Solutions. [isbn:1935099019]

 シュスター先生の授業~かけ算の順序と交換法則より抜粋します.

7. Mrs. S: OK, so we have two different ideas here to talk about. Eddie says that order does matter, because five times two and two times five can each be used to describe a different situation, like two bags of five apples or five bags of two apples. So the two number sentences mean different things. And Tiffany, are you saying that those two number sentences can't be used to describe two different situations?
〔7. 先生:分かりました.ここまでの発表で,2つの違った考えが出てきましたね.エディさんは,順序は重要だと言いました.なぜなら2倍の5と5倍の2は,「5個入りのリンゴが2袋」と「2個入りのリンゴが5袋」のように,それぞれ違った場面を表すのに使えるからです.それで(かける数とかけられる数を入れかえた)2つの式は異なるものを表すのですね.さてティファニーさん,あなたは,そんな2つの式が違った場面を表すのに使えないって言うのですか?〕

 「5個入りのリンゴが2袋」と「2個入りのリンゴが5袋」を区別して発表したエディに対し,ティファニーは「リンゴの数は同じ」と指摘したあと,教師がそれまでの発表内容を整理しています.そこでティファニーに対し,"those two number sentences can't be used to describe two different situations"〔そんな2つの式が違った場面を表すのに使えない〕と問います。「同じ」と考えると,2×5と5×2を使い分けられないという,不自由さを示唆している発問です。なお,原文ではcan'tが(1から11まで振られた発言の中で唯一)斜体字になっています。

補足

 本記事冒頭の「さらが 5まい...」は,https://togetter.com/li/68853の前文の画像で見ることができます。関連する出題などは以下をご覧ください.

*1:「乗数や除数が小数である場合の小数の乗法及び除法の意味について理解すること。」https://jp-cos.github.io/825/0253131100000

*2:「乗数や除数が整数である場合の小数の乗法及び除法の計算ができること。」https://jp-cos.github.io/825/0243141400000