かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

うさぎの耳の有意味学習

 『授業に学び授業を創る教育心理学 第2版』のpp.125-126より書き出します。

 麻柄もコメントのなかで述べているように,ふつう教師は「1当たり量×いくつ分なのだから,1ぴき当たりの耳の数を先に書かないといけないのだ」と指導することだろう。そして,5×2と立式した子どもは,自分の立式が間違いであり,2×5という立式が正しいことを知るだろう。しかし,それでは藤野学級の子どもたちのように立式の意味の違いは認識できず,ただそのように書くものだと記憶することになるかもしれない。つまり,機械的学習の危険性があるのである。それに比べ,藤野学級の子どもたちは,「5×2のうさぎは耳が5本もあるおばけうさぎだ」ということをおもしがっている。これは5×2という立式から導かれるうさぎの耳の数(5本)を,「うさぎの耳は2本だ」という当たり前の既有知識と関連づけて考えていることの証拠であろう。もし子どもたちが既有知識と関連させず,「うさぎの耳はいくつあってもいい」と考えるのだったら,耳が5本のうさぎは例外的なうさぎにはならないし,その絵も子どもたちにこんなに喜ばれなかったことだろう。ともかく,ここでは,(ア)うさぎの耳の数という誰もが知っている教材を用い,しかも(イ)5×2が意味する「うさぎの耳の数の例外性」に関する子どもの指摘を拒否せず,(ウ)絵にして明確に示すことで,立式の違いを意味あるものにしているといえるだろう。そして,このような一連の教師の行為が,子どもたちのかけ算の学習を彼らにとって有意味なものにしているのである。

 麻柄・藤野という人物名については,この授業実践の出典として「(8) 藤野敬子「2×5か5×2か? (かけ算の導入)」麻柄啓一『にしちば通信』No.3, 1985年, pp.2-4」がp.133に挙げられています。この書誌情報は,https://www2.sed.tohoku.ac.jp/~edunet/annual_report/2011/11-06_miyata.pdfにも見られます。「機械的学習」と,その対義語となる「有意味学習」については,有意味受容学習とは - コトバンクをご覧ください。
 授業の内容は,pp.123-124にゴシック体かつ本文より少し小さいフォントで書かれているのですが,「5×2だと,耳が5本のうさぎが2ひきいることになる。」が,Cすなわち児童の発言となっています。そのあと,耳が5本でヒゲをはやした生き物の絵があります。
 関連する授業事例として,真っ先に思い浮かぶのは,asahi.com(朝日新聞社):2×8ならタコ2本足 - 花まる先生公開授業 - 教育*1です。ここでは,「ウサギが3羽います。」から始まる問題場面において,教師が事前に用意していた*2「耳が3本生えたウサギ」をパネルに貼り付けて,子どもたちに衝撃を与えています。
 『教育心理学』と比較的近い時期の出版物で,同様に図示しているのは,『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』p.46の図のうち,「五輪車が4台」のところです。この事例も,「耳が5本もあるおばけうさぎ」も「耳が3本生えたウサギ」も,理由の分類の2017年5月の画像のうち【B-3】と関連します。なお,順序の強制か,意味の理解かには,「五輪車が4台」を含む書籍の該当箇所のほか,2010年代の出版物へのリンクや,【B-4】にあたる解釈を示しています。その解釈を,『教育心理学』p.124で読むことのできる授業に当てはめると,「5×2の答えは,うさぎ10ぴきになってしまう」となります。
 【B-3】も【B-4】も,【B-2】に示した,かけられる数とかける数を交換した2つのかけ算の式は,「答えは同じでも,意味は異なる」ことに基づいています*3朝日新聞の記事には「でも、意味は全然違うよ。」,『教育心理学』には「意味がちがっちゃうね。」が,それぞれ先生の発言として書かれています。
 当記事をここまで読んでいただいた方の中で,かけ算の「既有知識」を,交換法則をベースにした「2×5と5×2,2×3と3×2,4×5と5×4はそれぞれ同じものを表していること」と認識しているのであれば,算数ではそれらのペアのかけ算の式は「答えは同じでも意味が違う」ことを重視している,ということになります*4。また,一つの場面を表す式としてa×bもb×aも認められる事例が,教科書などに載っています*5

*1:ブラウザで表示させると乱れるという方は,https://takehikom.hateblo.jp/entry/2022/07/22/004650に対処法を書いていますのでご活用ください。

*2:藤野学級の「耳が5本のうさぎ」の絵は,児童の発言を受けてその場で教師が描いたものと思われます。

*3:ここの「意味」は,有意味学習のそれとは異なります。「式の意味」であり,(解説のつかない)小学校学習指導要領の中ではhttps://w3id.org/jp-cos/8250223131200000が最も関連します

*4:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/06/21/060837, https://takehikom.hateblo.jp/entry/20151121/1448031600

*5:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/06/18/060630, https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2021/10/31/060639