かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

面積は,縦×横,かける4

 長方形の面積をもとにかけ算の順序を考える実践事例がpp.54-56に載っていました*1。第4学年「面積」の授業です。なお,以下の図はすべて同書の内容をもとに独自に作成したものです。
 式を立てて求めるのは,以下の赤線で囲まれた長方形の面積です。

 1マスが2cm×2cmになっている点に注意が必要です。
 容易に思い浮かぶ求め方は,2通りあります。一つは,長方形の面積の公式,「縦×横=面積」*2に,この図形の縦と横の長さを求めて適用します。縦はこの場合2×2=4cm,横は2×3=6cmですので,面積は4×6=24,答え24㎠です。一つの式で表すなら,(2×2)×(2×3)=24となります。
 もう一つは,この赤の長方形が,2cm×2cmのマスが2×3個で構成されていることに基づく求め方です。式は(2×2)×(2×3)=24で…先ほどと同じ式になりました。単位を添えて書くと,2つは「(2cm×2)×(2cm×3)」「(2cm×2cm)×(2×3)」と,異なってきます。
 授業で焦点が当てられたのは,「2×3×4」という式です(p.54)。「T:どんな式でもとめた?」「C1:2×3×4だと思います。」「Cs:少し違うと思う!」と,教師と子ども達の間でやり取りをします。ペア活動のあと,「C3:だって、4㎠のマスが、縦に2つあって、そのかたまりが横に3つあるから、4×2×3だと思う。」という発表があり,これは先述の2番目の求め方と同じと言えます。
 その後,「最初の式で求められるよ!」「2×3×4で考えた。」と言う子どもが現れます。他の子どもが「わかったかもしれへん!」と言い,板書した内容(p.55)から主要な箇所を取り出すと,次のようになります。

 求めたい長方形の右下に,2cm×3cmの長方形をとります。もちろんこの面積は2×3=6㎠です。そのような長方形が4つで,求めたい長方形になり,したがって面積は2×3×4=24で求められる,という考え方です。
 同書では「決まり切った答えしか知らない大人では、到底思いつかない見方・考え方であった。」と記されていますが,数学的には,相似比と面積比で説明がつきます。青の長方形と赤の長方形の相似比は1:2で,面積比は1:2²=1:4です。ですので,赤の長方形の面積=青の長方形の面積×4=2×3×4が得られる次第です。マスの1辺の長さがa cmなら,赤の長方形の面積は2×3×a² ㎠で表せます。
 とはいえこんなことを,4年の面積の授業の中で言うわけにもいきません。なお,現行の学習指導要領のもとでは,相似比・面積比は中学3年の数学で学習します。また拡大図・縮図については,小学6年の算数で,「地図上の長さから実際の長さを計算で求めさせたりする活動」というのが『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』に例示されていますが,面積についての言及はありません。
 『◯◯を愉しんでいたら子どもが前を歩いていた算数授業』に話を戻します。読み進めると,「最初の式で求められるよ!」「2×3×4で考えた。」と言った子どもの考え方は,上とは「少し違う考え方」でした。板書(p.56)から情報を読み取りにくいのですが,連想したのは,下記で紹介した,「4年1組45名で,こう堂にいすをはこんでいます。1人が1こずつ4かい運ぶと,みんなでいすは,なんこ運ぶことになるか。」の出題です。

 「×4」を,「×4㎠」と別の見方にするには,例えば次のように青で囲みます。

 この青で囲った部分の面積は,2×3=6と表せます。単位をつけて表すと1㎠×2×3=6㎠です。それぞれの青の正方形を,右方向にも下方向にも2倍に拡大すると,赤の長方形とぴったりとなり,右下に2cm×3cmの長方形を囲むのと異なるアプローチで,同じ式2×3×4=24により,求めたい図形の面積になるという次第です。

*1:タイトルは「「教師もわからないこと」を愉しんでいたら子どもが前を歩いていた算数授業 第4学年「面積」」で,執筆者は辻井茂克氏です。

*2:「横×縦=面積」でも求められることに基づき,より多くの式で表そうという考え方は,本書に見られません。