かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

1980年出版の,乗法の意味の指導について

 中島健三の文献のURL*1を知るため「乗法の意味の指導について」を検索していたときに,,ヒットしました。ダウンロードしたところ,全3ページで,参考文献はありません。
 1980年ということで,教科書は「累加」から「1つ分の数×いくつ分」にシフトする前の内容と思いきや,「1つ分(もと)の大きさ」「いくつ分」「全体の大きさ」といった表記が最初のページに含まれており,またp.17には「1つぶんの数×いくつぶん」が箱で囲まれています。意味づけとしては,今の教科書の「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」や,小学校学習指導要領解説算数編*2の第2学年で解説されている乗法の内容と,同等とみなしてよさそうです。累加が読み取れるのは,p.15左カラム下段のみで,これについても,「2×4」と式を立てたあとに,どのようにして計算すれば「8」が求められるかという流れの中での計算です。
 もう一点,特筆したいのは,「1あたり」が出現しないことです。数量のとらえ方は,「2本の4ばい」「3本の5つぶん」「14のまとまりの3つぶん」(以上p.15),「3cmの5ばいの長さ」「1はこのかずの5つぶん」(以上p.16)となっています。
 「順序を問う問題」は見当たりませんでした。また一つの場面にa×bとb×aの両方が出現するのは,pp.15-16の「ご石」の事例のみでした。
 考察で最も興味深かったのは,(5)でした(p.16)。

(5) 例7において,立式して掛けることの意味を言葉で表す際に, 13×5の5を「はこのかず」ととらえ,問題の数から抜けきれない児童がいた.そこで,「13×5の×5ってどんなこと?」と問うことにより,13の5つ分とか,13の5ばいを導き,乗法を“1つ分の大きさのいくつ分(~ばい)の大きさをもとめる計算”としてまとめた.

 該当の文章題は『①えんぴつが13本ずつ5つのはこにはいっています.みんなでなん本ですか.』で,5を「はこのかず」と捉えた立式として,「13本/はこ×5はこ=65本」が考えられます。当該文献の実践授業では,そのような式の書き方・読み方を採用しなかった,というわけです。
 「13×5の×5ってどんなこと?」と,教師の側から問いかけているのも,見逃すわけにいきません。「13」と「×」と「5」,ではなく,「13」と「×5」に分けて,「×5」の意味を尋ねています。個人的に「×数」の書き方を学ぶのは4年が最適と認識していますが,2年生向けでも有効だったというのです。
 なお,文章題では「5つのはこ」または「5はこ」であっても,「5ばい」になるという,かけ算の考え方は,かけ算の構造,スカラーで紹介しています。この考え方を,誰が発明したと探そうとするのは困難であり,国内外の初等教育の「かけ算が用いられる具体的な場面」を整理・分類することで容易に得られる「構造」であると考えるのが自然です。

*1:https://doi.org/10.32296/jjsmep.50.2_2

*2:出版年は限定することなく,2つ前の解説から現行までについて当てはまります。