かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

姑息手段

 このp.200(コマ番号110)には,「分数に於ける姑息手段」と題した話があります。主要な箇所を取り出します。

掛け算の場合の困難は,種種工夫して遂に掛けると云ふ言葉の意味を変へて,掛けると云ふは一を土台として乗数を得るために行ふものと同じ計算を被乗数に行ふものであると箇様に其意味を変へえたのです(略)

所が若し此解釈が正しいものならば数の範囲が段段と広くなつても何処迄も当嵌まるなければなりませぬ,然るに此れは一歩進むと最早当嵌まらなくなります,手近い一例を申しますれば既に無理数の所で当嵌まりませぬ,唯一例を以て次にこれを説明致しませう
ここに\sqrt3\sqrt2を掛けて積を求むるものとすれば御存知の如く\sqrt6と云ふ積が得られませう,然るに試みに只今申しました様な掛け算の意味を当嵌めると,先づ第一に此乗数の\sqrt2は1を土台として如何にして求めたかと云ふと,1を二倍して其平方を取るのでせう,故に此意義によりて前の掛け算をやりますと,\sqrt3\times\sqrt2\sqrt3を2倍して2\sqrt3とし,其平方根\sqrt{2\sqrt3}は求むる所の積なりと云ふこととなりまして,即ち其誤って居ることは一目瞭然でせう(略)

 分数のかけ算のはずなのに無理数が出てくるのは,気になりますが,「一を土台として乗数を得るために行ふものと同じ計算を被乗数に行ふもの」という意味では都合が悪い例として,持ち出したと,とりあえず判断しました。
 関連情報を探してみました。同時期に書かれた算術の本で,手に取ったのは,高木貞治の『新式算術講義』です。

新式算術講義 (ちくま学芸文庫)

新式算術講義 (ちくま学芸文庫)

第五章 分数,(五)分数の乗法及除法について書かれた,p.131の脚注に,上の意味づけではよくないことが,無理数を交えて,記されていました*1

12) 乗法の定義を次の如く言ひ表すは不正確なり.aにbを乗ずるは1よりbに達すべき手続きをaに施こすなり.例へば\frac{2}{3}\frac{1+1}{1+1+1}a\times\frac{2}{3}\frac{a+a}{a+a+a},又2=\sqrt1+\sqrt1a×2\sqrt{a}+\sqrt{a}.上述の定義を完全ならしめんと欲せば次の如く之を修正すべし.1より倍加及等分によりてbに達すると同様にしてaより倍加及等分によりてabに達す.これは勿論正し,然れども亦平凡なり.bが無理数なる場合には斯の如き定義は用に堪へず.要するに,これ数の観念の明瞭ならざりし時代の遺物なり.

 1904年に刊行されたものですから,「分数に於ける姑息手段」やそれまでの状況を踏まえたものと認識して良さそうです。
 「倍加」は今でいう「整数倍」,「等分」は「整数で割ること」ですが,「1よりbに達する」「aよりabに達する」に関しては,「有限回の操作で」が,暗黙の了解事項なのでしょう。無限回の操作が許されるなら,例えば連分数を用いて\sqrt2が得られます。
 『新式算術講義』では,第八章(量の連続性及無理数の起源)にてデデキント切断を取り入れながら無理数を定義し,続く第九章(無理数)で加減乗除を定めています。かけ算の定義では,第五章と同じ比例式を用いていますが,文字のとる範囲が異なるという点で,異なる演算となっています。
 ここまでを書く契機となったツイートは以下の3つです。

 さて,現在の算数で,無理数の存在にも注意しながら,どのようにかけ算の意味を決めたり活用したりするか,と意識を切り替えると,思い浮かぶ論文が1つ,本が1冊あります。論文は,以前から[中島1968b]と書いてきたものです。念のため,書誌情報は次のとおりです。

 ただしそこでは,かけ算の意味をこのようにすれば,無理数にも適用できる,と主張しているわけではありません。「\pi\times\sqrt2」という,かけ算の式は,アメリカの雑誌における論争を取り上げる中で出現します。
 有理数を対象とした,かけ算の意味づけは,次のとおりです(p.76)。

 b) 小数・分数(有理数)の場合に,どんな意味づけをするか.
 累加の考えの問題点は,周知のように,整数の場合でなく,乗数が有理数の際に起こる.わが国の場合は,累加という考えをそのまま用いないで,次のような意味に一般化(拡張)する方法をとっている.すなわち,
 A×Bについて,A,Bを次の意味に対応させる.下の図では,A×Bは,Bの目盛に対応する大きさをよみとることに当たる.
  A……基準(単位)とする大きさ
  B……Aを単位とした測定数(measure)
f:id:takehikoMultiply:20170407053957j:plain
 これは,割合の考えともいわれているが,A×BはAという単位量のスカラー倍(Bに比例して拡大縮小した大きさ)を表すという考えである.

 上記は『新式算術講義』の「1より倍加及等分によりてbに達すると同様にしてaより倍加及等分によりてabに達す」と合致します。「倍加及等分」は,「拡大縮小」です。
 中島による公開授業は,『小数・分数の計算 (リーディングス 新しい算数研究)』p.84より読むことができ,そこではじめに出現するかけ算の式は120円×3.4です。上記と同じ考え方で,小数の乗法における意味の「拡張」が,小学校学習指導要領解説算数編にも記載されています。
 「Bの目盛に対応する大きさをよみとる」や「測定数」といった表記から,Bに無理数がくる(例えば測定数が\sqrt2になる)というのは,算数において非現実的だと言えます。ですが,そのことを取り入れた授業例が,最近出た次の本に収録されていました。

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

「資質・能力」を育成する算数科授業モデル (小学校新学習指導要領のカリキュラム・マネジメント)

 4年の「面積の求め方」の単元です(pp.60-63)。4cm×8cmの長方形と,対角線の長さが8cmの正方形を横に並べ,先生は「どちらの面積が大きいですか」と問います*2
f:id:takehikoMultiply:20170407053932p:plain
 子どもらが,正方形の一辺の長さを測ると,5.6cmと5.7cmの間です。
 mmに直せば,4年でも,面積が計算できます。56mmだと,56×56=3136㎟,57mmだと,57×57=3249㎟で,長方形の面積(3200㎟)は,その間になります。
これは意図的なもので,p.61には「実際は、1辺を4\sqrt2cmとしているため、5.656…cmである。」と,根号を含む表記も見られます。
 三角形やひし形の面積は,まだ学習していないものの,先生のヒントにより対角線の長さが8cmであることを子どもらは知ります。図形を切って貼って,1辺の長さが4cmの正方形を2つ作り,最終的に,面積は32㎠となることを,導いていました。
 この授業から,平方根無理数の概念を,子どもたちが学んだわけではありません。\sqrt2を取り入れ,定規できちんと測れない長さの図形を用意したのは,先生による「姑息手段」です。その作為を乗り越え,面積を求めることができたという経験が,授業としては大事なところですが,切り貼りしても面積は変わらないこと(量の保存性)や,1cm=10mmだけれど1㎠≠10㎟であることなど,小さなポイントも,見逃すわけにはいきません。

*1:http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/827403/229でも読めます。対応する本文はhttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/827403/93です。

*2:画像生成のコマンド:convert -size 425x180 "xc:#eef" -fill "#66f" -stroke black -strokewidth 0.0666 -draw "translate 5,30 scale 30,30 rectangle 0,0 8,4" -draw "translate 250,5 scale 30,30 rotate 45 polygon 8,0 4,-4 0,0 4,4" -quality 92 boxes.png

「かけ算の順序の昔話」について

 3月31日に,はてなダイアリーのサブブログ(「×」から学んだこと)を,はてなブログへ移転し,「かけ算の順序の昔話」というブログ名にしました。
 ブログのURLには,takexikomというのを入れました。ただしブログ移転の仕様上,サブアカウントはてなIDは,takehikoMultiplyのままです。
 takexikomをあえて読むなら,「たけひこえむ」をおすすめします。ロシア語では,たけひこはТакэхикоと綴りまして,このхの文字を,ローマ字表記のhのところに割り当てた格好となっています。xが乗算記号として用いられること(画像のサイズを400x300と表すなど)も,反映させています。mはmultiplyの頭文字です。
 当ブログでは,これまでメインブログ(わさっき)で書いてきた「かけ算の順序」や「算数教育」を主なトピックとして,取り上げていく予定です。算数の本の紹介もです。ツイッターからの拾い読みも,継続します。
 思うところあって句読点を「。」「,」にしています。使用する漢字を,小学校で学習する字に限定して,少し文章を書いてみたものの,難しいことに気づいて断念しました。
 ブログ名ですが,「かけ算の順序」だけで書き続けるのはおそらく困難で,ネタを見つけてまとまった文章にしていくには,算数・数学教育くらいをターゲットにしたほうがいいと,考えています。ともあれ自分なりの経験をもとに,凝縮したのが,「かけ算の順序」となります。
 そんな認識ですので,書籍や雑誌も,ネットの情報も,すべてが過去のお話のように見えてくるのです。「最先端」であっても,学校の先生またはネットの発言者がまず発見し,図や画像と文章などを用いて発信したものであり,それをあとで自分が読んでいる,という時間の流れが,あります。「昔話」を加えたのは,そういった事情からです。
 今後ともご愛顧のほど,よろしくお願い申し上げます。

『小学校6年間の算数がマンガでざっと学べる』は大人向けの学習マンガ

小学校6年間の算数がマンガでざっと学べる

小学校6年間の算数がマンガでざっと学べる

「算数伝道師コスギ」と「マンガ家ゆみぞう」による掛け合いで,ゆみぞうが整数のたし算から場合の数までを学ぶ(学び直す)という漫画です。
気になったところを,あげていくと…

  • 加減乗除の表記は「たし算」「引き算」「かけ算」「割り算」(CONTENTS)
  • 整数のたし算では「さくらんぼ」使用(p.13)
  • 整数のかけ算は,「九九は大丈夫ですね?」のやりとりのあと,すぐに39×6,57×43の筆算(p.20)
  • 割り算では2つの意味を例示(p.25)
  • 0を含むかけ算は2種類(「Q1 0円のりんごを3個買ったらいくら?」「Q2 60円の消しゴムを0個買ったらいくら?)(p.27)。式は順に「0×3=0」「60×0=0」(p.28)で,かけられる数・かける数などの用語なくそれぞれを区別している
  • 小数の割り算の最初の式は,2m÷0.5m=4本(p.42)
  • 倍数に0は入れない。「5の倍数を小さい順に5つあげてみてください」には「6」「12」「18」「24」「30」(p.58)
  • 0は偶数(p.64)
  • 分数のかけ算には長方形の分割(p.88),長方形の面積は後ろ(p.132)
  • 分数の割り算で,ひっくり返してかける理由に3種類(pp.93-95)
  • 面積図は「平均」が横の長さ,「個数」が縦の長さ,「合計」は長方形の中央。縦横は「逆にしてもよい」の添え書きあり(p.105)
  • 単位量あたりの大きさ(第5章)が割合(第9章)よりも先
  • 「重い先生 綿100%」で「重さの単位は1000倍ずつ 面積の単位は100倍ずつ 大きくなりますよ」のゴロあわせ(p.108)
  • 速さは,時速・分速・秒速の表し方を言葉にし(p.116),「み・は・じ」も使用(p.120)
  • 割合の3公式には「く・も・わ」。「く=比べられる量」「も=もとにする量」「わ=割合」(p.170)
  • 「比例式」「内項の積と外項の積は等しい」を,小学生でも知っておくと超お得な裏技として紹介(p.188)
  • 4つの並べ方の計算に,「6通り×4で24通り」(p.215)

学習事項の順序や,式に単位を添えるところなど,そのまま小学生に教えるわけにはいかない(教えているわけではない)のでしょうが,大人向けの算数の復習としては,興味深い内容でした。

掛算順序固定指導について

 「掛算順序固定指導」の条件を挙げています。具体的には「小学校において」「掛算の書き方に指示がないテストで」「式の掛算順序が特定の順序と逆という理由で間違いだと指導する」です。
 ぱっと見て,学術的にも実践的にも,算数教育に寄与しそうにない主張だなと感じました。
 用語を確認しておくと,小学校を対象とするのなら,「掛算」ではなく「乗法」とすべきでしょう。「式の掛算順序」もまた,見慣れない語です。小学校のかけ算で「じゅんじょをかえても,答えは同じ」は,交換法則*1と関連する,a×b=b×aといった形ではなく,結合法則,例えば3×25×4=3×(25×4)=3×100=300のような計算で活用されています。
 「テストで」と「指導する」の組み合わせも,引っかかりを覚えます。診断的評価・形成的評価・総括的評価のいずれを対象としているのかが気になりましたが,明記されていないのであれば,いずれも対象と見るべきでしょうか。そういえば「指導」とあり「評価」はどうなるのだろうかと思いながら,ツイートを読んでいくと,https://twitter.com/croce1/status/847685211659698183を見る限り「指導」は「評価」の同義語と思ってよさそうです。
 例えば,『教育評価 (岩波テキストブックス)』で読むことのできる作問法(算式法)の課題,「4×8=32となるようなお話をつくってください.そして,そのお話を絵で描いてみましょう.」について,同じページに書かれた「乗数と被乗数の意味が区別されているか」(とくに正比例型では「4」は「一あたり量」,「8」は「いくつ分」と区別されているか)という採点基準も,「掛算順序固定指導」に当てはまると考えられます。
 この本や,背景にある教育評価の実践,また学力調査などの成果に対し,いわば挑戦的な定義づけをしているのだなと理解しました。
 「指導はしない」場合が,あるのでしょうか。3×5でも5×3でも正解にする,という採点方法と別に,思い浮かぶのは,3×5と5×3(あるいはa×bとb×a)の違いを学び,先生は褒め,クラスで共有することです。
 授業例として,http://www.n-ishida.ac.jp/main-office/tyuto/kenkyukiyou/09/P3.pdfを見ていきます。イランの授業では,ある子どもからの「先生! そこの、16かける3と3かける16は違うの?」という質問を,先生が受け止め,何人かの子どもの発言のあと,「もし私たちが16を3でかけるなら、これは、私たち16人の集まりが3つあるということになります。でももし3を16でかけるなら、3が16あるということになります。だから意味が違っているけど、答えはどちらも同じです。」に対し拍手を促し,褒めています。
 もっと端的に,a×bで表される文章題と,b×aで表される文章題を,それぞれ作りなさいという課題を,洋書で1つ,和書(問題集)で1つ,見たことがあります。ただしいずれにも正解例は書かれておらず,1つの場面を,両方の式の答え(文章題)として書くのを認めるのかについて,それが読み取れる表記はありませんでした。
 a×bとb×aの違いについて,かけられる数とかける数の意味を大事にする立場*2では,式の意味が異なる(変わってくる)ことを重視し,授業やドリルなどで活用されています。違いを学べば,ある文章題に対して3×5が正解,5×3は間違いとなるわけで,バツにされたときでも本人が「あっそうか」と判断できることにも,つながります。
 念のため,「自学のスキルを身につける」ために,かけられる数とかける数の区別を設けて指導しているのか,という考えに至る,当ブログの読者はいないと思いますが,かけ算で表される状況において,「かけられる数とかける数の区別」がある場面と,そのような区別のない場面があるのは,『筆算訓蒙』や明治以降の「算術」の解説書,また現代ではVergnaud (1988)やGreer (1992),米国Common Core State StandardのMathematics Standardsでhttp://www.corestandards.org/Math/Content/mathematics-glossary/Table-2/より読める分類表からも,確認ができます。
 それに対し「掛算順序固定指導」といったラベリングをしたり,その種の指導を敵視する人々にとっては,「そんなことをする意味がない(That does not matter.)」に集約される,と認識しておけばよいのでしょうか。
 定義に立ち返りまして,「掛算の書き方に指示がないテストで」も,気になりました。「掛算の書き方に指示があるテスト」(特に総括的評価や外在的評価に関するもの)の事例が思い浮かばなかったからです。教科書や問題集を何冊か読み直し,×の左と右に何を書くかの指示は,導入段階だけだよな*3と思ってから,ツイートを見直すと,本人からのhttps://twitter.com/croce1/status/847720494728060928https://twitter.com/croce1/status/847722941483634688,また一連のツイートに批判的な立場からのhttps://twitter.com/tetragon1/status/847630241312854018https://twitter.com/flute23432/status/847681592428331008を見かけまして,「こなれていない定義」と認識しました。
 「掛算順序固定指導」でない指導事例(個別の出題ではなく,少なくとも単元指導まで,できれば1年から6年までの算数指導系統を)も,あるといいのですが。

*1:たとえば日文の3年上だと,「かけ算では,かけられる数とかける数を入れかえて計算しても,答えは同じになります。」

*2:学術文献からだと,http://ci.nii.ac.jp/naid/110007994852…ですがCiNiiから本文が取得できなくなっています。

*3:教育出版の小学算数2下だと,p.5で「コーヒーカップにいる人数を,式にあらわしましょう。」の下の式が□×□=□の穴埋めで,それぞれの□の上に,左から「1つ分の数」「いくつ分」「ぜんぶの数」が書かれています。問題集では,isbn:9784774318028を見ていくと,かけざんはp.61からです。最初の問題は「みかんが 1さらに 2こずつ のって います。みかんの のった さらは 4さら あります。みかんは ぜんぶで なんこ ありますか。」で,ミカンの絵の下の式は,2×4=8。「2」「4」「8」をなぞり書きするようになっています。それぞれの数の囲みの上には,「1さらの みかんの 数」「さらの 数」「ぜんぶの みかんの 数」です。またp.66には「ボートが 5そう あります。1そうに 6人ずる のれます。ぜんぶで なん人 のれますか。」に対し,□×□=□の穴埋めで,添え書きはありません。続く「子どもが 6人 います。ひとりに 7こずつ あめを くばります。あめは ぜんぶで なんこ あれば よいでしょうか。」の「しき」の欄は下線のみです。

巻き込まれたようだ

画像内の丸あ,丸いの図から,東京都算数教育研究会(都算研)の学力実態調査が思い浮かびます.http://tosanken.main.jp/data/H27/gakuryokujitaichousa/h26kekkatokousatu2nen.pdf#page=2で公開されているのは,2年前に実施のものです.「数と計算 数量関係」「量と測定 図形」で1年おきに調査されていて,今年度は「数と計算 数量関係」となります.
東京書籍のhttps://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou/sansu/files/web_s_sansu_gakuryoku1.pdf#page=2に見られる「C地区学力調査」は,この出題がもとになっているものと思われます.
「掛け算」の文章題は,小問・ふりがなを含め,変更なさそう*1ですが,次の大問が,ツイート内の画像と,2年前の出題とで,少し異なっています.画像から読み取れる大問4は,「こうじさん、ゆう子さん、さとみさん、あきらさん」「ちょうど2000円ずつ お金が 入って います。」「4人が 話しています。」なのに対し,http://tosanken.main.jp/data/H27/gakuryokujitaichousa/h26kekkatokousatu2nen.pdf#page=3は「こうじさん、ゆう子さん、あきらさんの さいふの 中には、ちょうど2000円ずつ お金が 入って います。さいふの なかみのことを 3人が話しています。□の中に あてはまる数を かきましょう。」でして,人数が異なります.
https://twitter.com/klasicista/status/844330541751054336https://twitter.com/klasicista/status/844350572350222336のツイートも読みました.この種の文章題は,2年のどの教科書にも載っています*2ので,お子さんは授業で学習済みのはずです.
交換法則を認めた上で,a×bとb×aとで式の意味(表すもの)が異なるよというのは,https://ten.tokyo-shoseki.co.jp/text/shou/sansu/files/web_s_sansu_gakuryoku1.pdf#page=2の「2×5になる問題と,5×2になる問題」が該当するほか,海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか? - わさっきで整理を試みてきました.
「こんな出題があったんだが」という事例の紹介は,いわば「点」のとらえ方です.継続して(ときには一部を変更しながら*3)出題するのを見ながら*4,正答率などを比較するのは「線」のとらえ方です.類似した出題との比較や,学級での指導,そして教科書への反映まで行けば,「面」や「空間」になるでしょうか.

*1:ただ,この種の調査をお子さんが持ち帰ったのには,少し驚きました.先生はマルやバツをつけ,集計してから,返却し,お子さんは「しき」の「3×4」に2本線を引いて「4×3」を上に書いたのでしょうか.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140629/1403967600

*3:「掛け算」の文章題は,平成22年度と24年度で少し出題形式が異なっています.http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131026/1382734792 http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130219/1361220251#1

*4:初等教育に直接,携わらない我々でも,公開されているものを「見る」のは可能です(解答者数や正答率は必ずしも分かりませんが).例えば:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131229/1388265996

A×B=Cの場合,AとCの単位が同じ

リンク先は…

読んでいくと…

小学校2年の算数で、掛け算を習います。
掛ける数と掛けられる数という内容があります。
2×3=6の場合、2が掛けられる数で3が掛ける数。
泥棒2人が追いかけられる、警官3人が後から追いかけると覚えると覚えやすいです。


A×B=Cの場合、AとCの単位が同じという掛け算のルールがあります。
「ウサギが5羽。耳は全部でいくつ?」という問題に、2×5と書けば2本耳のウサギが5羽で耳10本となりますが、5×2と書くと5本耳のウサギが2羽という意味になる。
強引に5羽の2本耳のウサギと考えたとしても、答えが10羽になることに(笑)

ああ,わかりやすいですね.ただ,2017年に書かれた文章で,間違いのかけ算の式に2種類の解釈(「5本耳のウサギが2羽」と「答えが10羽」)を示しているのを読むのは,初めてです.かけ算の順序論争について(日本語版) - わさっきのB-3とB-4が該当しますし,本だと2003年に出た『板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数2年〈下〉』があります.
これに対して,冒頭のツイートをした方が,昨日,コメントをしています.「そのようなルールの存在はどこかに根拠があるのでしょうか?」とのこと.
2〜3年の算数で,教科書や問題集や,学力テストを見ていたら,「A×B=Cの場合、AとCの単位が同じ」というのは,経験的に得られてもおかしくないのですよね.リンク先記事の出だしの「小学校2年の算数で、掛け算を習います。掛ける数と掛けられる数という内容があります。」と,6番目のコメントの「縦3m、横4mの長方形の面積を求める際に、3m×4m=12mとなってしまい面積の単位になりません」とで,対象学年が異なっていることにも,配慮をしたいものです.
実際,2〜3年の算数の教科書や出題で,目にしてきた正解は,「A×B=Cの場合、AとCの単位が同じ」となるものばかりです.
その理由は,小学校学習指導要領解説算数編から推測できます.乗法が用いられる場合とその意味では,「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。つまり,同じ数を何回も加える加法,すなわち累加の簡潔な表現として乗法による表現が用いられることになる。また,累加としての乗法の意味は,幾つ分といったのを何倍とみて,一つの大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるといえる。」と記載されています.
「ウサギが5羽。耳は全部でいくつ?」という問題に,2×5と式を立て,(同数)累加に基づき2+2+2+2+2=10と求めれば,2も10も耳の数であり,かけられる数の2も同じです.かける数の5は,ウサギの匹数で,異なりますね.
小学校学習指導要領解説算数編で例示されている「3×4の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが4パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」というような問題をつくることができる」に関しても,3と,積の12は,プリンの数であり,4はプリンの数ではなくパック数です.
海外文献では,Greer (1992)が関連します(かけ算・わり算でモデル化される場面 - わさっき).かけ算の導入時は,「同数のグループ(Equal groups)」が基本で,「等しい量(Equal measures)」もあっていいと思います*1が,いずれもかけられる数と積が同じ種類の量であり,かける数はそれらと異なります.
ちょっとだけ,注意したいのは,「A×B=Cで,AもBもCも単位が同じ」となる場合もあることです.
2年ではアレイが考えられ,その場合には,B×A=Cも,認められるはずです.小学校学習指導要領解説算数編では,「アレイ」の語こそないものの,12個のおはじきを工夫して並べる活動により,ある並べ方に対して「2×6 または 6×2」と記していまして,2も6も(そして積の12も)おはじきの個数を表します.
また別の「A×B=Cで,AもBもCも単位が同じ」が,3年に出現します.啓林館の乗法的オペレータ|算数用語集によると,「赤の車は2m走りました。青の車は赤の3倍,黄の車は青の2倍走りました。」に対し,「3倍」「2倍」「3×2倍」を含む関係図をが見られます.
「3倍して2倍したら6倍だ」というわけで,これもまた「A×B=Cで,AもBもCも単位が同じ」を満たす関係なのです.
ですがこの場面で,「2×3倍」が許されるかどうかは,わかりません.黄の車の走った長さについて,2×2×3と式を立ててみたとき,「2×2」は何を表すのかというと,答えられないのです(2×3×2と書いたのなら,その中の「2×3」は,青の車の走った長さであり,「3×2」は,「黄は赤の何倍になるか」を表したものとなります).


https://twitter.com/sekibunnteisuu/status/842867751920140289のリンクで,http://suugaku.at.webry.info/201102/article_4.htmlも読みましたが,同時期に出た『小学校指導法 算数 (教科指導法シリーズ)』と照らし合わせて読みたいところです*2

*1:http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/02/page2_16.htmlの「長さが 6cmの おもちゃの 電車が あります。2つ分の 長さは 何cmに なりますか。」が該当します.

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130214/1360776013#%E5%B0%8F%E5%AD%A6%E6%A0%A1%E6%8C%87%E5%B0%8E%E6%B3%95%20%E7%AE%97%E6%95%B0