かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

昭和のはじめの,交換法則の扱い

 昭和2年(1927年)に出版された『尋常小学算術科指導書 上巻』に,現代の書き方だと「式で表現する場合」と「乗法の計算の結果を求める場合」を,区別する記述があるのを知りました。
 https://dl.ndl.go.jp/pid/1035013/1/129です。ページ番号を表記すると,pp.58-59となるのですが,「(算三)」の縦書きが入っており,第3学年でページ番号が振り直されています。
 ともあれ該当箇所を取り出します。漢字は現代のものにしています。

3. 乗法に於て乗数と被乗数を取換ふるも結果に変りのないこと。
 これは理解が容易なことである。
 2×3=3×2=6の類で、二三六と三二六は結果が同じである。筆算を要するような大数に就ても、筆算して見て結果を幾題か比べて見れば直ちに判る事柄である。
 以上は無名数の問題に就てであるが、応用問題や名数問題について、矢鱈にこれを振りまはされては困ると思う。例へば
「子供が8人づゝ4列に並んで居ます。皆で何人ですか」といふ時には考へとしては8人が4列であるから8人の4倍である。故に8人×4である。すれば答は八四三十二で32人だとするのである。それを4×8人でもよい訳だというので、斯様な立式をしたりしては式の意味をなさない。もしも、4人×8とすれば事実とは一寸意味が変つて来る。故に応用題名数題に乗法の場合乗数と被乗数を取換へるも結果に変りなしといふ法則を適用するとすれば、名数といふことを離れて、数のみを運算に取扱はせ、その時に適用させるのである。故に
  8人づゝ4列であるから 8人×4
  答えの数だけを求むるには4×8でもよいから4×8として運算する。32といふ数が出たが、これは人数の計算であるから、32は32人である。答は32人とする。
 この様な順序に運ばねばならないであらう。

 はじめに「式で表現する場合」と「乗法の計算の結果を求める場合」と書きましたが,これらは『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』に出現し,https://www.mext.go.jp/content/20211102-mxt_kyoiku02-100002607_04.pdf#page=121で見ることができます。最初のバージョンが公表された月に,ファンタジーの法則 × 被乗数と乗数の順序で段落を取り出し,図を作成していました。
 「8人×4」「4×8人」「4人×8」などについては,メインブログ(わさっきhb)の「5枚の皿に3個ずつ」を簡潔に表すとにリンクしておきます。