かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

1万6千人×4教科×3冊子÷2(1人2教科)×1.1×2学年〜平成15年度教育課程実施状況調査における調査対象者数

教育課程実施状況調査より,平成15年度調査にアクセスし,1 平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査結果の概要のPDFの最初のページを見て,何だこのかけ算はと思わずにいられなかった数式があります.

4 調査対象の抽出方法
(1) 無作為抽出により,1教科1問題冊子当たり,児童生徒1万6千人を調査対象
小学校 1万6千人×4教科×3冊子÷2(1人2教科)×1.1×2学年
中学校 1万6千人×5教科×3冊子÷3(1人3教科)×1.1×3学年

それぞれの式を,単位を無視して計算すると,小学校は211200,中学校は264000と出ました.単位は何になるのでしょうか….
小学校の式に出てくる数を,1つ1つ,確認します.最初の「1万6千人」は,この人数を調査対象にしたいということです.次に,調査する教科の数は,国語・社会・算数・理科の「4教科」です.そして,引用の直前に,「各教科とも1学年当たりA,B,Cの3種類の問題冊子により実施」とあり,これが「3冊子」の根拠となっています.3冊子合わせて1万6千人ではなく,各冊子で1万6千人の解答を得ようとしたことが,推測できます.
引用の直後の項目に,「ペーパーテスト調査については,小学校で1人2教科,(略)それぞれ1種類の問題冊子を実施。」とあり,これが「÷2(1人2教科)」で反映されています.もし1人1教科であれば,このようなわり算が入らず,1万6千人×4教科×3冊子=192000人です.192000人の児童を無作為抽出する必要があるところ,抽出された1人が2教科を解答したら,解いてもらう児童の数は,半分の96000人で済みますよね,というわけです.
「×1.1」は,欠席者がいても,1万6千人の解答を得るための増量と思われます.ここまで,1学年だけで考えていましたが,調査対象学年は「小学校5,6学年」ですから,最後に「×2学年」とします.
教科やら冊子やら学年やらの単位が入っていますが,無視してよさそうです.かけ算は倍,わり算は2分の1(中学なら3分の1)というだけです.結局,かけ算の答えの単位は「人」です.「211200人」を抽出し(ただし,半分は5年生,もう半分は6年生),それから,解答してもらう教科・科目・冊子を割り当てることになります.
人数は,上述のPDFの同じページに「6 調査実施学校数及び児童生徒数」として,載っていました.小学校は「約21万1千人」で,上記の計算と合います.中学校は「約24万人」と書かれていますが,「×1.1」がなければ,ぴったり一致します.
と,ここまで書いてから2 平成15年度小・中学校教育課程実施状況調査の結果をみるに当たってを見まして,プロセスが詳しく記されているのを知りました.表3-1,表3-2(p.4)が実際の解答者(児童・生徒)の数で,小学校はほぼ抽出数どおりなのに対し,中学校は学年ごとの抽出数(88,000人)を大きく下回ってることが見て取れます.
教育課程実施状況調査は,同一科目(および学年)に3冊子を用意して実施しているほか,問題文はどうやら非公開であり,また対象学年や実施時期が,全国学力テストと大きく異なっています.とはいえそれでも,結果を見て,小学校・中学校の状況を把握したり改善に役立てたりしようとする人々は,いるのでしょうね.

希望出生率は{(34%×2.07人)+(66%×89%×2.12人)}×0.938≒1.8

記事には「希望出生率の計算式」の画像も載っています.
記事の中の用語で検索すると,この式が載っている,PDFファイルを見つけました.

式は2ページ目です.言葉の式は

「希望出生率」=
{既婚者割合×夫婦の予定子ども数+
 未婚者割合×未婚結婚希望割合×理想子ども数}
 ×離別等効果

となっており,そこに数値を当てはめたのが「{(34%×2.07人)+(66%×89%×2.12人)}×0.938≒1.8」とのこと.
気になったのは,式には「子ども数」や「〜人」と,人数を表す量があり,それが特にわり算されていないにも関わらず,結果は希望出生「率」となっていて,割合であるように見える点です.
すでに算出・報道されている,出生率との比較のために使いたいから,でしょうか.
さらに調べまして,出生率というと,通常,人口1000人あたりにおける出生数を指すこと,また2を切っただとか最近少し上がっただとで報道のなされる出生率は「合計特殊出生率」と呼ばれることを知りました.wikipedia:出生率wikipedia:合計特殊出生率でまとめられているほか,出生率 - 少子化対策 - 内閣府にも,「合計特殊出生率を見ると」と書かれています.
合計特殊出生率の定義をもとに,希望出生率に立ち返ると,「夫婦の予定子ども数」「理想子ども数」に「既婚女性1人あたり」をつければ,つじつまが合うことに気づきました.
「2.07人」ではなく「2.07人/人」,「2.12人」のところは「2.12人/人」,とするわけです.
シングルマザーはどうするのとか,そもそも朝日の記事はどちらかというと批判的なとらえ方だなあとか…
試算って,難しいですね.
数式から離れた話を…こういった数値目標を掲げて,「産めよ増やせよ」を押しつけることにならないのか? とも思ったのですが,http://www.healthcare-m.ac.jp/app/gm/archives/8841によると「注釈として、「希望出生率」はあくまでも政策が適切かどうかの評価指標として活用すべきで、国民に押し付けたりするようなことがあってはならない、とあります」と,予防線が張られていました.

アレー図そして面積図

「トンデモな意見」とは,なかなかです.
続くツイートでは,「アレー図とはモノを長方形型に並べた図のこと」とし,あとは毎度の,批判者の道です.
ここでスイッチ*1して,学習者の道を歩んでおくと,もとの文献の「アレー図を使いながら教えるのがよいだろう」を「低学年ではアレー図,高学年になれば面積図を使いながら教えるのがよいだろう」に置き換えれば,書籍やWebの情報と結びつけて,理解が容易となります.
ここで念のため,もとの文献の書誌情報を:

教育心理学と教科教育との関わりについては,ふむふむなるほどと思う一方で,「1あたり」「1あたり量」が目につきました*3.関連して,p.199の「学習指導要領にはなく,教えられていない」については,そもそも学習指導要領とその解説や,算数の教科書には,「1あたり」という用語が出てきませんので,代わりに「小数の乗法・除法」や「異種の二つの量の割合(単位量当たりの大きさ)」と照合することが要請されます.
アレー図の関連情報は都合により省略します.面積図について,知っておくと良さそうなのを並べると:

それぞれの図から,次のことが確認できます.すなわち,面積図をもとに,かけ算の式にする場合,かけられる数(1あたり量)が,長方形の縦の長さに対応します.横の長さはかける数です.
小学校の算数や,受験算数ではそうなっているかもしれないが,数学者はどう認識しているのか,というと,見ておきたいのは1973年に発行された『数学の世界―それは現代人に何を意味するか (中公新書 317)』です.図がp.72にあります.

算数の面積図は,この絵の〈正比例型〉の発展形と見ることができます.幅が1のときの大きさがaとあるのを,長方形の高さの部分に割り当てれば,これが1あたり量です.あるいは,比例関係にあるxとyについて,1つの値の組が分かっているなら,a=y/xにより,比例定数をその次元とともに求めることもできます.
冒頭に挙げたツイート主さんは,アレー図という表記から,〈複比例型〉の離散バージョン*4を連想したのではないかと想像します.しかし『数学の世界』には「複比例型では,そのままでは除法は意味を持ちにくい」と書かれており,ここから,実用への難しさを読み取ることができます.
落ち穂拾いをしておきます.もとの文献に戻りまして,市川氏が報告した中の「分数玉」の話は,『教えて考えさせる算数・数学』では「小数玉」として,小数のイメージをつかむ(0.1玉が10個で1になるなど)ための授業で使用されています.わり算の意味や,等分除と包含除の違いについて,同書の「分数でわる計算」の授業(したがって,6年)に見られますが,そこではアレー図も面積図も使用していません.
1つのかけ算に2つのわり算(1つのわり算になることも)の海外事例は,かけ算・わり算でモデル化される場面 - わさっきをご覧ください.本記事の途中に「次元」と書きましたが,算数のかけ算やわり算への次元解析の適用については,http://books.google.co.jp/books?id=Vyl42R9JV1oC&pg=PA189から始まる文章がおすすめです.

*1:http://kosstyle.blog16.fc2.com/blog-entry-1489.html

*2:https://www.jstage.jst.go.jp/article/arepj/51/0/51_198/_article/-char/ja/下部の「本文PDF [327K]」をクリックすれば,全文を読むことができます.

*3:個人的には「1あたり」や「内包量」を用いたかけ算の意味づけは良いものと思っておらず,メインブログのhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20121019/1350588115で整理を行っています.そこで取り上げた文献と,今回の「もとの文献」とで,著者に重なりがあります.

*4:もとの文献について,西林氏の問題提起から読んでいくと,小数や分数のわり算を念頭に置いているのに対し,市川氏の発言は,わり算の導入(3年)に限定しているというミスマッチも,見ることができます.そのギャップを埋めるのが,面積図となります.

ガラスびん×地サイダー&地ラムネ

飲めるのは,都内の13の銭湯.10種類のサイダー/ラムネは,どれも飲んだことがありませんが…
イベント名のうち「ガラスびん×地サイダー&地ラムネ」は,これまで見たことのない表記で,少し戸惑いました.
「×」と「&」という,2種類の区切り記号を使用しています.式と見なして解釈を試みると,まず「地サイダー&地ラムネ」でくくられ,それが,「×」によって「ガラスびん」と結びつくことになります.
数学やプログラミングの演算子として,考えるなら,その表記は「ガラスびん×(地サイダー&地ラムネ)」を意味するのであって,「(ガラスびん×地サイダー)&地ラムネ」ではありません.
これは,「&」のほうが,「×」よりも優先順位が高いということでもあります.
なお,C言語では,乗算演算子の*は,ビットANDの&や論理ANDの&&よりも優先順位が高くなります.
そういえば,「地サイダー&地ラムネ」について,集合論的にはANDではなくORになるのでしたっけ….
もちろんイベントの名称は,数学でもプログラミングでもないので,簡潔に誤解されないよう,書いてあればいいのです.カッコをつけたり論理和に変えたりすることで,読みやすく理解しやすくなるとは,期待できそうにありません.

投手×打者

ダイジェスト動画(中京大中京-鹿児島実) - 第97回選手権大会:バーチャル高校野球(朝日新聞デジタル × 朝日放送)より:

上のシーンに限らず,今夏のABC(朝日放送)の高校野球中継では,左上に,「投手名」×「打者名」が表示されます.
wikipedia:×にも書かれている「攻め×受け」と,反対の順序なのが,少し気になります.
野球は攻撃と守備に分かれるけれども,投打の場面においては,ピッチャーが攻める側なのだ,と思えばいいのでしょうか.

アヤラ・グループ×ピアソン=格安私学教育

どんなかけ算なのかというと,

倉庫を改装した建物に100人以上の生徒が通う。アヤラが60%、ピアソンが40%を出資する「APECスクールズ」が経営する学校の校舎だ。

フィリピン「格安学校」の挑戦 | mixiユーザー(id:49410226)の日記

どのくらい安いのかどうかというと,

「世界水準の教育を1日70ペソ(約190円)で」が同校の宣伝文句だ。(略)学費は日本の中学1年生にあたる「グレード7」の場合、教科書代込みで月約2千ペソ(約5500円)とマニラの標準的な私立校の4分の1以下だ。(略)想定する「中心顧客」は月1万〜2万5千ペソの低所得層。

フィリピン「格安学校」の挑戦 | mixiユーザー(id:49410226)の日記

なぜ安くできるのかというと,

世界水準の教育を1日70ペソ(約190円)の宣伝文句の達成のため、1学級は他校が80人のところを30人、教員は20代、教材や指導要領は本部で標準化したのを支給、教室は倉庫の改造で空調無しの40度、CEOやマーケティング担当幹部はアクセンチュアユニリーバ等地元の有名外資出身者をスカウト等々、思い切った手段を用い開業1年で24校、黒字化も近く数年で50校を目標にしているという。もちろんフィリピン以外にも進出するであろう。

MBA update

学歴社会の同国では修士号や博士号を持つ教師が多いが、APECが採用するのは新卒の20代前半の若者。教材や指導要領は本部で作成する「中央集権型」のため、指導経験は必要ないと割り切り,人件費を抑える。ファーストフードチェーンの店舗のように、標準化した学校を増やすほど収益はあげやすくなる。

フィリピン「格安学校」の挑戦 | mixiユーザー(id:49410226)の日記

他国への展開や,教材の内容も,気になりますが,教員の体勢には不安要素もあります.ざっと読んだ状況からは,教員の能力向上に応じた環境の改善や,そこで学んだ児童生徒が,(授業の中で,または教員の年齢に達したところで)教える側に回るといった状況が,見当たらないのです.
ともあれ数年くらいは見守りますかね.