かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

ノーマル問題か,ひっかけ問題か

 巻末によると,2名の編著者は上越教育大学教職大学院の教授と准教授とのこと。執筆者は座談会のみを含め小学校教諭13名で,その所属は東日本が大部分ですが,兵庫県関西学院初等部の教諭も入っています。
 本記事で取り上げたいのは,「「図入りオリジナル問題」の求め方を説明しよう」(pp.42-47)です。2年「かけ算」の授業になっています。
 「ノーマル問題」と「ひっかけ問題」が,教師の発言の中で解説されていました(p.44)。

教師 ノーマル問題(「1つ分の数」→「いくつ分」と出現する文章題)とひっかけ問題(「いくつ分」→「1つ分の数」と出現する文章題)がありましたが、自分は今日、どちらでつくろうと思っていますか。ノーマル問題という人?

 「ノーマル問題」と「ひっかけ問題」は,それぞれ,メインブログ(わさっきhb)で,2011~2013年に《AB型》と《BA型》と表記してきた問題です。《BA型》は「基準量が後に示された問題」とも呼ばれます*1
 上記と同じページに,板書写真があります。ただし,そこから見ることのできるチョークの文字は少なく,掲示物の面積のほうが大きくなっています。2つの掲示物の記載内容を,文字にしてみました。

1{さら, はこ, ふくろ}に( )こずつの
□が( ){さら, はこ, ふくろ}あります。
ぜんぶで何こありますか。

□が( ){さら, はこ, ふくろ}あります。
1{さら, はこ, ふくろ}に( )こずつあります。
ぜんぶで何こありますか。

 実際には「{さら, はこ, ふくろ}」は,細めの「{」と「}」の中に,「さら」「はこ」「ふくろ」が(それぞれ横書きで)縦に並んでいました。また「1」と「(」「)」は太く描かれています。「□」は3~4文字くらいが入る,横長の長方形です。
 2つのうち上がノーマル問題のテンプレート,下がひっかけ問題のテンプレートとなっています。
 教師の「ノーマル問題という人?」の質問に対し,直後に発言した児童は「ノーマル問題つくってみたいです。」と回答しています。別の児童は「今日はひっかけ問題にチャレンジしてみます。」と発言しています。
 そのあとの本文で,「ひっかけ問題」の具体例は,出てきませんでした*2
 かわりに,ひとひねりしたやりとりが収録されていました(pp.45-46)。

児童A Bさん、問題です。1箱に鉛筆が6本あります。4箱あります。全部で何本ありますか。この問題で、「1つ分の数」は何ですか。
児童B 6本です。
児童A どうして6本が「1つ分の数」になるのですか。
児童B 1箱にと書いてあって、図もほら、1箱の中に鉛筆が6本ずつ入っているからです。
児童A ありがとうございます。じゃあ「いくつ分」は何ですか。
児童B 4箱です。その箱が、1、2、3、4箱あるからです。
児童A そうですね。(図を指さしながら)1、2、3、4箱だから、式は4×6で……よかったんでしたっけ?
児童B ダメです。えっと、かけ算は「1つ分の数」×「いくつ分」=全部の数になるので、1つ分*3の6×いくつ分の4……6×4になります。
児童A (鉛筆の入った箱の図を指で1つずつ囲みながら)鉛筆6本入りの箱が1、2、3、4箱だから、6×4で答えは24ですよね?
児童B えっと、あ、単位の「本」もつけて24本です。
児童A 正解です。これで説明を終わります。どうだったかな?
児童B 「1つ分の数」と「いくつ分」をぎゃくにして聞いてきたところでひっかかりそうになったけど、これはノーマル問題だって思い出したら、大丈夫だったよ。ありがとうございました。ノートにサインするね。

 「1箱に鉛筆が6本あります。4箱あります。全部で何本ありますか。」は,ノーマル問題そして《AB型》です。この問題提示に対して,素直に,6と4を取り出して「6×4=24 答え24本」とすればいい,という展開ではなく,「1、2、3、4箱だから、式は4×6で……よかったんでしたっけ?」と,鉛筆の文章題を作った児童が質問し,「ダメです」を引き出しています。
 前述の板書写真について,ノーマル問題もひっかけ問題も,1つ分と全部の量の種類が「こ(個)」のみで,1つ分の数になる方には「ずつ」が付くのが,少々気になっていました。しかし児童Aの問題は,「こ(個)」ではないし,「ずつ」も出現しません。
 テストで「ずつ」なしの「ひっかけ問題」が出されても,本書のような学習をしなかったクラスより,式の正解率が高くなりそうだと,読んで感じました。

*1:例えば,https://takehikom.hateblo.jp/entry/20131105/1383577200

*2:板書写真の右側の掲示物は,p.43で表になっていて,その中に,「長いすが 6つ あります。1つの 長いすに 8人ずつ すわります。みんなで 何人 すわれますか。」という文章題と,長イスに人が座った状況の絵を見ることができますが,教科書からの抜粋と思われます。

*3:「の数」が入っていませんが原文ママです。実際の子どもの発言が,そうだったと推測できます。