『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1には,「3に整数をかけてできる数を3の倍数という。3,6,9,…は3の倍数である。このとき0は倍数に含めない」とあります。現行の解説でも倍数の列挙に0が入っておらず,また教科書検定では倍数に0が入っていると修正の指示が出ていたのですが,新しい解説で,0は倍数に含めないことが明記されました。
この件で,先週から今週にかけて,いろいろな記事やツイートが出ました。
- 0は8の倍数にいれない? ~新「小学校学習指導要領解説 算数編」のおかしさ、あほらしさ - 身勝手な主張
- 0と0の最小公倍数は? 最大公約数は?
- 整数解をもつ連立3元2次方程式を解こう ~2017年度前期日程の一橋大学入試問題 - 身勝手な主張
- https://twitter.com/sekibunnteisuu/status/891612855476207616
- https://twitter.com/takehikom/status/892497139502161920
当方の基本的な考え方は,「算数では,倍数や約数を考える際には0を対象としていない」です。このとき,以下の性質が成り立ちます(表記を算数で使用するものに変えれば,倍数・約数を学ぶ子どもたちが帰納的に考えて理解できるものばかりです)。
- 倍数と約数について,以下の6つは同値
- aはbの倍数
- bはaの約数
- aはbで割り切れる
- aをbで割ると余りが0
- を計算すると整数になる
- 「a=b×整数」と表せる
- mが,aの倍数のとき
- そのようなmの最小値はa
- そのようなmは無限に存在する
- mが,aとbの公倍数のとき
- mはa以上
- mはb以上
- そのようなmは無限に存在する
- mが,aとbの最小公倍数のとき
- mはa以上
- mはb以上
- m=aならば,bはaの倍数
- m=bならば,aはbの倍数
- aとbの公倍数は,mの倍数
- dが,aの約数のとき
- そのようなdの最大値はa
- そのようなdは有限個
- dが,aとbの公約数のとき
- dはa以下
- dはb以下
- そのようなdは有限個(上限がある)
- dが,aとbの最大公約数のとき
- dはa以下
- dはb以下
- d=aならば,aはbの約数
- d=bならば,bはaの約数
- aとbの公約数は,dの約数
- mがaとbの最小公倍数で,dがaとbの最大公約数のとき,a×b=m×d
- 長方形があり,ある辺の長さが単位長のa倍,隣の辺の長さが単位長のb倍とする。
- この長方形がいくつもあるとき,敷き詰めによって,単位長のm倍を一辺とする正方形を構成できる.ここでmはaとbの公倍数である(最小公倍数を選ぶこともできる)。
- この長方形を,単位長のd倍を一辺とする正方形で分割できる。ここでdはaとbの公約数である(最大公約数を選ぶこともできる)。
上記は,「正の整数(自然数)の間で倍数・約数を定義して,成り立つ性質」です。
次に,「0以上の整数の間で,倍数・約数を定義して,成り立つ性質」を見ていきます。この段階で,0が3の倍数であるのを認めます。3に限らず,0があらゆる整数の倍数であるとします。ただし小学校の算数に合わせて,整数は0,1,2,…に限定します。0を含む場合の公倍数や公約数は,素朴な方法(0も考慮して倍数・約数の集合を求めること)に基づき,0と整数との最小公倍数や,0どうしの最大公約数は,定義しないこととします。なお,0と正の整数aとの最大公約数は,定義できて,aとなります。
このときに成り立つのは以下のとおりで,上記よりも減ってしまいます。
- 倍数と約数について,以下の3つは同値
- aはbの倍数
- bはaの約数
- 「a=b×整数」と表せる
- mが,aの倍数のとき
- そのようなmの最小値は0
- mが,aとbの最小公倍数のとき
- mはa以上
- mはb以上
- m=aならば,bはaの倍数
- m=bならば,aはbの倍数
- aとbの公倍数は,mの倍数
- dが,aとbの最大公約数のとき
- d=aならば,aはbの約数
- d=bならば,bはaの約数
- aとbの公約数は,dの約数
- mがaとbの最小公倍数で,dがaとbの最大公約数(いずれも定義される場合のみ)のとき,a×b=m×d
例えば,0の倍数は0のみ(有限個)となる一方,0の約数はすべての(0以上の)整数ですので無限に存在します。また,公倍数が無限に存在することも,公約数に上限があることも,0と0の公倍数・公約数を考えると,成立しないと言えます。
関連文献を見ておきます。『算数教育指導用語辞典 第四版』*2のp.195には「なお,小学校では0を偶数としては扱うが,発達段階からみて指導上に困難点があるので,0をある整数の倍数として扱うことはしていない。0を整数nの倍数としてみるのは中学校である。」と書かれています。
倍数・約数の対象として0を取り入れると,上記のとおりいくつもの有用な性質が成り立たなくなるのは,結局のところ「0は倍数に含めない」を支持する方向に進みそうです。
(最終更新:2017-08-19 朝)
*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmから入手できますが,算数編のURLは2017/07/25を含むものに変わっています。乗法の導入のところで,改変がなされていることを,https://twitter.com/takehikom/status/892705568384733185にて報告しました。本日の内容には影響しません。