かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

算数教育指導用語辞典 第五版を読んだ

算数教育指導用語辞典

算数教育指導用語辞典

 ざっと目を通してから,『算数教育指導用語辞典 第四版』*1と読み比べました。第四版で抜き書きしたいくつかの箇所は,そのまま第五版でも読むことができました。
 覚えているのは次の2つです。まず交換法則をはじめとする計算の性質と,かけ算の式についてです。第四版はpp.18-19,第五版だとpp.20-21に,同一の記載があります。

 H.ハンケル(1839~1873)は,ピーコックの不完全さを見直したうえで,さらにこの原理が拡張された実数系や複素数系にまで及んで成立することを示した。さらに,原理に示された三つの計算法則は,高々複素数の範囲までに止まることを示し,さらにその拡張が多元数に及ぶときは,これらの三つの法則どれかが不成立になることを示唆している。例えば,多元数のなかでW.ハミルトンの四元数については交換の法則は成り立たない。また,A.ケーリーが示した八元数の場合では,交換法則のほかに結合法則も不成立となるのである。

計算法則に関する注意事項
 数の拡張では,三つの計算法則の確かめが必要であったが,これはあくまでも形式であって,これと離れた具体的な場面では注意すべきことがある。
 例えば,交換法則に関しては,同じ加法でも合併なら交換が可能であるが,追加(増加)の場合では交換は不可能である。例えば,ミカンが5個あっても3個もらうと8個になるということから,3個もらって5個あってというのは意味が曖昧になってしまう。不用意に交換すると時間差を無視したりすることになる。
 また,乗法で,被乗数と乗数を交換しているのは,2次元的な面積の場合が,縦横同じ種類のものが並んでいる人間とかおはじきなどの数を求める場合はわかりよい。
 ただし,この場合でも,被乗数と乗数を交換したとき,その基準量をどうとらえたか,操作の観点をどこに置いたかをよく考え,その違いをはっきりとつかんでおかねばならない。同数累加や倍概念で操作する1次元的な乗法では,安易な交換は許されない。
 例えば,三つの皿にみかんが2個ずつあるとき,みかん全部の個数は2×3で求められる。しかし,皿の数三つにみかんの数2個をかけて3×2というのは意味がなく,このような具体的な場面で2×3が3×2に等しくなることを理解させるのは,かなり無理があると考えられる。

 もう一つは,「長方形は正方形」に関連する,図形の包摂関係の扱いです。第四版ではp.45,第五版からはp.47です。

図形の名称
 各図形の名称については,次のように決められている。
 すなわち,一般の図形の集合から,条件が付加されて特殊な図形の集合が作られたとき,その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである。例えば,長方形も正方形も平行四辺形の条件はもつが,平行四辺形とよばず,付加された条件でできた集合の名称を用いるのである。

 新たに一つ,取り出します。0は偶数だけれど,2(や他の整数)の倍数ではないという話です。第四版のp.195で,第五版はp.203になります。

 [2] 倍数・約数
 整数の集合を考察する立場としては,ある整数でわったあまりに着目して類別して考察する場合と,整除性に着目して考察するする場合との二つがある。整数を倍数,約数といった観点から考察するのは,後者の立場である。
 倍数・約数は,分数の約分や通分の際に用いられる大切な内容である。
 (1) 倍数
 ある整数の倍数は,次々に幾つでも作られるという性質がある。例えば,3の倍数は3,6,9,12,15,18,21……というように無限に続くことになる。
 なお,小学校では0を偶数としては扱うが,発達段階からみて指導上に困難点があるので,0をある整数の倍数として扱うことはしていない。0を整数nの倍数としてみるのは中学校である。

 第四版と第五版とで,違いもあります。目次を合わせ見て,すぐに気づくのは,第五版には「ICT機器の活用」「プログラミング教育」という項目があるのに対し,第四版には見当たらない点です。
 「全国学力・学習状況調査」「TIMMS」「PISA」はどちらの版にもありますが,それぞれの本文を見ると,全国学力・学習状況調査では脚注の問題例が差し替えられていました。TIMMSとPISAのそれぞれで,調査結果の表は第五版には2015年の調査結果(第四版刊行よりあとに得られた情報)が入っています。
 「速さ」の解説はほぼ同じですが,本文の見出しの右にある,学年・領域のところは,第四版は第6学年B,第五版は第5学年Cになっていました。
 今後は第五版を活用していくことにします。