かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

0と0の最小公倍数は? 最大公約数は?

 「最小公倍数は、0を除いた一番小さい公倍数とする」が太字になっていますが,少し説明が足りていないように感じました。0と0の最小公倍数について,検討がなされていないのです。
 素朴な考え方では,0の倍数は0のみです。そこで,公倍数の定義により,0と0の公倍数は0のみ(集合で表記するなら{0})となります。そうすると,「0を除いた一番小さい公倍数」は,ありません。
 0と0の最大公約数について,このブログの依拠するところに従うと,こうなります。倍数と約数再び ~正しい理解のために - 身勝手な主張で画像となっている,「2つの整数a,bについて、ある整数kを用いてa=bkと表されるとき、bはaの約数であるといい、aはbの倍数であるという」を根拠として,1は,0の約数と言えます。2も,0の約数です.同様にして,0を含む任意の整数が,0の約数です。
 0と0の公約数は,すべての整数(整数の集合全体)です。最大公約数はというと…「最大」は,ありません。
 「最小」をつけない公倍数や,「最大」をつけない公約数も,小学校で学習するものと少し異なります.小学校で学習する際,aとbの公倍数を小さなものから順に並べていくと,その2つの数よりも大きい数がいくつでも書けますが,0と0の公倍数では,そうはいきません。またaとbの公約数には,上限がありますが,上記のロジックに基づく0と0の公約数は,上限なしです。
 といったわけで,「0と0の最小公倍数」や「0と0の最大公約数」は考えない(定義しない),としたほうがいいのではないかとなってきます。実際,wikipedia:最小公倍数では「0ではない複数の整数の公倍数のうち最小の自然数をさす」,wikipedia:最大公約数では「少なくとも1個が0ではない複数の整数の公約数のうち最大のものを指す」と書かれていまして,0どうしのみは第1文で除外されています。
 「最小公倍数は、0を除いた一番小さい公倍数とする」という断り書きの追加だけでは,不十分ということです。
 ここまでについて,「0どうしの最小公倍数や最大公約数は考えない」を,ルールに書き加えるだけで,よさそうにも見えますが,そういった例外ルールを加えていく一方で,0を取り入れて倍数・約数,公約数・公倍数,最小公倍数・最大公約数を用いる具体的な場面(小学校の算数の範囲でその意義が分かる事例)が提示されていないことから,結局のところ,算数において倍数や約数を考える際,0を対象とする必要性がないように,思えてきます。
 個人的には,算数では「倍数や約数を考える際には0を対象としていない」と「『整数』と書いたときに0を含むか含まないかは,そのときどきで都合良く選ばれる」が基本になっていると理解しています。
 前者に関して,『算数・数学科重要用語300の基礎知識』*1ではp.207に「約数・倍数・素数」の解説がありますが,自然数に限っています*2
 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*3のp.231に書かれた「このとき0は倍数に含めない。」は多くの人が指摘しているところですが,これは「約数・倍数を考える際には0を対象としない」「約数・倍数を考える際の『整数』には0を含めない」と考えればよいことですし,p.232の「0以上の整数全体を二つに類別する仕方を考えていく。0,1,3,4,…を順に二つに分けていくと,1,3,5…の集合と,0,2,4,6,…の集合に分けられる」については,偶数・奇数を考える際には0を対象とするとともに,この場合には「整数」に0が含まれる,と読むことができます。小学校の算数では常に,「整数」は0を含むというのであれば,わざわざ「0以上の」と書く必要がないのです。
 なお,新しい解説より読める,整数に0を含めない他の事項には,「整数を整数で割って商が小数になる場合」(p.187,p189)があります。


 takehikomの名前でこれまで情報発信してきたのは:

*1:isbn:4185007183

*2:自然数」は,同書のp.182によると,「1から始まって,2,3,4,5,…と限りなく続く数を自然数という」と書かれており,0は対象外です。

*3:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm