「二十」は2×10か,それとも10×2かを,小学校の算数での学習と照合しながら検討していくと,そこにVergnaudの「スカラー関係」と「関数関係」が含まれていることに気づきました。
2人の数学者による全18回のコラムの,第17回です。4歳のお子さんが,23の次が「24」か「42」か迷っている状況に対し,執筆者・谷口隆氏が,「説明することの難しさに気づいた」というのです。
そして以下のとおり,大人モードで,検討しています。
24にせよ42にせよ,2と4のある意味での“合併”であることは間違いない.子供もそれは感覚として掴んでいる.しかし,“合わせる”ならどっちが先でも同じではないだろうか.たし算の2+4と4+2は同じ答えになる.
我々大人は,この“合併”が2と4の単なる和ではないことを知っている.24と書いた場合,ここの2は20を表していて,24とは20+4のことである.位取りの記法と呼ばれるものだ.24と42の違いは,次のように書けばはっきりするだろう.
24=2×10+4=10+10+1+1+1+1
42=4×10+2=10+10+10+10+1+1
最後の2つの式と,タイトルの「算数」とのマッチングに,違和感を覚えました。「2×10+4=10+10+1+1+1+1」とありますが,乗法を累加で解釈するとなると,2×10=10+10ではなく,2×10=2+2+2+2+2+2+2+2+2+2としたいところです。それと別に,「24=2×10+4」や「42=4×10+2」のような式で表すことを,算数で教えているのか,子どもたちは(執筆者のお子さんも小学校に入ったら)学習していくのかが,気になってきました。
現行および次期の『小学校学習指導要領解説算数編』,そして手元にある算数の教科書に目を通した限り,この種の式の表示は見つかりません。2×10+4や4×10+2といった計算であれば,2~3年の児童にさせてもいいのですが,百の位まで入れて,3×100+2×10+4の計算となると,4年で,いわゆる乗除先行を学んでからとなります。
さらに,気になるのは,「ニジュー」をかけ算で表すとなると,2×10なのか,10×2なのか,それともどちらでもいいのか,です。
かけ算を学習しない,1年では,「十を単位とした数の見方」に基づき,「40は,10の4個分」と理解します。2年では,6000を「10が600個集まった数」や「100が60個集まった数」などとします。「一つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」に基づいて,かけ算の式にするなら,順に,40=10×4,6000=10×600=100×60と表せます(ただし,そのような式は見かけません)。なお,2×10や10×2といった計算は,2年のかけ算の範囲内です。
3年では,万を超える数を学習します。啓林館・教育出版のいずれの教科書も,「10000を2こあつめた数を二万といいます。」がその導入となっています。そして,何千何百何十何万…の漢数字表記もあり,数を認識し,きちんと読み書きしたり,大小の判定をしたりするという流れです。そこでも,かけ算は出てきません。
なのですが,万を超える数と同じ章の中で「10倍の数」も学習します。「20円の10倍は何円でしょうか。」から始まり,10円を2行10列に並べた図が続きます。1行分は,10円が10枚で100円となり,2行あるから,200円です。10円の並びは「アレイ」であり,縦方向に見れば,20円が10列,横方向に見れば,100円が2行となることを,活用しています。
かけられる数が,ずいぶんと小さくなっています。
これについては,「ある数を10倍すると位が1上がり,もとの数の右はしに0を1つつけた数になります。」といった形でまとめられ,これを万を超える数にも適用して,十進位取り記数法についての理解を深めていくことになります。
教育出版の教科書*1では,p.104に,以下の4コママンガがありました。
起承転結の「承」のあたるコマでは,「10のまとまりができると,位が1つ上がるね。」と言っています。ここで「10のまとまり」は,「いくつ分」のほうに対応します。その右のコマで「同じしくみだよ」として例示されたことばの式を,かけ算で表すと,次のようになります。
- 100が10こで千 ⇒ 100×10=1000
- 1000が10こで一万 ⇒ 1000×10=10000
- 1万が10こで十万 ⇒ 10000×10=100000
- 10万が10こで百万 ⇒ 100000×10=1000000
- 100万が10こで千万 ⇒ 1000000×10=10000000
これらの式も,「ある数を10倍すると位が1上がり,もとの数の右はしに0を1つつけた数になります。」のルールがあてはまります。表にするとこうです。
4コママンガに出現する数だけでなく,20を10倍したら200というのも,この表に入れることができます。「10倍」そして「×10」は,同じ列の上下の数の関係となります。
それに対し,「10000を2こあつめた数を二万といいます。」をはじめとする「何万」は,「1個で10000」あるいは「万を単位とした見方」に基づきます。表は,こうです。
10000が「一つ分の数」であり,かけ算の関係は,「10000のいくつ分」として,見出すこととなります。
上の表の見方は,Vergnaud (1983)が示したうちの「関数関係」に,下の表は「スカラー関係」に,それぞれ関連づけることができます。
さて,24を,十円玉が2枚と1円玉が4枚に対応づけるのであれば,式は,24=10×2+1×4,または24=10×2+4としたいところです。
24=2×10+4とするのであれば,「2を10倍して20,そこに4を足して,24」となります。冒頭のブログに書かれた「2×10+4=10+10+1+1+1+1」の等式は,累加と別の根拠で導かれたもの,と言うこともできます。
桁数を増やした場合のことも,確認しておきます。
324を,百円玉が3枚と10円玉が2枚と1円玉が4枚に対応付けると,式は100×3+10×2+1×4または100×3+10×2+4です。
「10倍」を使う場合,324={(3×10)+2}×10+4により実現できます。「3を10倍して,2を足して,また10倍して,4を足す」という手続きです。
30024のような数なら,30024={(3×10×10×10)+2}×10+4とします。10倍と加法の組み合わせで,整数を式で表せることが分かります。