かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

段数×4=周りの長さ

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1には,単位正方形を階段状に配置したときの,段数と周りの長さの関係が,取り上げられています(pp.226-227)。第4学年の最後(数学的活動)です。

伴って変わる二つの数量の関係を表現し伝え合う活動
~段数と周りの長さの関係~
 この活動は,「C変化と関係」の(1)の指導における数学的活動であり,見いだした変化や対応のきまりを表現し伝え合うことで,伴って変わる二つの数量の関係に着目し,表や式を用いて変化や対応の特徴を考察できるようにすることをねらいとしている。
 例えば,段数と周りの長さの関係について,「段数を増やしていくと周りの長さがどのように変わるか」と問いをもったとする。
(略)
 児童は,変化や対応について,「段数が1ずつ増えると,周りの長さは4cmずつ増えていく」,「段数に4をかけると周りの長さになる」などの関係を見いだすであろう。見いだした関係は,表を用いて説明することができる。矢印などを用いると「+4」や「×4」の関係が捉えやすい。また,関係は表だけでなく,「4,4+4,4+4+4,…」,「段数×4=周りの長さ」などの言葉の式,○,△などを用いた式でも表される。
 さらに,「4cmずつ増える」,「4をかけると周りの長さになる」という関係には「+4」,「×4」といった不変な数量の関係がある。図を用いて,どこが「+4」,「×4」になっているかを表現することは,変化や対応についての新たな気付きを促し,関係についての理解を深めることにつながる。

 「段数×4=周りの長さ」というかけ算の式には要注意です。というのも,「一つ分の数×いくつ分=全部の数」の式と合わないからです。10段あるとき,4倍したら40段,ではなく,周りの長さは40cmになる,というのです。この種のかけ算は,Vergnaudが示した「関数関係」で説明がつきます*2。「×4」は,「だんの数」で構成される量空間から,「長さ」で構成される量空間への変換を行います。あるいは,「×4」が,「だんの数」と「(まわりの)長さ」という2つの異なる量空間の仲立ちをしている,と考えることもできます。
 さて,上記とほぼ同じ内容が,啓林館の算数教科書「わくわく算数 4下」(平成16年検定済)p.60にもあるのを知りました。穴埋めで関係式を書く欄が設けられています。「+4」「×4」はなかったものの,2段のときの周りの長さが,1辺の長さが2cmの正方形の周りの長さと同じになるという絵は,記載されていました。
 階段状の配置は見られませんが,啓林館のサイトで□や△を用いた式|算数用語集の後半に現れる表や式が,その事例となっています。
 4年の授業例を調査すると,『小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 4年〈下〉』*3のpp.170-171にも載っていました*4。該当箇所の板書例は以下の通りです。
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 1段,2段,3段の階段を見せた上で,一部隠れた10段については,周りの長さを計算で求めます。3段までを,計算でなく数えてみると,1段のとき周りの長さが4cm,2段だと8cm,3段では12cmと分かります。
 次に,段の数と周りの長さを表にします。「よこにみたときのきまり」として,1段増えると,周りの長さは4cm増えることを挙げています。また「たてにみたときのきまり」には,段の数に4をかけると周りの長さになるとしています。そこから,「だんの数×4=まわりの長さ」という言葉の式を導いています。
 ところで,10段のときの周りの長さを求める式は,4×10=40でも,10×4=40でも,いいのでしょうか。板書例では,「よこにみたときのきまり」から前者の式を,「たてにみたときのきまり」から後者の式を得ています。この授業を踏まえ,テストで「1辺が1cmのせいほうけいをならべて,かいだんの形をつくりました。10だんのとき,まわりの長さを求める式を答えなさい。」と出題すれれば,どちらでもかまわないはずです。
 しかし授業では「だんの数×4=まわりの長さ」と,言葉の式に表すことを重視しています。「4×だんの数=まわりの長さ」ではありませんし,冒頭の『小学校学習指導要領解説算数編』でも,その形の式は出現しません。
 ここまで見てきた情報源で,着目しておきたいことがあります。第4学年で学習する「伴って変わる二つの数量の関係」あるいは「変わり方」において,2つの変量がそれぞれ異なる種類の量を,値としてとることです。2つの変量とは,階段の周りの長さだと「段の数」と「周りの長さ」のことです。
 とはいえ,『小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 4年〈下〉』には,周りの長さが18cmの長方形の縦と横の長さなど,同種の量の関係を扱った授業例も見られます。なので,「異種の2量の関係を式で表すことを重視している」と考えることにしましょう。
 かけ算以外では,『小学校学習指導要領解説算数編』のpp.212-213に,正三角形を△▽△▽…のように並べて(隣り合う辺はくっつけて)図形をつくったとき,三角形の数と周りの長さを「(三角形の数)+2=(周りの長さ)」や「□+2=△」と表しています。これも,異種の2量の関係式となっています*5
 これまでの算数の授業,そして2020年度からの学習指導要領(に基づく算数教科書や授業)の第4学年で,期待される式のパターンは「独立変数 演算記号 定数=従属変数」*6であり,これに適合し,かつ独立変数と従属変数が異なる種類の量となるような事例が,採用もしくは継承されるように思っています。そこから,変数(を表す文字・記号)や等号を取り除けば「演算記号 定数」で,具体的には「+4」や「×4」などです。「定数 演算記号 独立変数」が好まれないのは,「4+」や「4×」といった表記が,(日本の)算数や日常生活で使われないことと関連付けられそうです。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmから入手できます。算数(2)のほうです。

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070のSCHEMA 5.3です。

*3:isbn:9784491027340

*4:この本の監修者・執筆者のうち,所属が「筑波大学附属小学校」なのは,中田寿幸,夏坂哲志,田中博史の3氏ですが,いずれも平成27年度以降の算数教科書では,啓林館ではなく学校図書の編集関係者として,名前が記載されています。

*5:三角形の数と周りの長さについて,p.212で表になっています。縦方向に見てたし算の等式をつくっています。そこから帰納的に考えると、言葉の式や記号を用いた式が導き出せます。なお,「異種のものの数量を含む加法」は,(新しい)『小学校学習指導要領解説算数編』では,第1学年の「加法が用いられる場合」の5番目として書かれています。

*6:「独立変数」の語は,今回貼り付けた板書画像のすぐ左の解説で用いられています。また今年の全国学力テストの中学校数学の解説にも「誤答については,「① 縦の長さ,② 面積」と解答した解答類型4の反応率が21.2%である。この中には,独立変数と従属変数の違いを区別できていない生徒がいると考えられる。」という記載があります。