かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

1皿ずつ

 2年で学習するかけ算では,「ずつ」がキーワードとなり,そこからかけられる数が特定できることがあります。「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こずつ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」*1という問題文だと,「3こずつ」の3が1つ分の数,「5まい」の5がいくつ分に対応し,1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数に当てはめて,3×5=15という式になるわけです。
 ここの「ずつ」は立式の根拠となるほか,「ずつ」を取り除くと,場面が変わってしまうという事情もあります。上の例を「さらが 5まい あります。1さらに りんごが 3こ のって います。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」に変えると,1皿だけ3個,残りはなしとして,「ぜんぶで 3こ」という答えも認めなければなりません。少しアレンジして「1さらに りんごが 3こ のって います。そのような さらが 5まい あります。りんごは ぜんぶで 何こ あるでしょう。」とすれば,「ずつ」はなくても,「ぜんぶで 3こ」とするわけにいかず,例えば3×5で求めることになります。
 「ずつ」が明示されない,かけ算の場面や出題の例について,本や雑誌,またWebから容易に見つけられます。次期の『小学校学習指導要領解説算数編』に当たっておきましょう。http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmよりダウンロードできる,算数(2)のPDFファイルを見ていくと,「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」と同じページに,「2mのテープの3倍の長さ」が出現します。倍概念です。第3学年に進むと,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」と「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」が同じ段落に書かれています。代金の件は,単価×数量と簡単化できます。ひもを4等分のほうは,○÷4=9から9×4=○を得るということで,逆思考もしくは除法逆の乗法とも呼ばれます。
 「ずつ」が書かれていても,かけ算でない場面を,見つけました。以下の文献です。

  • 岡直樹, 真鍋明日香: 適切な問題解決方略の習得へ向けた学習支援, 広島大学大学院教育学研究科紀要 第一部, 学習開発関連領域, No.62, pp.171-179 (2013). http://doi.org/10.15027/35345

 小学4年生の女児(Cl)に,8回にわたってカウンセリング(学習支援)をしています。その第1回カウンセリングで,2つの問題を与えています(p.174)。

(問題3−1)
アメが1皿に4こずつのっています。6皿では全部で何こありますか。

(問題3−2)
アメが4このった皿と6このった皿が1皿ずつあります。全部で何こありますか。

 Clの反応として,問題3-1には「白丸図に示して答えを想定し,正しく立式」しています。しかし問題3-2については,「4このった皿が3枚,6このった皿が3枚」を作っています。支援者(Co)とのやりとりの後,6-4=2と立式しますが,Coが「アメが4このったお皿と6このったお皿を1皿ずつ見せ」て尋ねると,そこでClは,6+4=10の式を書いています。
 ここまでの状況に関する分析が,p.174の右カラムで,1つの段落になっています。

 これらのことから,Cl は「ずつ」という言葉が修飾している事柄がわかっていないように推測された。問題3−1ではアメの個数である一つ分の大きさである被乗数を修飾し,問題3−2ではお皿の枚数といういくつ分を示す乗数を修飾しているという違いに気付いていなかったのである。(略)

 「問題3−2ではお皿の枚数といういくつ分を示す乗数を修飾している」と書かれているものの,想定される正解の式「4+6=10」*2では,かけ算ではなく,被乗数も乗数も出現しません。乗数を明示すると,6×1+4×1=6+4=10と表せますが,2年の教科書はもちろんのこと,乗数が1ばかりというのは,4年の教科書や指導案・指導例でも,ちょっと見かけません。
 かけ算とたし算の違いに関して,あるいはかけ算を学習したあとでも,2つの量の意味や関係に注意しましょうねという意図で,出題されてきたのは,「アメが4このった皿と6このった皿があります。全部で何こありますか。」でした。そこに「1皿ずつ」をつけたところで,場面も立式も答えも変わりませんが,「ずつ」があればかけ算という,キーワード方略を使っている子どもを見抜くことができる,というわけです。
 ちなみに(次期の)『小学校学習指導要領解説算数編』では,団子や掲示物の場面への乗法の適用に際して,「同じ数ずつ」が2度,カギカッコつきで書かれています。もちろんこれは,「ずつ」キーワード方略とは異なっており,「同じ数ずつ」方略の適用によって,問題3-2に対して4×6や6×4のような式を立てるものにはなっていません。

*1:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20131116/1384560000

*2:Clが最終的に立式した「6+4=10」とは,被加数と加数の順序が反対になっています。ここについては,学習者は6-4=2と書いてからそれを修正する形でたし算の式にしたこと,そして支援側としては,合併の加法なので順序は問わないと判断したことが,推測できます。