かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

順序の暗記か,意味の理解か

 https://twitter.com/tatsuvar/status/1483102039274291200に書かれた「「(一つ分の数)×(いくつ分)」、これ、暗記する必要は全く無いですよね?」について,明瞭な回答が,ツイートされていました。

 「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」という,かけ算の捉え方が目指すのは,「(かけ算の)意味の理解」であると言っていいでしょう。小学校学習指導要領の「乗法の意味について理解し,それが用いられる場合について知ること。」が関連します。小学校学習指導要領で「の意味」を検索し,学習指導要領解説や教科書と照合することで,第5学年の「乗数や除数が小数である場合の小数の乗法及び除法の意味について理解すること。」や「乗法及び除法の意味に着目し,乗数や除数が小数である場合まで数の範囲を広げて乗法及び除法の意味を捉え直すとともに,それらの計算の仕方を考えたり,それらを日常生活に生かしたりすること。」も,「(かけ算の)意味の理解」に密接に関係する学習が期待されることがわかります。
 「(かけ算の)意味の理解」を,2年の「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」で表すことに限定したとき,その学習のための題材は,教科書(当ブログからだと,ご案内の「令和2年度算数教科書読み比べ」)や書籍で様々なものを見ることができます。文章題のみならず,図から1つ分の数といくつ分を見つける事例もあります。昨年,次のように取りまとめていました。

 教科書・学習指導案・授業事例を総合すると,かけ算の式について,(国内の小学校の)算数の2~3年で学ぶのは,以下のとおりとなります。

  • かけ算の式を,言葉を使って表すと,「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」です。
  • 倍の場面では,そこから1つ分の数といくつ分を特定し,かけ算の式に表したり,その逆を行います。
  • 倍の場面では,かけられる数とかける数を反対にした2つの式(2×3と3×2など)が,異なる場面を表すことも学びます。
  • 積の場面では,そこから1つ分の数といくつ分のペアを自分で決めて,かけ算の式に表したり,他の児童が表したかけ算の式の読み取りを行います。
2つの場面と1つの場面:事例整理

 与えられた場面をかけ算の式で表すだけでなく,かけ算の式を提示してその意味を言葉で表すことも,「(かけ算の)意味の理解」と関連付けることができます(被乗数と乗数の関係を正しく書くには~令和2年度全国学力・学習状況調査より)。テストではなく授業事例については,8×3を,表から見つける「せーの」で,5×2? 2×5?などで,取り上げてきました。
 多種多様な対象からの学びを通じて,「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」という見方ができるようになる---意味を理解する---ことで,3年のわり算(等分除・包含除),4年の「たて×横=面積(または横×たて=面積)」や「段数×4=周りの長さ」,そして5年の意味の拡張につなげることができる,というわけです。上の学年での学習にあたり,「1つ分の数×いくつ分」は,暗記しておくわけでもありません。あやふやな理解であれば,先生・児童らのやり取りや,教科書を見直すなどして,そのつど「復習」すればよいのです。


 https://twitter.com/tatsuvar/status/1483102039274291200のうち,「テスト問題に「(一つ分の数)×(いくつ分)のじゅんでこたえよ」って書けば良い」には違和感があります。そのように問題文で指定するテスト問題(総括的評価や外在的評価)が思い浮かびませんし,「じゅん」は,計算の順序,例えば第3学年の(乗法の)結合法則で見かける表記です。
 教育出版の令和2年度の算数教科書(『小学算数3上』)では,「結合のきまり」として,「かけ算では,前からじゅんにかけても,後の2つを先にかけても,答えは同じになります。」がp.18に書かれています。なお,「交かんのきまり」「かけ算では,かけられる数とかける数を入れかえて計算しても,答えは同じになります。」はp.14で,「じゅん」に対応する言葉はそのページや前後に見当たりませんし,この「交かんのきまり」によって,「1つ分の数×いくつ分」「いくつ分×1つ分の数」のどちらで表してもよいのだとする教科書・参考書・学習指導案も見当たりません。