かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

円周率に「比の値」

 いくつかの辞書で,円周率の説明に「比の値」を使用しています。次期学習指導要領では,「比の値」は小学6年の算数で学習する用語の一つとなっています。


 数日前のツイートで,比の値が意味不明というのを見かけました。探し直すと,容易に見つかりました。

 「比の値」のパターンマッチを試みるとすると,辞書による定義です。オンラインで読める2つの辞書で,「円周率」の説明に,この語を使用しています。

  • Weblio辞書三省堂 大辞林):「円周の直径に対する比の値。記号 π (パイ)で表す。その値は 3.141592… で超越数であることがリンデマンによって証明された。 」
  • コトバンク(ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典):「平面上の円の円周と直径との比の値。すべての円で等しい。3.14のほか 22/7という数値がよく用いられる。(以下略)」

 「比の値」ではありませんが,wikipedia:円周率では「円周率(えんしゅうりつ)は、円の周長の直径に対する比率として定義される数学定数である」,goo辞書では「円周の、直径に対する比」と書かれています。
 次に,「比の値」とは何なのかを辞書から知るには,「比」を見ます.Weblio辞書には「a,bを同種の量とするとき,aがbの何倍かあるいは何分のいくつかに当たるか,という関係をaのbに対する比といい,a:bと書く。a/bをこの比の値という。」とあります。
 比の値については,メインブログで記事にしていました。比の順序問題 - わさっきです。そこで書かれた「比と比の値について,2:3=2/3(中略)とすることの批判を,Web上で見かけました」というのは,http://8254.teacup.com/kakezannojunjo/bbs/t21/2104より読むことができます。
 円周率と,比の値への批判を組み合わせると,こうなります。円周との直径との比が一定になるのはいいとして,この比の値は,「円周÷直径」でなくても,「直径÷円周」でもいいのではないか,と。
 とはいえ円周率の定義として「直径÷円周」を認めている文章を,見たことはありません。πを扱った数学の論文や読み物のほか,プログラミングの数学定数にも影響を及ぼします。
 ところで,算数において「どちらで割ってもよいが,一般にはこうする」というのは,比よりも前に学びます。「単位量当たりの大きさ」で,5年の学習事項です。現行では「混み具合」そして「人口密度」があり,学習指導要領の移行措置により2019年度からは,5年生も「速さ」を学習します。
 「混み具合」を(比較できるよう)一つの数とするには,「単位面積あたりの人数(人数÷面積)」のほか,「1人あたりの面積(面積÷人数)」でも求められます。単位面積あたりの人数が大きいというのは,1人あたりの面積が小さいことに相当し,「より混んでいる」となるわけです。その上で,人口密度については「単位面積あたりの人数」が採用されます。
 「速さ」も同様です。「単位時間あたりに移動する距離(距離÷時間)」のほか,「単位距離の移動に要する時間(時間÷距離)」も考えることができ,実際にわり算は行わなくとも,100メートル走などにおいて「タイムが短い」のが「速い」のは,「単位距離の移動に要する時間」だからです。単位時間あたりに移動する距離が大きいことと,単位距離の移動に要する時間が小さいことと,「より速い」がいずれも等価であるのを確認したのち,実用的な速さの式としては「距離÷時間」が用いられます。
 単位量当たりの大きさは「異種の二つの量の割合」です。それに対し円周率や,同じ大きさのコップで3杯と5杯の2種類の液体を混ぜ合わせて液体を作るといったシチュエーションは,同種の二つの量の割合(この語は学習指導要領に出てきませんが)です。どちらで割っても,その場限りで意味のある数値は得られますが,円周率は「どちらでもいい」というわけにいかず,「円周の直径に対する比の値」や「直径が円周の何倍になるかというわりあい」*1が採用されてきたというわけです。
 これからの算数での,「比の値」の扱いを知るには,次期の学習指導要領です。「解説」のつかない,小学校学習指導要領を読むには,次の2つの方法があります。本記事執筆時点で,PDFファイルのURLは「2018/05/07」を含んでおり,ゴールデンウィーク明けに大幅な刷新がなされました。

 いずれにも,第6学年の〔用語・記号〕に「比の値」が入っています。線対称・点対称などとともに,小学校で学習するというわけです。
 「比の値」とは何であるかは,『小学校学習指導要領解説算数編』によると以下のとおりです。a/bをa:bの比の値とすると,アプリオリに与えるのではなく,倍や割合などがその素地になっている点にも,注意をしたいところです。

 二つの数量の大きさを比較しその割合を表す場合に,どちらか一方を基準量とすることなく,簡単な整数などの組を用いて表す方法が比である。第5学年までに,倍や割合に関する指導,分数の指導,比例関係に関する指導などの中で,比の素地を指導してきている。第6学年では,これらの上に,a:bという比の表し方を指導する。比の相等(等しい比)及びそれらの意味を明らかにし,比について理解できるようにする。これに関連し,\frac{a}{b}をa:bの比の値ということや,比の値を用いると比の相等(等しい比)を確かめることができることを理解できるようにする。このようなことから,数量の関係を比で表したり,等しい比をつくったりすることができるようにする。

 比の値は,中学1年で比例式を扱うときにも使われます。『中学校学習指導要領解説数学編』には「2種類の液体A,Bを3:5の重さの比で混ぜる。B 150gに対して,Aを何g混ぜればよいか」を求める際に,Aをxグラム混ぜるとして,比例式3:5=x:150を立て,比の値を用いて\frac{3}{5}\frac{x}{150}とすれば一元一次方程式になり,xが求められるとしています。

*1:isbn:4095018054, p.83。