かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

かけられる数と積は同じ単位になることを教えるの?

 『算数授業に効く! “とっておきの語り”167選 4~6年生編』に,3年の学習を思わせる授業事例が収録されていました。
 「(137)リンゴを数えるかけ算の式」(p.148)です。見出しの上には〈6年 リンゴを数えるかけ算の式〉とあります。
 「教室での語り」の最初は,「リンゴを数えるかけ算の式を書きなさい。」という問題です。場面は3つあり,①は,1つの皿に,リンゴに見立てた○が2個ずつ,2枚の皿に乗っている絵です。②は,1つの皿に○が3個という絵です。③は,同じ大きさの皿が3枚,だけれどどの皿にも,○が描かれていません。
 ①については,ページ中央に「2×2=4」が間延びして書かれ,それぞれの数の下には「リンゴ(かけられる数)」「皿(かける数)」「全部のリンゴの数(積)」という言葉もあります(これらを書くために間延びしています)。②については,1×3か3×1かを問い,「かけられる数にはリンゴの個数がくるから3×1」とし,③は立式根拠の提示がなく「0×3」です。教室での語りは,「このように、かけられる数と積は同じ単位になることを教えると、他の文章題でも正しく立式することができます。」で締めくくられています。
 この最後の語りには,複数の誤解があるように見えました。まずは「教えると」のところです。教室での語りは,先生から子どもたちに話したり,問いかけたりしている状況であり,「教えると」は文脈に合っていません。書き換えるなら,「かけられる数と積は同じ単位になると考えると」でしょうか。
 もう一つのほうがより深刻で,6年の授業で「語り」を行うのであれば,「かけられる数と積は同じ単位になる」に反する事例(かけ算の式)を,これまでにいくつか学んできているはずです。分かりやすいのは,長方形の面積を求めるための「縦×横=面積」で,6年の学習であれば,柱体における「底面積×高さ=体積」も思い出したいところです。『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』の第4学年の学習で例示された「段数×4=周りの長さ」も,かけられる数と積は異なっています。
 今回見てきた本では,「速さ」が5年で扱われており,また平成29年告示の学習指導要領の算数でAからDまでの領域に変更がなされたことへの言及も,見かけますが,段数と周りの長さの件も,柱体の体積も,授業例は見当たりませんでした。
 6年で,「かけ算」に着目して,これまでの算数の学習を振り返るというのであれば,「かけられる数と積は同じ単位になること」だけでなく,「かけられる数と積が異なる単位になる」ようなかけ算の式と場面を,子どもたちに書かせるか,先生が提示し,次に,なぜ同じになったり異なったりするかを,検討すべきではないかと,読んで感じました。

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