かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

学習指導要領解説における「弁別」の使用について

 「正方形は長方形」関連で,『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を読んでみたところ,指導方針は現行の解説を踏襲する一方で,「弁別」の語が多数,使用されているのに気づきました。


 「弁別」の着目に至る背景から。
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 この表をきっかけとして,いくつかコメントや,詳細な分析ツイートを読むことができました。
 「正方形は長方形」というのは,小学校の算数では「正方形は長方形ではない」という方針で指導されていることへの批判です。メインブログで,テスト問題を取り上げていました。

例えば,東京都算数教育研究会が平成23年度に実施した学力調査には,第2学年を対象として,以下のような出題があります.

http://tosanken.main.jp/data/H24/happyou/20121019-7.pdf#page=7で,正解率や誤答の状況,そして分析も読むことができます.小問(1)の正解率(完答のみ.以下同じ)は78%,小問(2)は75%となっています.
小問(2)について,正方形の(え),(か)は正解に入っていません.そこでこの出題も,正方形を長方形としないという方針を採用していると見ることができます.


 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイルを対象として,正方形・長方形に限らず,「弁別」を機械的に検索してみました。算数(1)(第1章~第2章)では,以下の箇所に出現しました。

  • p.34: そのために,身の回りにあるものの形に目を向けて,次第に図形を捉え,その構成要素に着目しながら基本図形についての概念を形成するとともに,図形を弁別したり,図形を構成(作図)したり,図形の性質を明らかにしたりする。図形の頂点や辺,角等の構成要素を対象とする考察から,平行や垂直のような構成要素間の関係を理解し,さらに合同や拡大図・縮図のような図形間の関係についても学習する。
  • p.50: ものを弁別する際には多様な観点があり,その中の一つに形があるのだという意識がもてるように指導することが大切である。
  • p.51: 第5学年では,辺の数や長さなどに着目して多角形や正多角形を,また,底面,側面に着目して,角柱,円柱を指導する。各々の図形指導では,それを構成したり弁別したりする活動を取り入れ,その性質が発見できるように指導するとともに,図形の性質を筋道を立てて説明できるようにする。

 次は算数(2)(第3章~第4章,各学年の内容を含む)です。ページ番号の後ろに,対象学年をカッコ書きにしました。

  • p.118 (2年): 第2学年では,三角形や四角形,正方形,長方形,直角三角形について,図形を構成する辺や頂点の数に着目し,図形を弁別することを指導する。また,身の回りにある箱の形をしたものを取り上げ,立体図形について理解する上で素地となる学習を行う。基礎となる図形を構成する要素に着目し,それを基に考えていく態度を養う。
  • p.118 (2年): 第1学年では「さんかく」,「しかく」などと呼び図形を捉えていたが,第2学年では,3本の直線で囲まれている形を三角形といい,4本の直線で囲まれている形を四角形ということを約束する。これは,図形を構成する要素である辺の数に着目して,いろいろな図形から三角形,四角形を弁別しているのである。
  • p.119 (2年): 第1学年で,児童は身の回りのものの形について,形を全体的に捉える見方を学習してきた。第2学年では,辺の長さや直角の有無といった約束に基づいて図形を弁別できるようにする。
  • p.120 (2年): 身の回りのものを図形として捉えるとは,第1学年で全体的に捉えてきたものの形の見方から,図形を構成する要素に着目した約束に基づき三角形や四角形等を見いだすことを通して身の回りのものの形から四角形や三角形,正方形や長方形を弁別できるようにすることである。
  • p.156 (3年): 第2学年では四角形や三角形,正方形や長方形などについて,これらを構成する直線や直角などに着目することで,図形を弁別することを指導してきた。
  • p.170 (3年): このように身の回りにあるまるいものを観察し,どのように弁別できるかについて考える活動を行うことで,円や球に興味をもち,図形に関わろうとする態度を育てていく。
  • p.245 (5年): 多角形については,図形を構成する辺や角などの要素に着目して図形を弁別する。
  • p.288 (6年): このような線対称,点対称の意味について,観察や構成,作図などの活動を通して理解できるようにし,線対称な図形,点対称な図形,線対称でかつ点対称でもある図形を弁別するなどの活動を通して,図形の見方を深めることが大切である。
  • p.289 (6年): 対称性については,既習の三角形,四角形,さらには,正多角形について,線対称な図形,点対称な図形,線対称でかつ点対称でもある図形を弁別し,既習の図形を対称性といった観点から捉え直すことが大切である。

 この中で注目すべきなのは,p.120の「四角形や三角形,正方形や長方形を弁別できるようにすることである」のところでしょう。ここから,「これは四角形です」と言えば,三角形でないことを意味するのと同様に,「これは正方形です」が「これは長方形ではありません」を意味するように読めます。
 『算数教育指導用語辞典第四版』に書かれた「各図形の名称については,次のように決められている。すなわち,一般の図形の集合から,条件が付加されて特殊な図形の集合が作られたとき,その特殊な図形の集合に名づけられた名称が,その図形の名称となるということである。例えば,長方形も正方形も平行四辺形の条件はもつが,平行四辺形とよばず,付加された条件でできた集合の名称を用いるのである。」も,「正方形は,長方形ではない」の考え方をサポートするものとなっています。
 より新しいところでは,「算数授業研究」Vol.106*2で,「正方形と長方形とは別物である」とみる背反的な定義と,「正方形も長方形である」という包摂的な定義を挙げ,解説されています。主要部を,正方形でない長方形を持ってきてください - わさっきで引用しています。「長方形をもってきてください」と指示すれば,(正方形でない)長方形をもってくる,というのは,前掲の表に記載した「長方形の紙を折って正方形を作る」にも関わる話です。
 ともあれ,2年での「弁別」の出現頻度が高いのに驚きました。現行(平成20年6月)の小学校学習指導要領解説と比較しておきます。これも文科省サイトより,PDFがダウンロードできるようになっており,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syokaisetsu/index.htmに,算数(1)と(2)へのリンクがあります。
 算数(1)には,「弁別」は出現しませんでした。算数(2)では,次の2箇所です。

  • p.152 (4年): こうした四角形の名称を知り,使えるようにする。そして,平行四辺形,ひし形,台形について理解するためには,いろいろな四角形を構成し,それらを観察することを通して共通の性質をもつ図形に分類したり,それぞれの図形の性質について調べたり,図形の約束や性質に基づいて作図したり,弁別したりする活動に取り組むことが大切である。また,身の回りから,平行四辺形,ひし形,台形の形をした具体物を見付ける指導をする。*3
  • p.204 (6年): このような線対称,点対称の意味について,観察や構成,作図などの活動を通して理解できるようにし,線対称な図形,点対称な図形,線対称でかつ点対称でもある図形を弁別するなどの活動を通して,図形の見方を深めることが大切である。

 2年では言及なしです。長方形・正方形の定義は,p.93の「四つの辺の長さが等しく,四つの角が直角である四角形を正方形という。」と「また,四つの角が直角である四角形を長方形という。」のところですが,2文の間やそのあとの記述から,正方形と長方形の違い,結局のところ「正方形は長方形ではない」に基づく指導が念頭に置かれています。
 まだまだ,新旧の解説や,関連情報との読み比べをしていかないといけません。なお,算数用語の出現という観点では,和が10以上になる加法(1年)のところで「加数分解」「被加数分解」が,新たな解説に記載されています(「減加法」「減々法」,新旧どちらの解説でも,そして1つ前(平成11年5月)の解説でも,使われています)。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:isbn:9784491032610

*3:新しい解説では,第4学年の内容で「弁別」が使われていません。平行四辺形ほかの図形に関して,最も関係しそうな記述はp.199のところで,「直線の位置関係や辺の長さに着目することで,平行四辺形,ひし形,台形について知る。すなわち,向かい合った二組の辺が平行な四角形を平行四辺形といい,四つの辺の長さが等しい四角形をひし形といい,向かい合った一組の辺が平行な四角形を台形という。こうした四角形の名称を知り,図形の置き方をいろいろと変えても,その図形の名称が判断できるようにする。」とあります。

ファンタジーの法則 × 被乗数と乗数の順序

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を見ますと,p.114に、次のような記述があります。

 ここで述べた被乗数と乗数の順序は,「一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。

 このことを,1枚の図にしてみました。
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 「4皿に3個ずつみかんが乗っている」は,同じPDFファイルの次のページで例示されています。これを「実際の場面」の出発点とし,算数教科書で広く採用されている「1つ分の数×いくつ分」*2の形で表すと,「1つ分の数」になるのは「3」,「いくつ分」は「4」なので,「3×4」の式を得ます。
 3×4=12を求めるのは,「さんしじゅうに」の九九でもいいし,「3×4=3+3+3+3=12」の(同数)累加でもかまいません。この問題には適用しにくいですが,かけられる数とかける数の組み合わせによっては,「ひっくり返してかけても答えは同じ」の交換法則を使うことがあっても,かまわないのです。
 さて,「4皿に3個ずつみかんが乗っている。みかんは全部でいくつ?」に対して「12」と答えるのでは,数量の認識がきちんとできているとは言えません。この12は,みかんの総数ですから,「12個」となります。これが,「実際の場面」における解答であり,求めたいことであり,ゴールなのです。
 与えられた問題を,ダイレクトに(例えば暗算で答えのみを)得るのではなく,コの字のように迂回しながら,ゴールに到達しようという試みについては,出典があります。
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プログラマの数学

プログラマの数学

 この図において,「別世界の問題へ変換する」段階と,「別世界で解く」段階とで,利用できるものが異なると考えられます。かけ算の文章題を解く際にも,同じことが言えます。すなわち,実際の場面から算数の式に変換する段階では,3×4=4×3などの交換法則や,「1つ分の数×いくつ分」という言葉の式に交換法則を適用した「いくつ分×1つ分の数」は,知る限り小学校の算数において,認められていません。
 なぜ認められないのかについては,『小学校学習指導要領解説算数編』p.114にある,以下の記述が参考になりそうです。

 式に表す指導に際しては,「1皿に5個ずつ入ったみかん4皿分の個数」というような文章による表現,○やテープなどの図を用いた表現,具体物を用いた表現などと関連付けながら,式の意味の理解を深めるとともに,記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうことができるようにする。
 式を読み取る指導に際しては,例えば,3×5の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」という問題をつくることができる。このとき,上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という場面との対置によって,被乗数と乗数の順序に関する約束が必要であることやそのよさを児童に気付かせたい。

 あとの段落には,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」と「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という,「1つ分の数」と「いくつ分」を交換した2つの文章題が書かれています。これらを出発点としたとき,冒頭の図に基づくなら,前者は「3×5」,後者は「5×3」という式で表せます。そして,かけ算の結果はともに「15」であり,プリンは全部で「15個」です。
 それに対し,交換法則を認めろ,「1つ分の数×いくつ分」という式の立て方だっていいじゃないか,という立場では,どちらの式も「3×5でも5×3でもよい」となります。
 2つの場面を式で区別できないのは,「記号×を用いた式の簡潔さや明瞭さを味わうこと」を損なうことを意味し*3,算数教育において受け入れられていない,というわけです。
 メインブログ(わさっき)では、ファンタジーの法則をいろいろな形で紹介・活用してきました。合わせてご覧ください。

 Twitter上で,「掛算順序固定」だとか「強制」だとか,こんな教え方では「ずつ」の書かれていない文章題では答えが出せないだとかいった主張を,見かけますが,『小学校学習指導要領解説算数編』の他のページも,しっかり読んでおきたいところです。例えばp.126では,串にささった団子の写真が出発点となっています。「同じ数ずつ」は問題文にはなく,それに気付くことが,かけ算で表すための勘所となっています。文章題だと,3年になりますが,「1mのねだんが85円のリボンを25m買うと代金はいくらか。」や「ひもを4等分した一つ分を測ったら9cmあった。はじめのひもの長さは何cmか。」といった,「ずつ」の出現しないものが,p.140に見られます。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:『小学校学習指導要領解説算数編』では「一つ分の大きさ」「幾つ分」という表記が用いられています。「大きさ」であって「数」なのは,被乗数に当たる数量は,2mや0.1Lといった連続量でも可能であるからと推測できます。幾つ分のほうは分離量に限られ,5年の小数の乗法で,意味の拡張がなされます。

*3:「3個×5パック」でも「5パック×3個」でもいいじゃないか,などといった主張にも,当てはまります。

「被乗数と乗数の順序」について

 「被乗数と乗数の順序」を,算数教育(ネットの風評ではなく)の流れの中で理解するには,現行(2008年公開)およびこれから(2017年公開)の『小学校学習指導要領解説算数編』のあいだ,2011年に出版された『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践』を読んでおきたいところです。


 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を見ると,p.114に3回,「被乗数と乗数の順序」が出現します。段落は次のとおりです。

 ここで述べた被乗数と乗数の順序は,「一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである。一方,乗法の計算の結果を求める場合には,交換法則を必要に応じて活用し,被乗数と乗数を逆にして計算してもよい。*2

 式を読み取る指導に際しては,例えば,3×5の式から,「プリンが3個ずつ入ったパックが5パックあります。プリンは全部で何個ありますか。」という問題をつくることができる。このとき,上で述べた被乗数と乗数の順序が,この場面の表現において本質的な役割を果たしていることに注意が必要である。「プリンが5個ずつ入ったパックが3パックあります。プリンは全部で幾つありますか。」という場面との対置によって,被乗数と乗数の順序に関する約束が必要であることやそのよさを児童に気付かせたい。

 Googleで"被乗数と乗数の順序"を検索したところ,2014年に,別々の3つのところで,使われているのが確認できました。

その2. 《被乗数と乗数の順序
次に見ておきたいのは,かけ算の式を「かけられる数×かける数」で表すか,「かける数×かけられる数」で表すかです.
この場合,かけ算の答えと同じ種類の量になるほうを「かけられる数(被乗数)」,他方を「かける数(乗数)」とします.なお,面積を含む「量の積」や,アレイの計数は,対象外となります.
メールで「3コマ×5人=15コマ」と書いて送れば,「3(コマ)」がかけられる数,「5(人)」がかける数です.あるレシートに「17個 X 単105」と打たれていれば,「17(個)」はかける数,「単105」は単価が105円とみなし,これがかけられる数となります.
これに由来する順序を,《被乗数と乗数の順序》と呼ぶことにします.

Description 日本語: かけ算の順序に関して、,乗数と被乗数の順序が加算減算と異なることの説明

(3)被乗数4×乗数3=被乗数3×乗数4
これが、文科省の理解であった。
 被乗数と乗数の区別について、×の左を被乗数、右を乗数とするのは、明治時代に西洋から教わったときの西洋の主流の理解がそうだったからであり、現在の西洋の主流は逆になっても、日本では教わったときの順序を守っているわけである。
 つまり、数字4と3の順序は入れ替わっても、被乗数と乗数の順序は入れ替わらないのである。

 2014年の上記の3件は,依拠するものが異なっています。最初と最後のブログ記事は,それぞれ本文中に書かれています。2番目のgifですが,状況としてはwikipedia:かけ算の順序問題に追加するための画像を試作し,日の目を見なかったと思われます。
 もう少し補足すると,英文的演算では「2×」が左に来ることについては,古くから指摘があり,1968年のhttp://ci.nii.ac.jp/naid/110003849391の文献のほか,『算数・数学教育つれづれ草』*3p.46に書かれている,「5円の品3個の代金の立式は,3×5ではダメなのか」の論争が,昭和40年(1965年)ごろに湧き起こったこととも関連します。
 ここまで『小学校学習指導要領解説算数編』を含め,ネットで読める情報ばかりでした。ですが,2011年に出版された中にも,「被乗数と乗数の順序」を明記しているものがありました。

 出現するのはp.113です。

 乗法の数学的定義についても,集合の要素の数という観点からの定義と,順序という観点からの定義がある。
 算数科では,整数の乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かにあたる当たる大きさを求めるという場面で導入される。整数の世界では,その値を求めるためには,同数累加を行うことになる。つまり,乗法は同数累加の簡潔な表現として用いられることになる。この定義では,3×4=3+3+3+3,4×3=4+4+4となる。つまり,被乗数と乗数の順序に意味がある。また,交換法則(a×b=b×a)やa×(b+1)=a×b+aが成り立つことにも気づかせたい。例えば3×5の場合,3を5個足す代わりに,3を4個足したもの(3×4)に3を1個加えればよい。つまり,3×5=3×4+3となる。この性質を活用して1位数同士の乗法を考えていく(乗法九九の構成)。なお,平成20年改訂の学習指導要領においては,これらの乗法九九の構成の延長として,被乗数や乗数が12程度までの乗法を扱うこととなっている。

 ここの「被乗数と乗数の順序に意味がある」について,2種類の解釈ができます。一つは,「3×4=3+3+3+3であり,4×3=4+4+4なのだ」と,被乗数と乗数の順序に,意味が定められている,というものです。
 もう一つの解釈では,「に意味がある」を「は重要だ」と置き換えます.英語でぴったりの単語があり,自動詞のmatterです。http://books.google.co.jp/books?id=2NX4I6mekq8C&pg=PA3より読める授業で,先生が"Eddie says that order does matter"と言うシーンがあります*4
 「意味」はともあれ,上記の「算数科では」から始まる段落は,新しい学習指導要領および解説の記述にも適合します。時系列としては,2008年に現行の『小学校学習指導要領解説算数編』が公開・発行され,それをもとに『新しい学びを拓く算数科授業の理論と実践』で解説がなされ,「意味がある」が「本質的な役割を果たしている」や「約束が必要である」に置き換えられて,2017年6月,新しい学習指導要領に基づく『小学校学習指導要領解説算数編』に記載された,という流れを見ることができます。
 なお,上記引用を含む第6章第1節の執筆者は清水紀宏氏です。福岡教育大学教授で,日本文教出版平成27年度版『小学算数』の著作者にも,名前が載っています。
 「順序」の言葉は出現しませんが,次の本も見ておきます。

「小学算術」の研究

「小学算術」の研究

 著者の高木佐加枝は,昭和10年からの「緑表紙教科書」の編纂に携わった人です.「緑表紙教科書」では,九九の学習をそれまでの乗数先唱(3×4=12は「しさんじゅうに」)から被乗数先唱(3×4=12は「さんしじゅうに」)に改めました。その根拠が,『「小学算術」の研究』pp.246-247に記されていました。

a. 各段の九九を被乗数を一定にして纏めることにすると,この一定な数を冒頭に呼ぶ方が都合がよい。筆算の掛算では,乗数先唱を本体とするが,これは後に指導することで,九九構成の最初においては,被乗数先唱で九九を覚えさせることが,児童心理に叶っている。
b. 国語は,「5円の色紙を8枚」「3を4倍する」というように,被乗数を先にする言い方である.
c. 式に表す場合も 5円×8 というように,被乗数を先に書くのを常とするから,被乗数先唱の方が都合がよい。

 最後の項目の「5円×8」も興味深いところです。「5円×8枚」ではありませんし,積は40円です。とはいえ今の算数では,式に単位を付けず,「5円の切手を8まい買いました。ぜんぶでいくらですか」という文章題には,式は5×8=40,答えは40円と書くことが期待されます。

 お知らせ:本記事の内容を手直しし,かけ算の「順序」について(2017.12)に取り入れました。合わせてご覧ください。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:第1文は,結城浩プログラマの数学』でかかれた図(http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150128/1422391025)を使うと,「別世界の問題へ変換する」に関するもので,第2文は「別世界で解く」です。交換法則が立式の段階で適用できないのは,それぞれのステップで使えるものが異なるからと言えます。

*3:isbn:9784491026183

*4:ただし乗法の交換法則の学習ということもあり,"the answer is the same no matter which number goes first."や"I don't think it matters what order the numbers are in."のように,否定語を含む文の中にも出現します。私訳はhttp://d.hatena.ne.jp/takehikom/20150822/1440184614をご覧ください。

中央公論2015年12月号の,“掛け算の順序問題”を含む対談

 この記事の趣旨は,小学校を通してかけ算がどのように学習されているかをきちんと認識することなく,「かけ算の順序問題」が教育批判のための道具として手軽に使われているなあという,残念な気持ちの表明にあります。

 中央公論2015年12月号掲載とのこと.知ったきっかけはhttp://d.hatena.ne.jp/samakita/20170315/p1です。対談の途中に「掛け算の順序問題」が出てきます。

川端「今日、是非お話ししたいと思っていたのが、小学校の“掛け算の順序問題”です。“1×2”も“2×1”も答えは同じですよね。しかし、(※)これを『問題文の順序通りの式で計算しないと不正解にする』という動きが小学校であるんです。例えば、『脚が2本の鶏が3羽いた時、脚の数は全部で何本でしょう?』という問題なら、(※)“2×3=6”は正解で、“3×2=6”を不正解にするという具合です。不正解とされた子供の保護者が驚いて、毎年必ず議論になるんです」
左巻「『どちらか一方の式しか正解にしない』というのは、数学的な思考とは言えないですね」
川端「掛け算を初めて習う小学生にわかり易いように、『2本の脚×3羽だから6本でしょう』と説明をするのはわかりますが、それを小学5~6年生になっても『片方の式しか認めない』という教育が行われているのは変だと思うんです」
左巻「教師が使う指導書に、『こう教えるように』と書いてある場合があるんですよ。教科書は検定を通らないと使えませんが、指導書は検定を受けないので、何を書いても許されるんです」
川端「少なくとも、教科書会社は『小学生の間は順序を固定しなければいけない』と考えている訳ですね。これはもう、現場の教師レべルではどうしようもなくて、教材として使われるドリルやワーク等も、正解を一方に固定するものが使われている訳です。それくらい深く浸透している。わからないのは、『こうした非合理的な信念はどこから来るのか?』ということです。結局、中学生になればどっちでも正解になります。というか、そんなことは先生も気にしなくなる」
左巻「昔は、そんな教え方は無かったと思います。マイナーな指導法が、いつの間にか拡散していったのかもしれません。掛け算をイメージし易く教える導入場面はあってもいいと思いますが、順序をずっと固定化・強制して、逆に答えると『掛け算の意味を理解していない』と×にするのは、直ぐに止めてほしいですね」

 2度出現する「(※)」については,ページの終わりに注釈が入っています。

(※) 混乱を招く言い方なので、深くお詫びします。書き直すとすれば、「文章題の計算をする時、決められた順序で式を立てないと不正解にするという動きが小学校であるんです」「うっかり出てきた順に“3×2=6”と書くと不正解。“2×3=6”が正解という具合です」。個人でとりいそぎできる訂正としてここに掲示しておきます。
http://blog.goo.ne.jp/kwbthrt/e/d3d063f9ae6b16474acbe3cc050648dc

 リンク先を読みました。書き直し案があります。

書き直すとすれば、
*****
川端 今日、ぜひお話ししたいと思っていたのが、小学校の「かけ算の順序問題」です。一×二も二×一も答えは同じですよね。しかし、文章題の計算をする時、決められた順序で式を立てないと不正解にするという動きが小学校であるんです。
例えば、「三羽の鶏がいます。鶏の脚は二本です。脚の数は全部で何本でしょう」という問題で、うっかり出てきた順に三×二=六と書くと不正解。二×三=六が正解という具合です。不正解とされた子どもの保護者が驚いて、毎年必ず議論になるんです。
*****
これ、二段落目も、問題を際立たせるために変えてます。

 ここまで見た上で,関連しそうなものと対比していきます。
 まず,対談中の「問題文の順序通りの式で計算しないと不正解にする」について,思い浮かぶのは以下の本と,増刷による書き換えです。

 2014年のこの件が,2015年の中央公論の対談でも同様に起こっているというのは,小学校を通してかけ算がどのように学習されているかをきちんと認識することなく,「かけ算の順序問題」が教育批判のための道具として手軽に使われていると,思えてなりません.
 『江戸しぐさの正体』では「交換法則」を持ち出し,また上記対談ではこの語の代わりに「“1×2”も“2×1”も答えは同じですよね」という発言が見られます。
 これもまた,国内外の算数教育の状況を把握していないと言わざるを得ません。それらの式を使うなら,「1×2と2×1,答えは同じでも意味が違う」です。国内でいうと,東京書籍の教科書の例があります。

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 国外の授業については,日本語非ネイティブの教授が紹介しています。

 この文献に見る,イランの授業では,「16を3でかける」と「3を16でかける」の意味の違いを,ある生徒が発表し,そこで先生がみんなに拍手を促すシーンがあります。アメリカの授業の事例でも,原文となるhttp://books.google.co.jp/books?id=2NX4I6mekq8C&pg=PA3を読むと,「5個入りのリンゴが2袋」と「2個入りのリンゴが5袋」を言う生徒の発表を,先生は肯定的に取り上げています。交換法則に関連する「答えは同じ」を指摘する生徒に対しては,「2つの式が違った場面を表すのに使えないって言うのですか?」と先生が質問をしていており対照的です。
 最後に,中央公論の対談にも,川端裕人氏による書き直しにも見られる,「という動きが小学校であるんです」について,いつからその種の指導(また指導を意図した出題)がなされているかが無視されています。書き直された「三羽の鶏がいます。鶏の脚は二本です。脚の数は全部で何本でしょう」について,同種の出題を以下にて整理しています。

 意図されているのが分かるのは,1941年の「カズノホン(水色表紙教科書)」です。より具体的な指導は,1951年の小学校学習指導要領算数科編(試案)にあります。また1957年に刊行された『算数科の教育心理』という本では,当時かけ算を学ぶ3年生では,かけられる数とかける数を反対に書くのは指導の対象となっています。
 ただし,『算数科の教育心理』において,45名で4回ずつイスを運ぶ場面で,4×45のほか45×4でも正解となることを,子どもたちに見つけさせています。4年生の指導例です。この種の授業が,これまで(現行の学習指導要領や算数教科書のもとで)なされていたわけではありませんが,トランプ配りや,Vergnaudの関数関係などととも関連しており,新しい『小学校学習指導要領解説算数編』でもその一部が取り入れられています。
 「それを小学5~6年生になっても『片方の式しか認めない』」でないことを含む事例を,以下にて紹介しています。

 小学校を通じて,かけ算がどのように学習されているかをきちんと認識することなく論じられる状況を,残念に思います。

新しい学習指導要領では,割合を4年で学ぶ

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1を読み,そこでは(すなわち平成32年度からは),割合を4年で学習することになるのを確認しました。
 「算数(1)」のファイル,すなわち各学年の説明より前の文書の中から,主だった箇所を抜き出します。

(p.61)
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(pp.63-64)
二つの数量の関係と別の二つの数量の関係とを割合を用いて比べること
 二つの数量の関係と別の二つの数量の関係を比べるとは,A,Bという二つの数量の関係と,C,Dという二つの数量の関係どうしを比べることである。ここで,比べ方には大きく分けて,差を用いる場合と割合を用いる場合があると考えられる。「A君はBさんより3歳年上である。CさんはD君より5歳年上である。どちらの方が年齢差があるか。」では,AとBの関係とCとDの関係という二つの数量の関係どうしを,差でみて比べている。
 一方,比べる対象や目的によって,割合でみて比べる場合がある。割合でみるとは,二つの数量を,個々の数量ではなく,数量の間の乗法的な関係で見ていくことである。例えば,全体の中で部分が占める大きさについての関係どうしや,部分と部分の大きさの関係どうしを比べる場合は,割合でみていく。「シュートのうまさ」を,「シュートした数」と「入った数」という全体と部分の関係に着目して比べる場合などである。また,速さを比べる場合のように,距離と時間などの異種の量についての関係どうしを比べる場合は,差で比べることには意味がないため,割合でみていくことになる。
 二つの数量の関係どうしを割合でみて比べる際は,二つの数量の間の比例の関係を前提としている。二つの数量の関係と別の二つの数量との関係が同じ割合,あるいは,同じ比であることは,問題にしている二つの数量について,比例の関係が成り立つことが前提となっている。上述の「シュートのうまさ」の例で言うと,0.6の割合で入る「うまさ」というのは,10回中6回入る,20回中12回入る,30回中18回入る…などを,「同じうまさ」という関係としてみていることを表している。また,二つの液体AとBを2:3の比で混ぜ合わせてできる「液体の濃さ」も同様である。そして,この前提に基づいて,数量の関係どうしを比べたり,知りたい数量の大きさを求めたりしている。このように,割合では,個々の数量そのものではなく,比例関係にある異なる数量を全て含めて,同じ関係としてみている点が特徴である。

(p.64)
二つの数量の関係に着目すること
 これは,日常の事象において,割合でみてよいかを判断し,二つの数量の関係に着目することである。
 第4学年では,日常の事象において,比べる対象を明確にし,比べるために必要な二つの数量を,割合でみてよいかを判断する。そして,一方を基準量としたときに,他方の数量である比較量がどれだけに相当するかという数量の関係に着目する。第4学年では特に,基準量を1とみたときに,比較量が,基準量に対する割合として2,3,4などの整数で表される場合について扱う。(略)

(pp.64-65)
数量の関係どうしを比べること
 これは,図や式を用いて数量の関係を表したり,表された関係を読み取ったりしていくことで,割合や比を用いて数量の関係どうしを比べることである。
 第4学年では,日常生活の場面で,二つの数量の組について,基準量をそれぞれ決め,基準量を1とみたときに,比較量がどれだけに当たるかを,図や式で表す。そして,個々の数量の大きさと混同することなく,割合を用いて,数量の関係どうしを比べ,考察していく。(略)

(p.65)
二つの数量の関係の特徴を基に,日常生活に生かすこと
 これは,二つの数量の関係どうしを割合や比で比べた結果を,日常生活での問題の解決に生かしていくことである。
 第4学年では,基準量の異なる二つの数量の関係どうしを,2,3,4などの整数で表される割合を用いて比べる場面で,得られた割合の大小から判断をしたり,割合を用いて計算をした結果から問題を解決したりする。(略)

 「算数(2)」で第4学年を見ていくと,「乗数や除数が整数である場合の小数の乗法及び除法の計算ができること」(p.189)のところで,「除法の意味は,乗法の逆で,割合を求める場合と基準にする大きさを求める場合で説明できる」と書き,その次の段落の「6mは4mの何倍かを求める場面」が,割合を求めるように読めます。ただしこの節では,6÷4=1.5によって得られる1.5倍が割合となることを明言していません。A(数と計算)の領域です。
 同じ学年のC(変化と関係)の領域では,「簡単な場合について,ある二つの数量の関係と別の二つの数量の関係とを比べる場合に割合を用いる場合があることを知ること。」が(解説のつかない)学習指導要領に入っていることもあり,詳しく解説されています。ここで「簡単な場合」とは,上で引用したとおり,「基準量を1とみたときに,比較量が,基準量に対する割合として2,3,4などの整数で表される場合」です。例題としては「ある店で,トマトとミニトマトを値上げしました。トマトは1個100円が200円に,ミニトマトは1個50円が150円になりました。トマトやミニトマトではどちらがより多く値上がりしたといえますか。」(p.214)や「平ゴムAと平ゴムBがあります。平ゴムAは,10cmが30cmまで伸びます。平ゴムBは,80cmが160cmまで伸びます。どちらがよく伸びるゴムといえますか。」(p.215)が書かれています。
 2つの領域で,わり算によって得られる値が異なります。Aの領域では,「整数÷整数=小数」を行い,ある場面ではその商(小数)が割合に対応します。Cの領域では,「整数÷整数=2または3または4」です。割合を計算するだけでなく,「乗法的な関係でみてよいかを判断」することや,「図や式を用いて数量の関係どうしを割合で比べること」などが,Cの領域では要請されています。
 ただし,解説には明記されていませんが,共通点もあります。これらのわり算は,「割合の第1用法」であり*2,かつ,整数÷整数による計算に限られます。
 演算の対象を小数にまで広げるとともに,意味の拡張を行い,p:割合,B:基準量,A:比較量として,「p=A÷B」「A=B×p」「B=A÷p」の場面でも適切に式を立てて答えを求められるようになるのは,5年の学習事項です。なお,4年では,「10mは4mを1とすると2.5にあたる」(p.188)などにより,小数を用いた倍を学習しますが,4×2.5=10といった式は対象外です。
 ここまでのことは,日本学術会議 数理科学委員会 数学教育分科会が昨年公表した初等中等教育における算数・数学教育の改善についての提言の,pp.6-7に書かれた「改善の具体案」が反映されたものとなっています。長くなりますが抜き出します。

(1) 小学校
① 「割合」の背景にある考えの位置づけ
 割合の意味の理解については学力調査などの結果から課題があることが明らかである。割合の扱いは、第5学年の百分率や異種の2つの量の割合のときだけでなく、乗法・除法の意味付けや分数で表記された数量の解釈などでも用いられている。それらの系統を明示するとともに、特に、以下の位置づけについて、改善すべきある。
ア 分数倍、小数倍の位置づけ
 小数倍、分数倍を系統的な観点から位置づけるべきである。
 例えば、5mと2mのテープを比べるとき、「差で3mの違いとみる見方」以外に、「2mを1とすると5mは2.5倍(5/2)となり、5mを1とすると2mは0.4倍(2/5)となる見方」があり、後者を除法の系統の中で明らかにすべきである。また、分数の指導において、「8の1/2は4」「6の1/3は2」などの2つの数の関係を分数で表すことも扱うべきである。小数の指導においても同様であり、小数と分数を関連させて、同じ数を表す異なる表記であることを強調すべきである。
イ 演算の意味指導の位置づけ
 乗数や除数が整数から小数や分数になったとき、演算の意味が拡張し統合されることをより一層強調すべきである。第5・6学年での乗法・除法の意味の拡張については、現行の学習指導要領では「乗法及び除法の意味についての理解を深め」とあり、学習指導要領解説で数直線を用いた割合の意味付けが書かれている。しかし、教科書や授業では、意味の拡張を意識せず、言葉の式による指導が行われている現状がある。そこで、意味の拡張については、「乗数を割合と捉えて乗法の意味を拡張し、乗法の理解を深める」と乗法の拡張における割合の意味付けを学習指導要領に明記する。
 また、乗法・除法の意味と関わる整数倍・小数倍・分数倍の指導の位置づけや系統が明確にされていない。そのため、学力調査の結果では倍についての理解が十分とは言えない状況である。そこで、整数倍、小数倍などを何学年でどのように指導するかを明らかにすると同時に演算の意味指導を視野に入れた割合の指導系統を明確にすべきである。
 その際、演算の意味指導や計算の仕方を導き出すために有効な働きをする数直線の系統を明確にする。乗法・除法において何学年から数直線を導入し、どのように発展させるかを学習指導要領解説に明記する。

 この具体案では,割合を4年で学習するようにせよとは明記していませんが,「割合の意味の理解については学力調査などの結果から課題があることが明らかである」や「乗法・除法の意味と関わる整数倍・小数倍・分数倍の指導の位置づけや系統が明確にされていない」などから,現行どおり5年で割合を学習しているのでは良くないという問題意識を見ることもでき,これが,新しい学習指導要領にも反映されたと解釈できます。
 今後は新しい学習指導要領に基づいて,教科書が作られ*3,授業で展開することとなります。個人的には,「6mは4mの何倍か(6÷4=1.5)」は4年の学習なのに対し,「4mの1.5倍は何mか(4×1.5=6)」は5年となるところで,何らかの弊害が生じないか気になっています。
 なお,提言からの引用のうち,「分数の指導において,「8の1/2は4」「6の1/3は2」などの2つの数の関係を分数で表すことも扱うべきである」は,新しい学習指導要領では2年の学習となります。解説のp.106には,3行4列のアレイを用いた図が入っていました。

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*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htm

*2:整数÷整数で基準量を求める,第3用法に相当するものも,Aの領域に入っていますが,連続量÷分離量であり,商はもとの数量よりも小さくなります。

*3:算数教科書で次に検定を受けるのは,平成31年度使用分からなので,平成32年度以降適用の次期学習指導要領との間でどうなるのかも,気にはなります。現行では,先行実施があったのですが,今回については文科省サイトでとくに公表されていません。

4a+3bの3例

 中学数学の指導する側のQ&A集です。質問部が網掛けになっているほか,図表や手書きノートが効果的に使われており,読みやすい構成となっています。
 「数と式」の問16は,「文字式の意味を具体的な事象と関連付けて読み取ることができない生徒がいます。どのように指導をすればよいですか。」とあります(p.27)。回答では,2段階の指導が提案されています。後半を書き出します(p.28)。

 文字式を提示して,それに関連する事象を考える場を設定する。例えば「4a+3b」を提示して,この式に関連する事象を考えるようにすると,次のような場合が挙げられる。

  • 1人a円*1の品物を4つ,1つb円の品物を3つ買ったときの代金の合計
  • 時速4kmでa時間,その後,時速3kmでb時間散歩したときの距離の合計
  • 1辺a cmの正方形と1辺b cmの正三角形のまわりの長さの合計

 このような活動と共に,それを確かめる活動を通して,文字式の意味を読み取る方法が身に付くと考えられる。

 箇条書きの3つの「合計」については,小学6年の算数でも,式にすることができます(文字を用いた式)。単位は別にして,代金の合計は,a×4+b×3と表せます。距離の合計は,4×a+3×bです。長さの合計は,4×a+3×bです。
 乗算記号の左が文字で右が定数,またその逆というのもありますが,これらは小学校の,「一つ分の数×いくつ分」に基づいているからです。
 その上で,中学数学の文字式のルールに従い,どの式も4a+3bと表すことになります。
 とはいえ「文字式の意味を具体的な事象と関連付けて読み取ること」を苦手とする生徒が,4a+3bの文字式から,この3つの例を思い浮かぶというのは,期待しにくいところです。これについて,授業でたくさん作らせるのはどうでしょうか。
 「4a+3bで表されるような場面を書きなさい。例:お菓子a個入りの袋が4つ,同じお菓子b個入りの袋が3つあるときの,お菓子の合計」と出題します。教師は紙を用意しておき、1枚に1つの答え(場面)を書いてもらいます。苦手な生徒は1つだけでもよく,得意な生徒は何パターンも書くことになるでしょう。時間を決めて回収し,集計することで,いろいろな場面が作れることを,クラスで共有できるのではないかと思いました。

*1:原文ママ。「1つa円」と思われます。

小学校学習指導要領解説算数編(平成29年)と合わせて読みたい文献

 2017年6月21日に公開されたバージョンについて、ざっと目を通し,https://twitter.com/takehikom/status/877525224995946496から始まるツイートをしました。
 関連する文献(論文・書籍)を以下に並べておきます。

小学校学習指導要領解説 算数編

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数学教育学研究ハンドブック

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 本記事は,メインブログの以下の記事と連携しています。

(最終更新:2018-05-14 晩)

*1:算数(1)および算数(2)のリンクは,把握している限りでこれまで4回,URLが変更されています。ファイル名およびファイルサイズが異なっています。