かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「20分/500円」から,駐車料金と最大駐車時間を計算してみる

 第2特集(pp.57-78)に「なぜ、コンピュータは割り算が下手なのか!?」というのが組まれていました。第1章(割り算はなぜ難しい?),第2章(コンピュータ内部での取り扱い),第3章(CPUレベルで考える実装上の話題)で構成され,執筆者はいずれも,中央大学の飯尾淳氏です。
 あら探しからいきます。というのも,第1章をざっと読んで、「小数」のことを「少数」と書いてしまいがちだよなと思いながら,読み返すと,p.61の左カラムに「少数」があったのでした。そこを含む段落に書かれた「9割る4は、2、余り1」は,「小数や分数をまだ習っていない小学生」ならそう答えることになるでしょうが,次の段落の「小学校の算数では,「9は4で割り切れない」と考えます」は言いすぎで,小数にすること(割り進み)や分数表記は高学年で学習し,6年生が解く全国学力テストの算数Aでも出題されています。
 「小学校の復習:割り算の意味」(pp.62-63)については,「小学校では、割り算は2つの意味があると教えるので、それで混乱する児童が出てきてしまうのだとか。」(p.62)から,除法の指導に関してネガティブな認識を持っているなと判断しました。
 「教えるから混乱」というのは奇妙なロジックで,片一方だけ教えるのでは,もう一方のタイプの割り算が学べないことになります。実のところ,割り算でつまずきやすいのは,割合や小数の割り算が絡んだ5年のところで,そこでは「大きい数を小さい数で割る」といったやり方が通用しなくなるのが一因です。
 今回読んだ記事では,昨今の「かけ算の順序」を念頭に置きつつ(p.63の「いずれの計算も,5×3=15という計算を逆から見ているだけにすぎません」から始まる段落が特徴的です),算数教育の用語を意図的に使われなかったと読めますが,使えば,(小学3年で学習する範囲において)「包含除は累減」「等分除は累減に帰着できる」と表せます。累減以外の方法でも等分できます(例えば,大まかに分けてから,同じ数になるよう調整すればいいのです)。また等分除に対する累減においては,キャンディ配りの1回分が,それぞれの子供の1個分になるという,変換の操作も,必要となります。
 第2章については,負の数を含む整数における余りのある割り算について言及があればと感じました。第3章のCのソースと実行時間を見て,最適化をかけるとどうなるんだろうと読んでいくと,最終ページにあり,あっけない結末でした。
 それでやっと本題なのですが,p.63に「「20分/500円」という表記は正しいか?」と題する文章が始まります。同ページの右下には,写真もついています。「平成26年9月17日付けで「時間貸駐車場における表示・運用に関するガイドライン」という文書を出していました」とあるので,検索すると,http://www.gia-jpb.jp/guideline.pdfより読むことができました。
 「○円/○分」ではなく「○分/○円」と表記していることについては,今年,https://twitter.com/LimgTW/status/901674024530436096https://twitter.com/takehikom/status/901688635677802496というやりとりがあり,当ブログでは駐輪場の時間当たり料金という記事を書いていました。
 「x分/y円」でも「y分/x円」でも,どちらでも計算できそうです。今回の表題に合わせてx=20,y=500とし,駐車時間は20分を少しでも超えれば,さらに500円が加算されると仮定して,以下の3つの事例を検討してみます。

  • 60分駐車すれば,料金はいくらか?(1500円)
  • 90分駐車すれば,料金はいくらか?(2500円)
  • 1500円あれば,何分駐車できるか?(60分)

 カッコ書きの答えは,かけ算やわり算をせず,「20分経過で500円」のルールにより求められます。90分駐車なら,「20分と20分と20分と20分と10分」と考えればいいのです。
 それでは,「20分/500円」をもとに,計算を試みます。はじめに,「20÷500[分/円]」すなわち「\frac{1}{25}[分/円]」と変換しておきます。1円あたり,\frac{1}{25}分間,駐車できるという考え方です。1円あたりの単価,と言いたいところですが,普通の意味の単価ではないので,「'」をつけ,「単価'」と表すことにします。
 「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」という式を用います(この式の導出については後述します)。この両辺を「単価'[分/円]」で割って,「料金[円]=駐車時間[分]÷単価'[分/円]」という式を得ます。ここに,駐車時間は60[分],単価'は\frac{1}{25}[分/円]を代入して,分数の割り算を行うと,料金は1500[円]と出ます。
 駐車時間に90[分],単価'に\frac{1}{25}[分/円]を代入して,同じように計算すると,料金は2250[円]です。これは単価'を「\frac{1}{25}[分/円]」としているからで,500円単位で切り上げるという処理を入れることで,請求額は2500円となります。
 「1500円あれば…」では,「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」の式に,単価'は\frac{1}{25}[分/円],料金は1500[円]を代入し,かけ算で,60[分]を得ます。今回のセッティングでは60分を1秒でも超えると,500円加算されるので,「1500円があれば,60分駐車できる」でよさそうです。
 飯尾氏が正しい書き方とする,「500円/20分」についても,「500÷20[円/分]」すなわち「25[円/分]」を単価(1分あたり25円。こちらは「'」なしです)としておきます。基礎となるかけ算の式は,「単価[円/分]×駐車時間[分]=料金[円]」で,これは「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」と変形できます。
 60分駐車したときの料金は,かけ算の式に代入すると,25[円/分]×60[分]=1500[円]です。90分も同様で,25[円/分]×90[分]=2250[円]ですが,やはり500円単位の切り上げ処理により,請求額は2500円です。
 1500円から始まる件で,活用するのは,割り算の式です。駐車時間[分]=1500[円]÷25[円/分]=60[分]となります。これが最大なのは,1円あたりのときと同じです。
 以上より,「\frac{1}{25}[分/円]」という,1円あたりに基づく単価'でも,「25[円/分]」という,1分あたりに基づく単価でも,駐車時間に応じた料金や,支払額に対する最大駐車時間は,かけ算・わり算で計算できることを確認しました。
 最後に,「単価'」の件を含む式の導出を行っておきます。まず,「'」を使わないほうのかけ算の式,「単価[円/分]×駐車時間[分]=料金[円]」については,問題ないでしょう。そのものの形で,算数の教科書や学習指導案で目にしたことは,ありませんが,これは「もとにする量×割合=くらべる量」の典型パターンです。
 次に,「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」を変形によって得たと書きましたが,小学校の算数では,両辺を同じもので割るといった操作はしません。「もとにする量×割合=くらべる量」から,「割合=くらべる量÷もとにする量」を認めるというのは,割合の三用法を根拠とします。なお,「三用法」なのに,計算したのは「料金」と「駐車時間」の2つだけだったのは,残り1つの「単価」があらかじめ決まっていたからです。
 「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」を導出する前に,「\frac{1}{25}[分/円]」と「25[円/分]」の関係を見ておきます。2つをかけると,ちょうど1となり,単位もなくなります。「\frac{1}{25}[分/円]」と「25[円/分]」は,逆数の関係なのです(「逆内包量」と名付けた書籍もあります)。形式的には,「単価'[分/円]×単価[円/分]=1」であり,「単価[円/分]=1÷単価'[分/円]」と表すこともできます。
 この関係式を,先ほどの「駐車時間[分]=料金[円]÷単価[円/分]」に代入して,文字式の性質をもとに整理すれば,「単価'[分/円]×料金[円]=駐車時間[分]」が得られるという次第です。


 本日の記事作成にあたり,メインブログの以下の記事を通じて考えたことを取り入れました。

5間×3間=5坪×3=15坪

 1903年明治36年)というのは,なかなかピンときませんが,ルベーグ積分の博士論文が出版されたのが前年の1902年,そして高木貞治による『新式算術講義』*1は翌年の1904年となっています。
 「乗法或は掛け算」はp.17(コマ番号13)より始まります。最初のページに「被乗数」「乗数」そして「因数」が出現するので,早い段階から被乗数と乗数の区別をしないのかなと思いながら読み進めると,その判断は間違いでした。例えば小数の乗法は,「小数に整数を乗する場合」「整数に小数を乗する場合」「乗数,被乗数ともに小数なる場合」に分けられ,いずれの解説文でも,区別がなされていました。
 面積における単位の扱いが,p.25(コマ番号17)に書かれていました。打ち出します。

 53. 乗数は被乗数を採りて加ふべき度数を示すものなれば,必ず不名数ならざるべからず.例へば矩形の面積等を求むるときに,5間に3間を乗ずるなどいふは,全く意味なきことなり.被乗数若し名数なるときは,其積は必ず被乗数と同名なり.故に前の例に於て,5間に3を乗ずとあれば,其積の15間は長を表す数となるべし.依て此の場合に於ては次の如さ*2く解釈するを適当とす.5間に1間の矩形ならば,一間平方のもの即一坪が五つあり.故に其面積五坪となる.然るに問題は5間に3間なるを以て,其面積は五坪の三倍即ち十五坪なり

 縦の長さが5間,横の長さが3間の長方形の面積については,5間×3間と式を立てた上で,乗数は不名数という理屈で5間×3=15間と計算してしまうと,これは長さになってしまって不適切である(「全く意味なきことなり」),と述べています。
 そうではなく,「一間平方のもの即ち一坪」,言い換えると1間×1間=1坪であることに注意し,5間×1間なら5坪,そして1間ではなく3間なのだから,5坪×3=15坪を得る,というわけです。
 間と坪をそれぞれ,mと㎡に置き換えると,かけ算による長方形の面積計算は,いまの算数で学ぶのと同じように考えることができます。
 「積」と「倍」の違いとともに,「倍」に基づいて「(量の)積」の計算方法を示しているという点で,興味深い内容でした。
 その後の問題集にも,目を通してみると,「音の速力は一秒時に3.031町なり.今電光を見てより15秒を経て雷鳴を聞くときは,其人と雷までの距離は幾町なるか」という速さのかけ算に,「兵士一人一日の食料を五合五勺とし,一隊の人員を百二十名として,八隊の兵士が三十日に要する食糧を計算せよ」という複比例の問題,そして「円形の周囲は,其直径の3.1416倍なり.今直径1.25尺の円柱を三週すべき縄の長さは如何」として,かけ算の順序に注意すべき場面が,pp.26-27(コマ番号18)に収録されていました。

「算数教育の専門家」と自称する人々が狂信的な教条を振り回しているらしい

数学の二つの心

数学の二つの心

  • 作者:長岡 亮介
  • 発売日: 2017/09/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 算数の本2冊,靴の中敷きと合わせて,Amazonで発注し,今日届きました。
 まずは前書きと,奥付に記されたhttp://www.tecum.world/のコンテンツを読みました。小中高の算数・数学教育に対して挑戦的だけれども直接指導する機会を持ってなさそうだなあ,「かけ算の順序」にもカジュアルに言及してそうだなあと思いながら,本文をそこそこに,「コラム」と「脚注」を重点的に見ていきました。予想どおり,p.158の脚注に,書かれていました。

 1) 対照的に小学校では,奇妙に専門的な術語が使われる.掛け算の「乗数」と「被乗数」,割り算の「除数」と「被除数」はその代表格であろうか.後者は概念的な区別が付けやすいのでまだいいが,乗法a×bにおいて,a,bのうち,どちらをどちらというのか.このような数学としては気を配るに値しない問題について,「算数教育の専門家」と自称する人々が狂信的な教条を振り回しているらしい.これなどはまだ軽症の方で,割り算に関する「等分除」,「包含除」の区別に至っては,算数の応用場面での区別の意味は想像できないわけではないが,業界外の普通の人には理解できない世界である.漢字だけではない.デシリットルとヘクタールという単語の接頭辞(deci-,hect-)の意味を介して,これらの概念を理解している教員,生徒ははたしてどれだけいるのだろうか.多くの子どもたちがここで苦しむと聞くが,指数表現を学んだ後に学習すれば苦労する意味がないほど単純な話ではないだろうか?

 打ち出して,読み直してみると,前書きで抱いた不信感がさらに強まりました。「奇妙に専門的な術語が使われる」「狂信的な教条を振り回しているらしい」「業界外の普通の人には理解できない世界である」は,小中高の算数・数学の解説書で見かけない,いわば外からの根拠薄弱な文言と感じました(だからこそ脚注なのでしょうが)。「はたしてどれだけいるのだろうか」には統計情報が欲しいし,最後の文についても,著者自身で実証する気がないのですねでおしまいです。
 デシリットルについて,掘り下げておきます。もし「なぜ小学校でデシリットルを学ぶのか」と問われたら,「実感や操作のできる『かさ』として都合がよいから」と答えるのがいいでしょう。1Lはまだしも,5Lや9Lになると,扱いが容易ではないし,かといって5mLや9mLとなると,あまりにも少量です。「数デシリットル」や「十数デシリットル」は,リットルやミリリットルに比べて,測りとりやすいのです。
 1dLが10杯で1L,逆に1Lの10分の1は1dLといった,10に基づく量の関係は,小数の計算にも活用できます。例えば4年で,0.3×3を「0.3Lの水が3杯のときの総量」に対応づけ,デシリットルで考えると,整数のかけ算に帰着でき,9dL=0.9Lとなるわけです。
 小学校ではリットル・デシリットル・ミリリットルは学習するけれど,その間の「センチリットル」は学習対象外だっかどうだか,と思いながら,現行(2008年)および今年(2017年)の『小学校学習指導要領解説算数編』のPDFファイルにアクセスすると,どちらにも「飲料などの量の単位としてミリグラム(mg)やセンチリットル(cL)などが使われ,水道の使用量,タンクローリーの容量としてはキロリットル(kL)の単位が使われている。これらの単位は,メートル法に従って接頭語,m(ミリ),c(センチ),k(キロ)を付けて作られた単位である。」が記載されていました*1.ただし現行は第6学年,新しい学習指導要領では第3学年の学習事項です。ともあれ,「cL」の算数教科書への記載は問題なし,というわけです。
 上記引用のうち,かけ算の順序の最も中心となる問題意識は,「乗法a×bにおいて,a,bのうち,どちらをどちらというのか」のところですが,小学校の算数から少し離れて,「aにbをかける」と「aとbをかける」との区別にも,配慮したいものです。この区別を知るきっかけの一つに,メインブログでGreer (1992)と書いてきた文献があり,海外では,「かけ算の順序」「たし算の順序」についてどのような見解を出していますか? - わさっきで主要部を取り出して私訳を添えています。グリアの名前は,今年読んだ芳沢光雄『かしこい人は算数で考える』*2に出現していました。

(2018年9月追記)メインブログの以下の記事もご覧ください。

*1:その次の文は,現行と今年のとで少し表記が異なりますが,いずれも,こういった単位の仕組みや関係を踏まえて,子どもたちは何を行う/何ができるようになるかを示しています。

*2:[isbn:9784532263515]

ブラジル人のかけ算事例

 「ブラジル人」と「かけ算」について,関連情報を整理するとともに,当ブログおよびメインブログ(わさっき)の記事にリンクします。
 書籍・論文で読んだことがあるのは次の3つです。

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

坪田耕三の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

子どもは数をどのように理解しているのか―数えることから分数まで (子どものこころ)

子どもは数をどのように理解しているのか―数えることから分数まで (子どものこころ)

 Web上の情報としては,次の2つがあります。

 前者は,takehikomのはてなIDで2011/09/28にブックマークしていました*1。後者は,2013/01/07です*2
 上記に言及した,ブログ記事です。『坪田耕三の算数授業のつくり方』に書かれたブラジルの件は,メインブログで10以上の記事で取り上げてきましたが,以下では代表的なもののみにしています。

*1:http://b.hatena.ne.jp/entry/www.tufs.ac.jp/common/mlmc/kyouzai/brazil/docs/kakezan_t/kakezan_t_shidou.pdf

*2:http://b.hatena.ne.jp/entry/www.tufs.ac.jp/common/mlmc/kyouzai/brazil/sansuu/kakezan.html

*3:記事中に「ブラジル」の語は出現しませんが,そこで取り上げている書籍と英語論文に記されているほか,「クルゼーロ」はブラジルのかつての通貨単位であることからも,ブラジルの子どもの話なのを知ることができます。

小学校の算数では,食塩水の濃度の問題が出てこない?

 「食塩水の濃度の問題が,中学入試などに出題されていますが,算数では教えていないのでは?」という問い合わせをもらいまして,少し調査しました。
 高学年の算数教科書が手元にないので,まずは啓林館の算数用語集にアクセスしました。学年別では5年上から6年下までの各項目を読み,また索引や検索も試みましたが,濃度も食塩水も,見つかりませんでした。
 Webで少し検索したところ,「質量パーセント濃度」という用語を見かけました。中学理科です。中学校学習指導要領の第2章 各教科 第4節 理科には,水溶液に関する内容の取扱いで,「(略)粒子のモデルと関連付けて扱うこと。また,質量パーセント濃度にも触れること。」とありました。
 「質量パーセント濃度」の記載は,平成29年3月告示の中学校学習指導要領 第4節 理科でも同様でした。両バージョンの解説(『中学校学習指導要領解説理科編』)も読みましたが,式など具体例は,載っていませんでした。
 小学校学習指導要領の理科を見ると,第5学年の「物の溶け方」と第6学年の「水溶液の性質」が最も関連します。『小学校学習指導要領解説理科編』では,第5学年のほうに定量的な取り扱いが見られますが,計算ではなく,物が水に溶ける量を,例えば物を水に入れていって溶けなくなるまで行い測定するといった活動が想定されています。
 以上が学習指導要領に基づいた調査結果です。簡潔に書くと,「質量パーセント濃度」は中学理科で学習し,「質量」も「濃度」も、小学算数には出てこない(したがって学習しない)と言えます。
 小中連携について,2つ,関連しそうな情報を挙げておきます。一つは銀林浩『量の世界』*1の本です。そこでは,食塩20gと水80gを混ぜて食塩水を作ったとき,その食塩水の量xgと,中に溶けている食塩の量ygについて,「0.2g/g×xg=yg」という式も,「xg×0.2=yg」という式も可能としています*2
 現行の学習指導要領に基づいた,中学1年の実践研究を,オープンアクセスの紀要論文として読むことができます。

 この文献の図2は「板書(小学校の算数の学習内容)」です。「割合=くらべる量÷もとにする量」という式を挙げ,くらべる量は「塩化ナトリウム(とけている物)」の重さに,もとにする量は「全体(とけている物+とかしている物)」の重さに,それぞれ関連づけています。
 さて,ここまで書いてきた状況と,中学入試やその受験勉強の「食塩水の問題」とで,どのように折り合いをつけるのがいいのでしょうか。実のところ,メインブログで,塾指導のベテランの方による本をもとに,「みはじ(はじき)」と同様の「しぜこ」を取り上げたことがあります*3
 再び,Webで調査してみると,Q&Aを2件,見つけました。

 前者は小学生からではなく中学生からの「教科書には方程式の単元で食塩水の文章問題は出ていないから勉強しなくてもいいのではないか」という質問を発端として,意見交換がなされています。後者では「10%の濃度の食塩水があります。全量の1/10を捨て、捨てた食塩水と同じ量の真水を継ぎ足し、十分に撹拌します。この作業を最低何回繰り返せば、食塩水の濃度は5%以下になるでしょう?」という出題のうち「全量の1/10」や「同じ量の真水」が,体積か重さかで話が変わってくることが読み取れます。
 量のとらえやすさ,また計算のしやすさ(小学生でも立式・計算できること)を考慮すると,重さのほうになります。ですので,何の何に対する割合なのかが,明確になっていれば,5~6年の算数で学習したり---「質量パーセント濃度」の先取りとも言えますが---,中学入試で解答したりするのも,差し支えなさそうと言えます。

2017/09/09に公開の動画

 https://twitter.com/MathmathSci/status/906421868151824385が,現在,@MathmathSciさんの固定されたツイートとなっています。
 10分たらずの動画を,勝手ながら要約すると,「5個ずつ3皿のりんごの個数を求めるとき,算数では5×3=15とするが,トランプ配りやアレイを使えば,3×5=15でもよいのではないか」といったところでしょうか。*1
 似た趣旨の文章が,一松信『数の世界』*2のpp.37-38に見られます。別の論拠を挙げ,トランプ配りを用いることで正解になり得るという記述は,『授業に役立つ算数教科書の数学的背景』*3のpp.9-10より読むことができます。
 この種の問題を扱った,以前の動画で,把握しているのは,次の2つです.それぞれのページによると,順に「2015年10月19日 22:10 投稿」「2011/12/29 に公開」とのことです。

 動画から離れると,今年公開された『小学校学習指導要領解説算数編』にも,トランプ配りが取り入れられています。http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/07/25/1387017_4_2.pdf#page=39です。「1皿に5個ずつ入ったみかんの4皿分の個数」について,5+5+5+5のほか,「各々の皿から1個ずつ数えると,1回の操作で4個数えることができ,全てのみかんを数えるために5回の操作が必要であることから,4+4+4+4+4という表現も可能ではある。」と書かれています。しかしながら,この場面を表すかけ算の式は「5×4」のみで,「4×5」は出てきません。次のページの「ここで述べた被乗数と乗数の順序は,「一つ分の大きさの幾つ分かに当たる大きさを求める」という日常生活などの問題の場面を式で表現する場合に大切にすべきことである」や「被乗数と乗数の順序に関する約束が必要であることやそのよさを児童に気付かせたい」もまた,「かけ算の順序はどちらでもいい」という考えと,両立しそうにありません。
 冒頭の動画については,「赤いりんごが,おさらの上に,5つ乗っています.そのさらが,3つあります.りんごはぜんぶで何個ありますか?」という問題に,「3×5」という式を立てた---クラスの2年生の子でも,動画のえくぼさんでも---とき,「それだと,3つずつのりんごが5さらになるよ」と言う子どもを想定していないのが,残念なところです。授業例(書籍の紹介)についてはhttp://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/04/14/070422http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20130219/1361220251#2に,より広範囲の情報源に基づく取りまとめとしてかけ算の順序論争についてわり算,包含除・等分除,トランプ配りに,リンクしておきます。

*1:2018年3月29日追記:ツイートをいただきました。「掛け算の順序を逆に書いた子に対して、それをバツにはできない」とのことです。https://twitter.com/MathmathSci/status/979112182959849472

*2:isbn:9784621088920

*3:isbn:9784491029641

段数×4=周りの長さ

 『小学校学習指導要領解説算数編』(平成29年6月)のPDFファイル*1には,単位正方形を階段状に配置したときの,段数と周りの長さの関係が,取り上げられています(pp.226-227)。第4学年の最後(数学的活動)です。

伴って変わる二つの数量の関係を表現し伝え合う活動
~段数と周りの長さの関係~
 この活動は,「C変化と関係」の(1)の指導における数学的活動であり,見いだした変化や対応のきまりを表現し伝え合うことで,伴って変わる二つの数量の関係に着目し,表や式を用いて変化や対応の特徴を考察できるようにすることをねらいとしている。
 例えば,段数と周りの長さの関係について,「段数を増やしていくと周りの長さがどのように変わるか」と問いをもったとする。
(略)
 児童は,変化や対応について,「段数が1ずつ増えると,周りの長さは4cmずつ増えていく」,「段数に4をかけると周りの長さになる」などの関係を見いだすであろう。見いだした関係は,表を用いて説明することができる。矢印などを用いると「+4」や「×4」の関係が捉えやすい。また,関係は表だけでなく,「4,4+4,4+4+4,…」,「段数×4=周りの長さ」などの言葉の式,○,△などを用いた式でも表される。
 さらに,「4cmずつ増える」,「4をかけると周りの長さになる」という関係には「+4」,「×4」といった不変な数量の関係がある。図を用いて,どこが「+4」,「×4」になっているかを表現することは,変化や対応についての新たな気付きを促し,関係についての理解を深めることにつながる。

 「段数×4=周りの長さ」というかけ算の式には要注意です。というのも,「一つ分の数×いくつ分=全部の数」の式と合わないからです。10段あるとき,4倍したら40段,ではなく,周りの長さは40cmになる,というのです。この種のかけ算は,Vergnaudが示した「関数関係」で説明がつきます*2。「×4」は,「だんの数」で構成される量空間から,「長さ」で構成される量空間への変換を行います。あるいは,「×4」が,「だんの数」と「(まわりの)長さ」という2つの異なる量空間の仲立ちをしている,と考えることもできます。
 さて,上記とほぼ同じ内容が,啓林館の算数教科書「わくわく算数 4下」(平成16年検定済)p.60にもあるのを知りました。穴埋めで関係式を書く欄が設けられています。「+4」「×4」はなかったものの,2段のときの周りの長さが,1辺の長さが2cmの正方形の周りの長さと同じになるという絵は,記載されていました。
 階段状の配置は見られませんが,啓林館のサイトで□や△を用いた式|算数用語集の後半に現れる表や式が,その事例となっています。
 4年の授業例を調査すると,『小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 4年〈下〉』*3のpp.170-171にも載っていました*4。該当箇所の板書例は以下の通りです。
f:id:takehikoMultiply:20170911215723j:plain
 1段,2段,3段の階段を見せた上で,一部隠れた10段については,周りの長さを計算で求めます。3段までを,計算でなく数えてみると,1段のとき周りの長さが4cm,2段だと8cm,3段では12cmと分かります。
 次に,段の数と周りの長さを表にします。「よこにみたときのきまり」として,1段増えると,周りの長さは4cm増えることを挙げています。また「たてにみたときのきまり」には,段の数に4をかけると周りの長さになるとしています。そこから,「だんの数×4=まわりの長さ」という言葉の式を導いています。
 ところで,10段のときの周りの長さを求める式は,4×10=40でも,10×4=40でも,いいのでしょうか。板書例では,「よこにみたときのきまり」から前者の式を,「たてにみたときのきまり」から後者の式を得ています。この授業を踏まえ,テストで「1辺が1cmのせいほうけいをならべて,かいだんの形をつくりました。10だんのとき,まわりの長さを求める式を答えなさい。」と出題すれれば,どちらでもかまわないはずです。
 しかし授業では「だんの数×4=まわりの長さ」と,言葉の式に表すことを重視しています。「4×だんの数=まわりの長さ」ではありませんし,冒頭の『小学校学習指導要領解説算数編』でも,その形の式は出現しません。
 ここまで見てきた情報源で,着目しておきたいことがあります。第4学年で学習する「伴って変わる二つの数量の関係」あるいは「変わり方」において,2つの変量がそれぞれ異なる種類の量を,値としてとることです。2つの変量とは,階段の周りの長さだと「段の数」と「周りの長さ」のことです。
 とはいえ,『小学校算数 板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 4年〈下〉』には,周りの長さが18cmの長方形の縦と横の長さなど,同種の量の関係を扱った授業例も見られます。なので,「異種の2量の関係を式で表すことを重視している」と考えることにしましょう。
 かけ算以外では,『小学校学習指導要領解説算数編』のpp.212-213に,正三角形を△▽△▽…のように並べて(隣り合う辺はくっつけて)図形をつくったとき,三角形の数と周りの長さを「(三角形の数)+2=(周りの長さ)」や「□+2=△」と表しています。これも,異種の2量の関係式となっています*5
 これまでの算数の授業,そして2020年度からの学習指導要領(に基づく算数教科書や授業)の第4学年で,期待される式のパターンは「独立変数 演算記号 定数=従属変数」*6であり,これに適合し,かつ独立変数と従属変数が異なる種類の量となるような事例が,採用もしくは継承されるように思っています。そこから,変数(を表す文字・記号)や等号を取り除けば「演算記号 定数」で,具体的には「+4」や「×4」などです。「定数 演算記号 独立変数」が好まれないのは,「4+」や「4×」といった表記が,(日本の)算数や日常生活で使われないことと関連付けられそうです。

*1:http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmから入手できます。算数(2)のほうです。

*2:http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20140924/1411511070のSCHEMA 5.3です。

*3:isbn:9784491027340

*4:この本の監修者・執筆者のうち,所属が「筑波大学附属小学校」なのは,中田寿幸,夏坂哲志,田中博史の3氏ですが,いずれも平成27年度以降の算数教科書では,啓林館ではなく学校図書の編集関係者として,名前が記載されています。

*5:三角形の数と周りの長さについて,p.212で表になっています。縦方向に見てたし算の等式をつくっています。そこから帰納的に考えると、言葉の式や記号を用いた式が導き出せます。なお,「異種のものの数量を含む加法」は,(新しい)『小学校学習指導要領解説算数編』では,第1学年の「加法が用いられる場合」の5番目として書かれています。

*6:「独立変数」の語は,今回貼り付けた板書画像のすぐ左の解説で用いられています。また今年の全国学力テストの中学校数学の解説にも「誤答については,「① 縦の長さ,② 面積」と解答した解答類型4の反応率が21.2%である。この中には,独立変数と従属変数の違いを区別できていない生徒がいると考えられる。」という記載があります。