「食塩水の濃度の問題が,中学入試などに出題されていますが,算数では教えていないのでは?」という問い合わせをもらいまして,少し調査しました。
高学年の算数教科書が手元にないので,まずは啓林館の算数用語集にアクセスしました。学年別では5年上から6年下までの各項目を読み,また索引や検索も試みましたが,濃度も食塩水も,見つかりませんでした。
Webで少し検索したところ,「質量パーセント濃度」という用語を見かけました。中学理科です。中学校学習指導要領の第2章 各教科 第4節 理科には,水溶液に関する内容の取扱いで,「(略)粒子のモデルと関連付けて扱うこと。また,質量パーセント濃度にも触れること。」とありました。
「質量パーセント濃度」の記載は,平成29年3月告示の中学校学習指導要領 第4節 理科でも同様でした。両バージョンの解説(『中学校学習指導要領解説理科編』)も読みましたが,式など具体例は,載っていませんでした。
小学校学習指導要領の理科を見ると,第5学年の「物の溶け方」と第6学年の「水溶液の性質」が最も関連します。『小学校学習指導要領解説理科編』では,第5学年のほうに定量的な取り扱いが見られますが,計算ではなく,物が水に溶ける量を,例えば物を水に入れていって溶けなくなるまで行い測定するといった活動が想定されています。
以上が学習指導要領に基づいた調査結果です。簡潔に書くと,「質量パーセント濃度」は中学理科で学習し,「質量」も「濃度」も、小学算数には出てこない(したがって学習しない)と言えます。
小中連携について,2つ,関連しそうな情報を挙げておきます。一つは銀林浩『量の世界』*1の本です。そこでは,食塩20gと水80gを混ぜて食塩水を作ったとき,その食塩水の量xgと,中に溶けている食塩の量ygについて,「0.2g/g×xg=yg」という式も,「xg×0.2=yg」という式も可能としています*2。
現行の学習指導要領に基づいた,中学1年の実践研究を,オープンアクセスの紀要論文として読むことができます。
- 藤田祐輔, 福江功至, 佐伯英人: 小学校と中学校の学習内容を円滑に接続する理科の授業―中学校の第1学年「水溶液」において―, 山口大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要, Vol.38, pp.69-76 (2014). http://www.lib.yamaguchi-u.ac.jp/yunoca/handle/B040038000008
この文献の図2は「板書(小学校の算数の学習内容)」です。「割合=くらべる量÷もとにする量」という式を挙げ,くらべる量は「塩化ナトリウム(とけている物)」の重さに,もとにする量は「全体(とけている物+とかしている物)」の重さに,それぞれ関連づけています。
さて,ここまで書いてきた状況と,中学入試やその受験勉強の「食塩水の問題」とで,どのように折り合いをつけるのがいいのでしょうか。実のところ,メインブログで,塾指導のベテランの方による本をもとに,「みはじ(はじき)」と同様の「しぜこ」を取り上げたことがあります*3。
再び,Webで調査してみると,Q&Aを2件,見つけました。
前者は小学生からではなく中学生からの「教科書には方程式の単元で食塩水の文章問題は出ていないから勉強しなくてもいいのではないか」という質問を発端として,意見交換がなされています。後者では「10%の濃度の食塩水があります。全量の1/10を捨て、捨てた食塩水と同じ量の真水を継ぎ足し、十分に撹拌します。この作業を最低何回繰り返せば、食塩水の濃度は5%以下になるでしょう?」という出題のうち「全量の1/10」や「同じ量の真水」が,体積か重さかで話が変わってくることが読み取れます。
量のとらえやすさ,また計算のしやすさ(小学生でも立式・計算できること)を考慮すると,重さのほうになります。ですので,何の何に対する割合なのかが,明確になっていれば,5~6年の算数で学習したり---「質量パーセント濃度」の先取りとも言えますが---,中学入試で解答したりするのも,差し支えなさそうと言えます。