かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

5間×3間=5坪×3=15坪

 1903年明治36年)というのは,なかなかピンときませんが,ルベーグ積分の博士論文が出版されたのが前年の1902年,そして高木貞治による『新式算術講義』*1は翌年の1904年となっています。
 「乗法或は掛け算」はp.17(コマ番号13)より始まります。最初のページに「被乗数」「乗数」そして「因数」が出現するので,早い段階から被乗数と乗数の区別をしないのかなと思いながら読み進めると,その判断は間違いでした。例えば小数の乗法は,「小数に整数を乗する場合」「整数に小数を乗する場合」「乗数,被乗数ともに小数なる場合」に分けられ,いずれの解説文でも,区別がなされていました。
 面積における単位の扱いが,p.25(コマ番号17)に書かれていました。打ち出します。

 53. 乗数は被乗数を採りて加ふべき度数を示すものなれば,必ず不名数ならざるべからず.例へば矩形の面積等を求むるときに,5間に3間を乗ずるなどいふは,全く意味なきことなり.被乗数若し名数なるときは,其積は必ず被乗数と同名なり.故に前の例に於て,5間に3を乗ずとあれば,其積の15間は長を表す数となるべし.依て此の場合に於ては次の如さ*2く解釈するを適当とす.5間に1間の矩形ならば,一間平方のもの即一坪が五つあり.故に其面積五坪となる.然るに問題は5間に3間なるを以て,其面積は五坪の三倍即ち十五坪なり

 縦の長さが5間,横の長さが3間の長方形の面積については,5間×3間と式を立てた上で,乗数は不名数という理屈で5間×3=15間と計算してしまうと,これは長さになってしまって不適切である(「全く意味なきことなり」),と述べています。
 そうではなく,「一間平方のもの即ち一坪」,言い換えると1間×1間=1坪であることに注意し,5間×1間なら5坪,そして1間ではなく3間なのだから,5坪×3=15坪を得る,というわけです。
 間と坪をそれぞれ,mと㎡に置き換えると,かけ算による長方形の面積計算は,いまの算数で学ぶのと同じように考えることができます。
 「積」と「倍」の違いとともに,「倍」に基づいて「(量の)積」の計算方法を示しているという点で,興味深い内容でした。
 その後の問題集にも,目を通してみると,「音の速力は一秒時に3.031町なり.今電光を見てより15秒を経て雷鳴を聞くときは,其人と雷までの距離は幾町なるか」という速さのかけ算に,「兵士一人一日の食料を五合五勺とし,一隊の人員を百二十名として,八隊の兵士が三十日に要する食糧を計算せよ」という複比例の問題,そして「円形の周囲は,其直径の3.1416倍なり.今直径1.25尺の円柱を三週すべき縄の長さは如何」として,かけ算の順序に注意すべき場面が,pp.26-27(コマ番号18)に収録されていました。