かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

分数のわり算のミスコンセプション

2\frac35mのリボンがあります。\frac35mずつ切った場合と,\frac45mずつ切った場合とで,あまりが短いのはどちらでしょうか。

新しい算数研究 2017年 05 月号 [雑誌]

新しい算数研究 2017年 05 月号 [雑誌]

 「新学習指導要領の徹底研究!」と題する,座談会形式の文章の中で,6年生の担任をしている盛山隆雄氏が授業で出したという問題です。問題文は座談会中のp.29にあり(上記は,求め方と答えが変わらない範囲で改変しています),写真入りの授業の状況が,pp.30-33の下部に記されています。
 本文から離れて検討してみます。まずは整数に置き換えます。問題文に出てくる長さを,すべて5倍にすると,次のようになります。

13mのリボンがあります。3mずつ切った場合と,4mずつ切った場合とで,あまりが短いのはどちらでしょうか。

 3年生でも求められる,あまりのあるわり算です。

  • 3mずつ切った場合には,13÷3=4あまり1で,3mのリボンが4本できて,あまりは1mです。
  • 4mずつ切った場合には,13÷4=3あまり1で,4mのリボンが3本できて,あまりは1mです。
  • あまりの長さは「どちらも同じ」です。

 「2\frac35mのリボン…」も同じです。

  • \frac35mずつ切った場合には,\frac{13}{5}÷\frac35=4あまり\frac15で,\frac35mのリボンが4本できて,あまりは\frac15mです。
  • \frac45mずつ切った場合には,\frac{13}{5}÷\frac45=3あまり\frac15で,\frac45mのリボンが3本できて,あまりは\frac15mです。
  • あまりの長さは「どちらも同じ」です。

 ここで「\frac{13}{5}÷\frac35=4あまり\frac15」という式は,自明ではありませんし,小学校の教科書に載っていることも,期待できません。
 4年で学習する,被乗数,除数,商,余りの間の関係式,具体的には「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」*1にもとに,導出を試みます。はじめに整数からです。3mずつ切った場合の「13÷3=4あまり1」は,「13=3×4+1」と表せます。
 両辺を5で割ると,「\frac{13}{5}\frac35×4+\frac15」となります*2
 そしてこの式を,「あまりのあるわり算」で解釈するなら,「\frac{13}{5}÷\frac35=4あまり\frac15」となる,という次第です。
 座談会に記載の授業では,以下の2つが板書されています.

  • \frac{13}{5}÷\frac35\frac{13}{5}×\frac53\frac{13}{3}4\frac13 4本とれて\frac13mあまる。
  • \frac{13}{5}÷\frac45\frac{13}{5}×\frac54\frac{13}{4}3\frac14 3本とれて\frac14mあまる。

 板書写真では,これらの式の上で,「\frac45mずつ切った方があまりが短い!」が,大きな四角で囲まれています。座談会の中で盛山氏は,39人中22人がこのようにしたと話しています.
 これに対して「同じじゃないの?」という子どもの発言を発端として,意見交換がなされます。
 さまざまなとらえ方を通じて,前者の式の商の非整数部分である\frac13は,長さそのものではなく,\frac35mずつ切った場合にその長さを1としたときの\frac13倍の長さ,すなわち\frac35×\frac13\frac15mであり,これがあまりとなること,後者も同様に\frac45×\frac14\frac15mがあまりであることを,学級で共有していました。
 ミスコンセプション(誤概念, p.31)は,4\frac13を「4本とれて\frac13mあまる」と解釈すること,より具体的には,非整数部分をあまりの長さとみなしてしまうところにありました。
 子どもたちに誤解をさせよう,そしてその間違いに気づいてもらおう,というスタンスから離れるなら,今回の出題は,「あまりのあるわり算」は,分数どうしでも発生し得るのだと,読んで感じました。

*1:『小学校学習指導要領解説算数編』,PDF版ではp.138。

*2:右辺は\frac35×\frac45\frac15ではありません。そうならないことや,両辺を同じ数で割っても等式が成立することなどは,中学1年の学習事項です。