かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

『学びなおす算数』が提唱するわり算の筆算

 第2章(掛け算と割り算)は,「1 掛け算・割り算の意味」そして「掛け算の順番に意味があるか?」の小見出しで文章が始まっています(p.42)。
 本記事で見ていきたいのは,p.61から始まる,わる数*1が小数のときのわり算の筆算です。以下は,Kindle版のスクリーンショットの抜粋です。

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 さらにp.63では,0.75÷0.2について,あまりを1/100の位(小数第二位)で求める筆算について,「教科書流」と「望ましい方法」を並べています。

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 それぞれの図に違和感があります。具体的には,教科書流の筆算では,わる数が「20」になっていること,「75」の左に小数点が現れることです。望ましい方法について,0.75-0.60という,小数どうしのひき算の次が,15-14という,整数どうしのひき算になっているのは,一貫性がありません。
 批判対象の2つを見ると,0.6÷0.2の計算を6÷2の筆算で,また0.75÷0.2を75÷20の筆算で求めています。これらの「教科書流」は著者独自の解釈であると考え,少し検索してみると,自分が小学校のときに実施した,わり算の筆算を見ることができました。以下のところが最も分かりやすいです。

例題)
6.13÷4.2の小数第一位までの商とあまりを求めよ。
(図省略)
①割る数を整数にするために割る数・割られる数に同じ数字をかける
②整数の割り算と同じ要領で計算する
③割られる数の小数点の真上の位置に小数点を加える
④あまりは最初の小数点の位置から下ろしてくる←NEW!!

 これをもとに,0.75÷0.2の筆算を作ると,次のようになります。

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 0.75÷0.2の「望ましい方法」について,0.2×3は0.60ではなく0.6と書くべきと考えて(15-14はそのままで),次のように書いたとします。

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 この考え方で,0.615÷0.2を求めると(あまりを1/1000の位(小数第三位)とします),次のような誤答の可能性が出てきます。

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 わる数を整数にして,筆算をすると,次のようになり,0.615÷0.2=3.07あまり0.001が求められます。

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この方法で,商の1/10の位が「0」となるのは,「1」だけを降ろたときに,「1は2でわれない」と推論できるからです。「望ましい方法」に基づいた0.615÷0.2の筆算では,それが容易でないのです。


 小林道正氏の他の著書を,メインブログで2013年に取り上げていました。

*1:「足す・引く・掛ける・割る」について,原文があればそれに従い,そうでない場合で,小学校の算数を対象とする議論では,当ブログでは基本的に「たす・ひく・かける・わる」と表記しています。