かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

19÷5=3あまり0.8?

  • 青山尚司: 包含除でわり進んだ場合の商の意味を考える活動, 算数授業研究, 東洋館出版社, Vol.139, pp.46-47 (2022).

 授業の中心となる出題とそのねらいについて,p.46より取り出します。

(略)本時は,あえて包含除でわり進んだ場合について児童と考えていく。具体的には「19cmのロールケーキを5cmずつ切って箱に入れていきます。何箱できるでしょう」という問題場面である。「19÷5=3あまり4」なので,普通に考えれば「3箱できて4cmあまる」と答えるのだが,わり進んで「3.8箱」と答える児童もいると考える。この商として出てきた3.8は,5cmのロールケーキを1としたときに,もとにする全体の長さ(19cm)がどれだけにあたるのかを表している。そして小数部分の0.8は,5cmのロールケーキを1としたときに,4cmが0.8にあたることを表している。

 上記より連想する,小学校学習指導要領の算数の事項は,次の3つです(リンク先はすべて学習指導要領LOD)。第4学年の学習に適していると言っていいでしょう。

 算数授業研究139号では,表紙をめくった見開きカラーでも,この授業の写真などを載せています。左上は「○cmのロールケーキを 5cmずつ切って はこに入れます。 何はこできますか?」で,p.47でも,出題を「○cm…」から始めて,児童らと少しやりとりをしてから,「19cm」にしていることが読み取れます。
 さてこの授業,円満に解決できていませんでした。文章(p.47)は「(略)と主張する児童の議論が終わらないまま,終了のチャイムが鳴った。」で締めくくっています。
 次の2ページでは,この授業に関する,筑波大学附属小学校算数研究部の先生方による協議会の内容が文章化され,さらに次の2ページでは,青山氏による改善授業の内容が示されています。
 協議会の中で,取り違えたように見える発言がありました。発言者は大野桂氏です(p.48)。

青山:前時の包含除の場合で割り進み,4.5という商を4あまり0.5と書いていた子がいた。この意味を教えないといけないと思った。意見が割れる問題意識になると思った。0.5の意味を考えていく。問うことで倍の意味,対応関係を考えていくことを狙った。
大野:計算自体は間違っていないし,4.5を4と0.5余ると捉えること自体は間違っていない。単位は?
(略)
大野:本時の19÷5だと3あまり4でいい。3あまり0.8に着目させるのは大事な部分だが,教師がやらせたいだけで子どもの問題意識がない。(略)

 「4.5という商を4あまり0.5」について,元になる場面(文章題)やわり算の式が書かれていないので,例えば27÷6=4.5を考えることにします。2つめの大野氏の発言のうち「3あまり0.8に着目させる」は,青山氏の授業の「19cmの…」に基づき,19÷5=3.8が念頭にあるものと推測できます。
 とはいえ,27÷6=4.5を「4あまり0.5」,19÷5=3.8を「3あまり0.8」と言うのは,算数の,商と剰余の関係に合致しません。(被除数)=(除数)×(商)+(余り)*1の4つそれぞれに当てはめた,27=6×4+0.5や19=5×3+0.8は,等式として適切でなく(前者の右辺は24.5,後者の右辺は15.8になる),商と剰余の関係に基づくのなら,それぞれ27=6×4+3と19=5×3+4となるべきです。
 少し,式変形を試みます。19÷5=3.8に関しては,5×3.8=5×(3+0.8)=5×3+5×0.8=5×3+4=15+4=19と表せます(27÷6=4.5についても同様にできます)。このうちの「3+0.8」は,19を5でわり進んだときの商「3.8」を,整数部分と小数部分に分けたものと解釈できます。
 このように解釈できたとしても,協議会の中の「4.5を4と0.5余ると捉えること自体は間違っていない」「3あまり0.8に着目させる」を正当化できるものではありません。協議会で実際に発言され,そのまま文字にしたとしても,これらの「あまり」は第3学年・第4学年で学習する概念とは異なることを,紙面のどこかに書いてあればよかったように感じました。
 協議会の最後には,小数÷整数にすることや,商の小数部分を0.5にすることが提案され,pp.50-51の「協議を受けた次時の授業」では,5cmずつ切るのはそのままにして,もとのロールケーキの長さを17.5cmに変更し,板書の図には,二重数直線ではなくテープ図と線分図(1本の横線の上下に数値を書く)を採用していました。


 この授業から離れて,算数と数学(プログラミング教育?)との関連付けについて記しておきます。
 ロールケーキの場面設定は,あまりを考慮した連続量の切断問題*2となります。あまりに注意して,与えられた場面(文章題)から答えをどのようにするのかについては,2種類の問題パターンが想起でき,それぞれ「床関数」「天井関数」を用いることで,1つの式の計算で,答えを得ることができます。
 「19cmのロールケーキを5cmずつ切って箱に入れていきます。何箱できるでしょう」は、床関数floorを用いて,floor(19/5)=3として求められ,「答え3箱」です。
 それに対し,「19cmのロールケーキを5cmずつ切って箱に入れていきます。あまりも,箱に入れます。すべてのロールケーキを入れるには,何箱必要ですか」とすると、天井関数ceilを用いてceil(19/5)=4となり,「答え4箱」です。
 わり切れる(商が整数になる)場合には,床関数と天井関数を適用した結果が同じ値になり,わり切れない場合には1違う(天井関数を適用した結果が,床関数のそれよりちょうど1大きい)ことになります。