かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

説得力のある主張をするには,用語と事実と論理を

 Twitter経由で知りました。大筋で賛同しつつも,主張として危ういなと感じました。
 まずは「用語」についてです。言い換えると,自分の主張をするにあたり,適切な言葉をしようしているかです。
 「掛け算の順序」にまつわる,インターネット上の情報やその変遷を考慮に入れると,上記記事のはじめのほうに,独立した行で書いている「(ひとつあたりの数)×(いくつ)」について,乗算記号の左も右も,スタンダードな用語とは言えないなと,感じました。
 かわりの表記を挙げます。算数の教科書ではそれぞれ,「1つ分の数」と「いくつ分」です。PDFで読むことのできる,現行および次期の『小学校学習指導要領解説算数編』では,「一つ分の大きさ」と「幾つ分」と記されています。算数教育に携わっている人の本には,「1あたり」や,「一つ分」(「の数」または「の大きさ」を書かない)もよく見かけます。
 「ひとつあたり」が非標準なのは,例えば,かけ算の式の順序にこだわってバツを付ける教え方は止めるべきであるに「(2015年11月4日に「ひとつあたり」を「一つ分」に置換した)」と記載されていることからも,うかがい知ることができます。
 次に,上記記事がきちんと「事実」を伝えているかについては,本文に根拠・出典がないため,判断できません。
 「順序教育を擁護」という意図とは別に,かけ合わせる二つの数が同種でも,かけ算の式には順序があるのではないか,という話の一つに,平行四辺形の面積(底辺×高さ)があります。長方形は縦×横が一般的ですが,平行四辺形の面積の公式は,底辺×高さと書きます。これについての論考が,PDFで読めます。

 また「単位で考えると(g/1人)×(何人)はあり得るが、その逆はあり得ない」にも,類似した検討がすでになされています。

 メインブログの上記2つの記事について,ポイントを取り出しておきます。前者において,「20%でxグラムの食塩水があるとき,その食塩の重量はyグラム」という関係は,「0.2g/g×xg=yg」でも「xg×0.2=yg」でもよいとしています。後者では,「4個のおもちゃで単価が5ドル」の場合に,式の候補に「5×4=20」と「4×5=20」を挙げ,どちらも考え方としてあり得ることを,2×2の関係表をもとに,解説しています。
 ですがおもちゃの話は,「20ドルは,5台の車+5台の車+5台の車+5台の車にはなり得ない」を入れ,かけ算を学習する子どもたちは両者の見方を認めないことが書かれていますし,食塩水のかけ算わり算は,小学校算数の対象外だったりします(小学校の算数では,食塩水の濃度の問題が出てこない?)。
 ところで,「複比例」の使用にも驚きました。擁護する主張で,この語はほとんど見かけないというのもありますが,それと別に,「複比例」の用語を明記することなく,その考え方は,次期の『小学校学習指導要領解説算数編』に含まれています。最初のバージョンが出たときに,ツイートしていました。

 文部科学省サイトからダウンロードできる『小学校学習指導要領解説算数編』は,何度か更新されていますが,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/1387014.htmの「算数(2)」より読める現バージョンでは,変わらず314ページ(PDF内では240ページ)に,「(道のり)=(速さ)×(時間)」をもとに,「(道のり)と(速さ)が比例しているとも,(道のり)と(時間)が比例しているとも考えられます。」が書かれています。
 『算数・数学教育と数学的な考え方』は以下の本です。

復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方

復刻版 算数・数学教育と数学的な考え方

 冒頭の記事に戻って,「複比例」は「これが反対になることもあるがそれは量どうしの積としてのいわゆる複比例の考え方であってここでの計算とは別の話である」というカッコ書きの中で使われていますが,将来的には速さの関係式でも,道のりと速さとが比例すること,そのとき時間は比例定数となって「道のり=時間×速さ」という書き方が認められ得ることにも,配慮したいところです。
 「用語」「事実」のことを書いて,最後に「論理」ですが,かけ算の順序論争を見てきた限りで言うと,「論理的に主張する」ことには効果が見込めないことが,経験的に分かっています。もちろん主張と論拠のミスマッチや,逆は必ずしも真ならずなどには,読んだり,自分で書いたりしながら,注意しないといけないところですが,しばしば「論理的に説明せよ」という要求が,「俺(要求者)」もしくは特定の読者(層)に心地よく伝わることと,同等視されるのが実情なのです。
 用語は,絶えず見直せるし,事実は,それを提示することができます。それらと対照的に,論理のもろさというのも,意識したいものです。当ブログでは「順序教育を擁護」を目指すことなく,これまでの状況を明らかにし将来を見通すためのサポート役となるような,情報源やターミノロジーの整理を,進めていくことにします。


 コメントも読みました。ブログ主さんの助太刀をすることは到底,かないませんが,「交換法則」については,先月,ツイートを書いていました。最初のものにリンクしておきます。