かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

あまりのあるわり算で,九九のどの段を使えば能率的に求めることができるか

 もし、「21÷7の答えは、何のだんの九九を使ってもとめればよいですか」に「3のだん」と答えるのなら、「23÷6の答えは、何のだんの九九を使ってもとめればよいですか」には何と答えるのでしょうか。


 3年で学習するわり算の話です。48÷6=8のような,割り切れる場合のほか,13÷4=3あまり1のような,割り切れない場合も,この学年で学習します。
 わり算はかけ算と密接な関係があります。被除数・除数・商のいずれも整数で,簡単な場合には,商は九九を使用して求められます。48÷6については,6×8=48を用いて,商は8と言うことができます。13÷4を求めようとすると,13は九九の表に出現しませんが,4の段の答えのうち,13以下で最も大きい数である,12に着目すると,4×3=12により商は3,そして13-12=1であまりは1となります。
 これらについて,8×6=48や,3×4+1=13と,式に表してみると,「48÷6を求めるには,8の段を使っても求められる」「13÷4には3の段でもいい」といった主張が可能なように見えます。
 ここまでに関連して,最近出たhttps://twitter.com/sekibunnteisuu/status/1025284205918351361https://twitter.com/flute23432/status/1025400009435410433のツイート(前後も)を読み*1,自分なりに情報収集をしてみました。
 少し検索して見つかったのが,平成16年の学習指導案http://www1.iwate-ed.jp/db/db2/sid_data/es/sansu/e05sa034.pdfです。本時の問題は「色紙が23まいあります。1人に6まいずつ分けると、何人に分けられますか。また、何まいあまりますか。」です。
 とはいえこの授業で,何の段を使えばよいかといった問い方は,なされていません*2。そして「23÷6=3あまり5」をもとに,「23÷3=6あまり5」としたり,九九の3の段を参照して「3の段(を使えば求められる)」と言ったりするわけにも,いきません。3の段において,積が23以下で最も大きい数は,3×6=18ではなく,3×7=21だからです。
 最終ページには,「23÷6=3あまり5」に対するたしかめの式として,「6×3+5=23」が書かれていますが,これで6の段を使っているというよりは,1人に6まいずつ分けると,3人に分けられて5まいあまるのを,一つの式にした,と見ることもできます。これについては後述します。
 『小学校学習指導要領(平成29年度告示)解説算数編』を読み直したところ,http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387017_004.pdf#page=155に「12÷3の計算が3の段の乗法九九を用いて能率的に求めることができる。このようなことを考えることができるようにすることがねらいとなる。」が入っています。この記述は,現行と一つ前の解説には見当たりません*3
 この件,教科書に載せて授業で指導していきなさいというよりはむしろ,変わり方の「段数×4=周りの長さ」や,小数の乗法・除法における二重数直線などと同様に,授業事例や教科書が先行し,学習指導要領解説がそれに追随したものと思われます。
 あまりのあるわり算に関しては,「除数と商が1位数の場合」として「48÷6や13÷4など,乗法九九を1回用いて商を求めることができる計算である」が,次期・現行・一つ前の解説に共通して現れます。いずれも,何の段を用いるかの記載はありません。
 除数と商が1位数の場合に,「A÷Bの計算がBの段の乗法九九を用いて能率的に求めることができる」というのは,あまりのある(AがBで割り切れない)場合にもそのまま利用可能となります。それに対し,「A÷Bの商」の段の乗法九九を用いるのでは,わり算(または「A=B×商」という関係式)が入る分,能率的ではありませんし,あまりのある場合には適用できなくなるケースがある,と言うこともできます。

補足1:「23÷6」のような式は何通りあるか

 「23÷6」と同じように,九九の「商」の段を使おうとすると,うまく行かない場合を,Rubyワンライナーで求めてみました。被除数をa,除数をb,商をq,あまりをrとし,bもqも2以上9以下とします。この場合,「うまく行かない場合」は,q≦r≦b-1という不等式で表せます。そしてa=bq+rの式により,b,q,rの値に応じたaの値が算出できます。
 実行コマンドは「ruby -e '2.upto(9){|b|2.upto(9){|q|q.upto(b-1){|r|a=b*q+r;puts "#{a}÷#{b}=#{q}あまり#{r}(NG:#{a}÷#{q}=#{b}あまり#{r})"}}}'」で,出力は以下の84通りとなりました。

8÷3=2あまり2(NG:8÷2=3あまり2)
10÷4=2あまり2(NG:10÷2=4あまり2)
11÷4=2あまり3(NG:11÷2=4あまり3)
15÷4=3あまり3(NG:15÷3=4あまり3)
12÷5=2あまり2(NG:12÷2=5あまり2)
13÷5=2あまり3(NG:13÷2=5あまり3)
14÷5=2あまり4(NG:14÷2=5あまり4)
18÷5=3あまり3(NG:18÷3=5あまり3)
19÷5=3あまり4(NG:19÷3=5あまり4)
24÷5=4あまり4(NG:24÷4=5あまり4)
14÷6=2あまり2(NG:14÷2=6あまり2)
15÷6=2あまり3(NG:15÷2=6あまり3)
16÷6=2あまり4(NG:16÷2=6あまり4)
17÷6=2あまり5(NG:17÷2=6あまり5)
21÷6=3あまり3(NG:21÷3=6あまり3)
22÷6=3あまり4(NG:22÷3=6あまり4)
23÷6=3あまり5(NG:23÷3=6あまり5)
28÷6=4あまり4(NG:28÷4=6あまり4)
29÷6=4あまり5(NG:29÷4=6あまり5)
35÷6=5あまり5(NG:35÷5=6あまり5)
16÷7=2あまり2(NG:16÷2=7あまり2)
17÷7=2あまり3(NG:17÷2=7あまり3)
18÷7=2あまり4(NG:18÷2=7あまり4)
19÷7=2あまり5(NG:19÷2=7あまり5)
20÷7=2あまり6(NG:20÷2=7あまり6)
24÷7=3あまり3(NG:24÷3=7あまり3)
25÷7=3あまり4(NG:25÷3=7あまり4)
26÷7=3あまり5(NG:26÷3=7あまり5)
27÷7=3あまり6(NG:27÷3=7あまり6)
32÷7=4あまり4(NG:32÷4=7あまり4)
33÷7=4あまり5(NG:33÷4=7あまり5)
34÷7=4あまり6(NG:34÷4=7あまり6)
40÷7=5あまり5(NG:40÷5=7あまり5)
41÷7=5あまり6(NG:41÷5=7あまり6)
48÷7=6あまり6(NG:48÷6=7あまり6)
18÷8=2あまり2(NG:18÷2=8あまり2)
19÷8=2あまり3(NG:19÷2=8あまり3)
20÷8=2あまり4(NG:20÷2=8あまり4)
21÷8=2あまり5(NG:21÷2=8あまり5)
22÷8=2あまり6(NG:22÷2=8あまり6)
23÷8=2あまり7(NG:23÷2=8あまり7)
27÷8=3あまり3(NG:27÷3=8あまり3)
28÷8=3あまり4(NG:28÷3=8あまり4)
29÷8=3あまり5(NG:29÷3=8あまり5)
30÷8=3あまり6(NG:30÷3=8あまり6)
31÷8=3あまり7(NG:31÷3=8あまり7)
36÷8=4あまり4(NG:36÷4=8あまり4)
37÷8=4あまり5(NG:37÷4=8あまり5)
38÷8=4あまり6(NG:38÷4=8あまり6)
39÷8=4あまり7(NG:39÷4=8あまり7)
45÷8=5あまり5(NG:45÷5=8あまり5)
46÷8=5あまり6(NG:46÷5=8あまり6)
47÷8=5あまり7(NG:47÷5=8あまり7)
54÷8=6あまり6(NG:54÷6=8あまり6)
55÷8=6あまり7(NG:55÷6=8あまり7)
63÷8=7あまり7(NG:63÷7=8あまり7)
20÷9=2あまり2(NG:20÷2=9あまり2)
21÷9=2あまり3(NG:21÷2=9あまり3)
22÷9=2あまり4(NG:22÷2=9あまり4)
23÷9=2あまり5(NG:23÷2=9あまり5)
24÷9=2あまり6(NG:24÷2=9あまり6)
25÷9=2あまり7(NG:25÷2=9あまり7)
26÷9=2あまり8(NG:26÷2=9あまり8)
30÷9=3あまり3(NG:30÷3=9あまり3)
31÷9=3あまり4(NG:31÷3=9あまり4)
32÷9=3あまり5(NG:32÷3=9あまり5)
33÷9=3あまり6(NG:33÷3=9あまり6)
34÷9=3あまり7(NG:34÷3=9あまり7)
35÷9=3あまり8(NG:35÷3=9あまり8)
40÷9=4あまり4(NG:40÷4=9あまり4)
41÷9=4あまり5(NG:41÷4=9あまり5)
42÷9=4あまり6(NG:42÷4=9あまり6)
43÷9=4あまり7(NG:43÷4=9あまり7)
44÷9=4あまり8(NG:44÷4=9あまり8)
50÷9=5あまり5(NG:50÷5=9あまり5)
51÷9=5あまり6(NG:51÷5=9あまり6)
52÷9=5あまり7(NG:52÷5=9あまり7)
53÷9=5あまり8(NG:53÷5=9あまり8)
60÷9=6あまり6(NG:60÷6=9あまり6)
61÷9=6あまり7(NG:61÷6=9あまり7)
62÷9=6あまり8(NG:62÷6=9あまり8)
70÷9=7あまり7(NG:70÷7=9あまり7)
71÷9=7あまり8(NG:71÷7=9あまり8)
80÷9=8あまり8(NG:80÷8=9あまり8)

 被除数で並べ替えてみると,「23÷」から始まるものは,「23÷6=3あまり5」「23÷8=2あまり7」「23÷9=2あまり5」の3通りがあります*4。「18÷」と「24÷」までについて,それぞれ3通りの式が得られます。

補足2:あまりのある包含除・等分除とかけ算の順序

 平成16年の学習指導案におけるたしかめの式「6×3+5=23」について,かけ算の順序と関連する話があるので,以下で整理しておきます。
 「6×3+5=23」の式については,3要素2段階の場面*5と見なして立てたというほか,「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」に当てはめて、たしかめをしたと考えることもできます。なお,(解説のつかない)学習指導要領に書かれている関係式は,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/youryou/syo/san.htm#4gakunenより見ることができ,「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」となっています。
 ともあれ包含除の場合,それら2通りの考え方で,式が一致します。
 それに対し,「色紙が23枚あります。6人に同じ数ずつ分けると,何人に分けられますか。また,何まいあまりますか」という,あまりのある等分除を考えてみると,わり算の式は23÷6=3あまり5で変わらないのですが,たしかめの式は,6×3+5=23だけでなく,3要素2段階の場面とすると,3×6+5=23も認めてよいのではとなります。
 包含除だから1通りで等分除になると2通りになるのは,「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」を採用していることも,影響しています。代わりに「(商)×(除数)+(あまり)=(被除数)」を採用すれば,(あまりのある)等分除に対応する,かけ算・たし算の式が1通りで,包含除のほうが2通りとなります。
 「(除数)×(商)+(あまり)=(被除数)」あるいは「(被除数)=(除数)×(商)+(余り)」あるいはa=bq+rでも,「(被除数)=(商)×(除数)+(余り)」あるいは「(商)×(除数)+(あまり)=(被除数)」あるいはa=bq+rでも,よいのではないかとすると,包含除・等分除を問わず,2通りの式が得られます。

補足3:除数の段を用いない方略について〔2019年7月19日追記〕

 https://twitter.com/LimgTW/status/1151908343994126336を見ました。
 28÷8を求める際に,九九の中から,因数として8を持ち,かつ積が28以下となる,かけ算の式を,8の段以外で探すとなった場合には,3の段の「3×8=24」だけでは不十分であり,その前後の段を見て,それらが不適であることを確認する必要があります*6。2の段の「2×8=16」では,あまり(28-16=12)がわる数以上となり,4の段の「4×8=32」では,割られる数の28を超えてしまうのを,把握することが,「探索」のプロセスに含まれます。
 このように考えると,「28÷8は,何のだんの九九を使ってもとめればよいですか。」と問いを立てたとき,その答えとして「3のだん」は,許容できるように思えません。
 それに対し,8の段に着目すると,8×2=16や8×4=32は8の段に含まれています。他の数で考えてみても,除数の段を用いる方略は,「九九1回適用の除法計算」で「あまりなし」「あまりあり」のいずれにも利用可能なのが分かります。
 a÷bを求めるのに使用する九九の段に関して,「因数としてbを持ち,かつ積がa以下となるものを探す」という方略で,\lfloor\frac{a}{b}\rfloorの段が答えとなるというのは,十分性・能率性のいずれの観点からも,賛同できません。

*1:歴史的にはhttps://twitter.com/vecchio_ciao/status/466752273163362304https://twitter.com/genkuroki/status/819064167361458177も重要と思われます。

*2:PDFで読むことのできる学習指導案のいくつかには,「九九1回適用の除法計算(あまりあり)」と記載されていました。

*3:「能率的」という語に関しては,現行および次期の(解説のつかない)小学校学習指導要領の算数で,各学年の目標および内容のあと,「指導内容の作成と内容の取扱い」の中に,出現します。解説のPDFファイルで機械的に検索すると,次期のほうが「能率的」の出現回数が多くなっています。

*4:「23÷7=3あまり2」については,3×7=21と23-21=2でも,うまく行くため,除外されます。

*5:http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/sansu/WebHelp/03/page3_05.html

*6:「1×8=8,2×8=16,3×8=24,4×8=32」と,わり算の式のわる数を,かける数として固定し,九九の1の段から見ていくという手続きも考えられますが,これも,探索の対象は「3の段」だけではありません。