かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

a×b×cのbは,かける数か,かけられる数か

 小学校の算数で,3つの数のかけ算で立式できる事例をもとに,その2番目の因数の意味を見ていくと,場面(事例)により,「かけられる数にもかける数にもなる」もの,「かける数に限定される」もの,「かける数または因数になる」ものがあります。
 この記事を作るきっかけとなったのはhttps://twitter.com/antiMulti/status/1031525847302193154のツイートであり,「a×b×c」という式も書かれています。


 最初に,以下の文章題を取り上げます。ある小学校の学習指導案が元ネタなのですが現在はデッドリンクです。

1こ90円のシュークリームが、1はこに3こずつ入っています。
2はこ買うと、代金は何円になるでしょう?

 大人モードで,代金を求める式は90×3×2=540,答え540円となります。
 このかけ算の式について,2番目の因数すなわち「3」は,かける数(乗数)にもかけられる数(被乗数)にも解釈できます。
 1箱の代金を求めてから,全部の代金を求めることにすれば,90×3×2=(90×3)×2=540となります。90×3=270,270×2=540と,分けて書くこともできます。いずれにせよ,「3」は「×3」として出現(「90」に作用*1)しており,かける数となっています。
 もう一つの解釈では,先にシュークリームの数を求めてから,全部の代金を求めることにします。90×3×2=90×(3×2)=540となります。3×2=6,90×6=540と書くこともできます。どちらも,「3×2」の中に「3」が出現しまして,かけられる数というわけです。
 2番目の因数が「かけられる数にもかける数にもなる」という,シュークリームの文章題は,以下の記事の《箱売り》の再構築です。


 また別の文章題です。オリジナルから数値を変更しています。

直径が2cmの円があります。その3倍の直径の円の円周は何cmでしょうか。
求める式と答えを書きなさい。
円周率は3.14とします。

 この問題では,式が2種類考えられます。2×3×3.14と2×3.14×3で*2,いずれにせよ計算すると18.84を得まして,答えは18.84cmです。
 「2×3×3.14」という式は,大きな円*3の直径を2×3として求め,次に円周=直径×円周率の公式を適用したものとなっています。それに対し「2×3.14×3」の式では,直径が2cmの円について,2×3.14により先に周*4の長さを求め,それから3倍することで,大きい方の円の周の長さを計算しているわけです。
 「2×3×3.14」にせよ「2×3.14×3」にせよ,「3」は「×3」としての出現(作用)であり,常にかける数です。あえて,かけられる数にしようというのなら,2×3×3.14=(2×3)×3.14とした上で,この「2×3」を1個のかけられる数と見なすのはどうでしょうか。とはいえこの場合でも,「3」は「かけられる数」ではなく,「かけられる数の一部」となります。
 2番目の因数が「かける数に限定される」という,ここまでの内容について,実際には円に限定しません。以下の記事で取りまとめてきました。


 3番目の文章題は,教科書や学力テスト,学習指導案には見かけないものです。

10円玉を次のように並べます。
⑩⑩⑩⑩
⑩⑩⑩⑩
⑩⑩⑩⑩
全部で何円ですか。

 この問題についても,式は2種類,書くことができて,10×3×4と10×4×3です。上に書いた円周の問題と同様に,3はかける数になることが言えるのですが,この場合には10×(3×4)や10×(4×3)といった式にすることもできます*5
 カッコでくくったこの3×4や4×3は,10円玉の枚数に対応します。言い換えると,10円玉が何枚あるかを求め,「10円×枚数」により,総額を求めるのです。大人モードでは,被乗数×乗数とは別のかけ算の考え方,すなわち因数×因数の一部(結局のところ因数の一つ)として,「3」が出現しているわけです。
 10×3×4の式をもとに,この「3」をかける数の一つと見なすと,10×3=30,30×4=120,答え120円となります。
 10×4×3の式をもとに,この「3」をかける数の一つと見なすと,10×4=40,40×3=120,答え120円となります。
 10×3×4の式をもとに,この「3」を因数の一つと見なすと,3×4=12,10×12=120,答え120円となります。
 10×4×3の式をもとに,この「3」を因数の一つと見なすと,4×3=12,10×12=120,答え120円となります。
 2番目の因数が「かける数または因数になる」という,この事例についての関連情報は以下の記事になります。

*1:「作用」という単語でピンとこない方は,http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20151121/1448031600にアクセスして「operates on」を検索し,対応する日本語訳をご覧ください。

*2:シュークリームの問題で「90×2×3」の式は,期待されていません。もしそのように,式を立てたのなら,「90×2は何を表しますか?」と問われることになります。

*3:大小は,この問題において本質ではありません。代わりに「最初の円(基準となる円)」「円周を求めたい円」と書き分けるのでもよいでしょう。「直径がaの円があります。そのb倍の直径の円の円周を求める式を書きなさい。円周率はcとします。」に対して式a×b×cを立て,なぜその式になるのかを説明する際に,使用できます。

*4:「円周」と書いても,差し支えなかったのですが,「円の円周」については今春,記事を書いていますので:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/03/02/062640

*5:円周の話で「3×3.14」や「3.14×3」だけを取り出した場合,これは小さい円の直径を基準としたときの,大きい円の円周の割合と見なすことはできますが,実用性に乏しいと言わざるを得ません。