かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

令和7年度数学教科書読み比べ(1)~0でわる

 「令和6年2月16日検定済」で来年度より使用される中学校第1学年の数学教科書(見本)について,3つの教科書で,「0でわる」のを除外する記述と,そのことの問題での利用が,極めて類似していました。

東京書籍 新編 新しい数学1~MATH CONNECT 数学のつながり~

  • p.49: 0を正の数でわっても、負の数でわっても、商は0になる。また、0でわる除法は考えない。
  • p.55: 問1 (略)加法、減法、乗法、除法のうち、いつでも計算できるものに○をつけなさい。ただし、0でわる除法は考えません。
加法 減法 乗法 除法
自然数    
整数        
       
  • p.55: 整数の集合では、たとえば2÷3のような除法は計算できない。
  • p.15: 1以上の整数を自然数という。

啓林館 未来へひろがる 数学1

  • p.37: 0と正の数,0と負の数の積は0です。また,0を正の数,負の数でわったときの商も0です。しかし,どんな数も0でわることはできません。
  • p.47: 自然数の集合,整数の集合,数全体の集合について,加減乗除のそれぞれの計算が,その集合の中でいつでもできるときは○,そうとは限らないときは△を下の表に書き入れましょう。
加法 減法 乗法 除法
自然数の集合        
整数の集合        
数全体の集合        
  • p.47: 表の右側に「除法では,0でわることはないよ。」
  • p.47: 表の下に
    • 自然数の集合では,加法と乗法はいつでもできる。
    • 整数の集合では,加法,乗法,および減法はいつでもできる。
    • 数全体の集合では,四則計算はいつでもできる。
  • p.15: 正の整数1,2,3,……を,自然数ともいいます。

数研出版 これからの数学1

  • p.44: 0を正の数,負の数でわったときの商は0である。また,どのような数も,0でわることは考えない。
  • p.51: 整数の集合とすべての数の集合の中で,加法,減法,乗法,除法の計算を考え,いつでもできるときは○を,いつでもできるとは限らないときは×を,右の表にかき入れましょう.ただし,0でわることは考えないものとします.
加法 減法 乗法 除法
自然数 × ×
整数        
       

振り返って

 「0でわる」ことについて,今月,X上で盛り上がりを見せました。

 中高の教科書の状況も,報告されています.

 (2024年3月)令和5年度教科用図書検定結果の概要:文部科学省のリンク先の検定・採択・使用のスケジュールによると,中学校教科書は今年度が「採択」となっており,教科書展示会では検定済で来年度から使用開始となる教科書を見ることができるのに気づき,時間をとって調査しました。
 「0でわる」のを除外する記述について,東京書籍は「ただし、0でわる除法は考えません。」,啓林館は「しかし,どんな数も0でわることはできません。」,数研出版は「また,どのような数も,0でわることは考えない。」で,文頭の接続詞や被除数の有無などは異なります*1が,「0でわる」は共通しています。3つの教科書の,正の数と負の数の章には目を通しましたが,なぜ0でわってはいけないのかの説明は,ありませんでした。
 自然数・整数・数と加法・減法・乗法・除法の表については,『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編』の「数の範囲を拡張すること」から始まる文章が関連します。段落は以下の通りです(p.66)。

 数の範囲を拡張することについては,小学校第1学年から漸次指導して理解を深めてきている。中学校第1学年では,数の範囲を正の数と負の数に拡張することで,数の集合の捉え直しが必要になる。例えば,小学校算数科における整数とは0と正の整数を合わせたものであった。中学校数学科ではこれに負の整数を加え,数学の概念としての整数を定義する。こうして捉え直した数の集合とその集合における四則計算の可能性について取り上げ,数の概念の理解を深めることができるようにする。

 一つ前の学習指導要領に基づく解説では,p.68で見ることができました。表の作成は,これまでの各社の中1数学教科書にも掲載されている可能性が高いです。
 高校の数学は,先にリンクしたXのポストを読み進めると出現し,https://x.com/flute23432/status/1804504801071534535で見ることができます。有理数や実数は,加法,減法,乗法,除法について閉じているという。」という注意書きがあり,そこには,「除法では0で割ることは考えない」を前提としています。なお,0を数の範囲から除外して,閉じているか否かを判断するとなると,整数(有理数,実数についても同じ)から0を除いた場合には例えば3-3=0が「整数から0を除いた集合」で閉じていないと言えます。「0で割る」場合だけ除外することで,高校なら「閉じている」,中学なら「いつでも計算できる」「(その集合の中で)いつでもできる」といった表記になっています。
 東京書籍の前掲の表について,○をつけると,以下のようになると考えられます。

加法 減法 乗法 除法
自然数    
整数  

 なお,Wikipediaで「閉じている」を言及しているのはwikipedia:閉性ですが,そこでは,有理数や実数が除法について閉じているか否かについて,書かれていません。英語版も同様でした。

*1:句読点も原文を尊重しました。東京書籍は「、。」,啓林館と数研出版は「,。」でした。