- 作者: 加固希支男
- 出版社/メーカー: 東洋館出版社
- 発売日: 2019/04/01
- メディア: 単行本
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「かけ算の性質」と書いて,特定の意味でその性質を記している(pp.100-101)のに,戸惑いを覚えました。
第3学年以降でかけ算を学習する際に使う主なきまりは、分配法則とかけ算の性質が多い。分配法則とは、a×c+b×c=(a+b)×c、もしくは、a×b+a×c=a×(b+c)とする計算のきまりである。
かけ算の性質とは、以下のように、かける数をc倍すると、積もc倍になるというものである。
分配法則は筆算の形式を考える際に必要になる。かけ算の性質は、かける数が小数や分数のとき、小数や分数を整数にするために必要になる。80×2.3という計算をするために、「そのままでは計算ができないので、2.3を10倍して23という整数にして80×23をして積を求め、その積を÷10して答えを求める」ということである。
「かける数をc倍すると、積もc倍になる」を,性質あるいは定理(とは小学校では言わないけれども)と見なすことは,理解できます。かける数が小数のときの計算の仕方として,まずは整数で計算(筆算のことも)してから,小数点の処理を行うというのも,cが整数のほかに,,...をはじめ単位分数となることも認めれば,この性質で説明がつきます。
戸惑ったのは何かというと,上記の「かけ算の性質」は,実のところ「乗法の結合法則」なのです。しかし引用の前後を見ても,この語句は記載されていません。
左辺がa×bcの等式を,以下のように書き換えれば,結合法則なのがより明確になります。
- a×(b×c)=(a×b)×c
そしてこの式も,「かける数をc倍すると、積もc倍になる」と読むことができるのです。
とはいえその式だけだと,二項演算としての乗法に関して成り立つ性質です。そこに「p×qと書いたら,pはかけられる数,qはかける数,p×qは積」と「p×qは,pのq倍」という読み方を合わせることで,「かける数をc倍すると、積もc倍になる」を得ることができます。
わり算が入った場合には,次のようになります。
- a×(b÷c)=(a×b)÷c
- a÷(b×c)=(a÷b)÷c
- a÷(b÷c)=(a÷b)×c
このうちa×(b÷c)=(a×b)÷cは,2回出現する「÷c」を「」に取り替えることで,上の「単位分数になることも認めれば」が該当します。小学生向けには「かける数をcでわったら、積もcでわる」と表せます*1。
残り2つも,同様に言葉にできそうですが,「かけ算の性質」ほどには使えることを期待できません。なお,箇条書きにした合計4つの式は,乗法・除法の記号を加法・減法の記号にそれぞれ置き換えても成立します。
- a+(b+c)=(a+b)+c
- a+(b-c)=(a+b)-c
- a-(b+c)=(a-b)-c
- a-(b-c)=(a-b)+c
*1:aやbやcという文字ではなく,○や□や△といった記号を使うべきなのですが。