追記で,以下の記事にリンクしています。
両方のコメントに,ブログ記事の内容にツッコミを入れている方の名前があり,ブログ主さんの反応とともに,興味深く読みました。
コメントの中で,「学習指導要領は、自然数を定義していません。決めつけているのは、自然数に0を含めると×にする国立教育政策研究所の所員です。」とあるのが気になりました。中学の数学のどの教科書にも,自然数に0を入れていないと推測できますが,手元で確認することはできません。そもそも,学習指導要領は,算数・数学の用語を定義しているわけではなく,どの学年で何を学習すべきとしているかを規定しているまでではと思いながら,中学校学習指導要領解説数学編のPDFファイルで「自然数」を検索してみると,自然数に0を含めていないことが読み取れる記述を見つけました(p.108)。第2学年です。
二元一次方程式とその解の意味
二元一次方程式の学習では,二元一次方程式を成り立たせる二つの文字x,yの値の組が,二元一次方程式の解であることを理解できるようにする。つまり,方程式の解の意味は,第1学年で学習した一元一次方程式と本質的に変わっていない。二元一次方程式の中の二つの文字はいずれも変数であり,これらの二つの文字に,その変域内の数値を代入して等式が成り立つとき,その値の組が二元一次方程式の解である。例えば,2x+y=7の解については,変数x,yの変域が自然数全体の集合であれば,その解は有限個であり,(1,5),(2,3),(3,1)である。また,変域が整数全体であれば解は無数にある。このように,二元一次方程式の解は一つとは限らず,一元一次方程式の解が一つであったこととは異なる。
もし,自然数に0を含めるのなら,(0,7)も解としないといけません。
自然数に0が含まれるのではないか,と勘違いしそうになった記述もありました(p.135)。
(略)例えば,「連続する二つの偶数の積に1をたすと奇数の2乗になる」ことを説明する場合,その過程はおよそ次のようになる。
① 小さい方の偶数を自然数を表す文字nを用いて2nとすると,大きい方の偶数は2n+2と表すことができる。
② 「二つの偶数の積に1をたす」ことは,2n(2n+2)+1を計算することを意味する。
③ その計算結果が「奇数の2乗になる」ことを示したいのだから,2n(2n+2)+1を(奇数)という形の式に変形することを目指す。
ここに自然数が出現しますが,偶数に0が含まれることは,小学校ですでに習っていますので,「自然数を表す文字n」も,0をとり得るのでは,と考えることができます。
なのですが,論証として見たとき,「自然数」は間違いで「整数」に置き換えるべきところです*1。実際,連続する二つの偶数として,「0と2」や「-2と0」や「-4と-2」などを考えることができ,積はそれぞれ0,0,8であり,1をたすと1,1,9ですから,0や負の数を入れても,「連続する二つの偶数の積に1をたすと奇数の2乗になる」は成立しています。
「連続する二つの正の偶数の積に1をたすと奇数の2乗になる」であれば,「小さい方の偶数を自然数を表す文字nを用いて2nとすると」とでき,「正の偶数の積」は長方形の面積として,「奇数の2乗」のほうは正方形の面積として,図で表せます。自然数に0を含む場合でも,0×2+1=1を面積に基づく図にできますが,やや面白みに欠けます.負の場合まで考慮して「連続する二つの偶数の積に1をたすと奇数の2乗になる」を示すには,図では不適切であり,式を立てて展開と因数分解をすればよい,となります。
中学校を離れて,数学で数の概念や自然数をどのように扱っているかを調べたいと考え,『新式算術講義』を読み直しました。
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第一章に戻って,「個々の順序数を個々の物と見做すときは,順序数の数を数ふることを得。1よりnに至るすべての順序数の数は即ちnなり。」(p.19)は,自然数に0を入れる定義では都合が悪いことにも気づきました。「ぜ~ろ,い~ち,に~い」と,「0よりnに至るすべての数」を数えてみると,n+1個となります。
今のネット社会では,とりあえずwikipedia:自然数に目を通すべきではないかと思います。数学教育に関心があるのなら,中学数学・高校数学の「自然数」の定義や使われ方を把握しておくべきですが,個人的にそこまで手は回りません。0から始まる自然数を「非負整数」,1から始まる自然数を「正整数」と呼び分けるのも,方便としてよく用います。