学校の授業やテストでは,用語を答えさせて他の関連する語句との違いを確認するのに対し,通う学校の先生が出題者ではない学力調査や入学試験においては,用語を書かせるかわりに,選択式など多様な形式で,用語や概念を正確に理解しているかの把握を試みている,と思っておくのがよさそうです。
このまとめに出ていない,用語の問題で,個人的によく覚えているのは,「範囲」です。具体的には平成29年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト,http://www.nier.go.jp/17chousa/17chousa.htm),数学Aの大問14 (1)です。「40 46 47 48 53 53 56」という,生徒7人の反復横跳びの記録に対し,記録の範囲を求めるのですが,統計の話ですので,最大値-最小値で計算し,答えは16です。範囲だからといって「40から56まで」と答えるのは,想定された誤答であり,同年8月に出された報告書には,「誤答については,「40から56*1」と解答した解答類型2の反応率が32.6%である。この中には,数学用語*2としての「範囲」を日常用語としての「範囲」と捉えている生徒がいると考えられる。」とあります。
この数学A問題を読み直してみると,錯角を問う大問6 (1)も,興味深いものでした。「錯角は等しい」という認識は誤りであり,正確な理解は「平行な2直線に他の直線が交わったときにできる錯角は等しい」です。そして平行線のない状況でも,錯角を見つけることができるのです。
まとめのやりとりや,コメントの最初に,「二元一次方程式」という用語の必要性を感じないという趣旨を見かけますが,上記の数学A問題には,二元一次方程式の意味を問う問題が入っています。大問3 (3)です。二元一次方程式x+y=2の解について,4つの選択肢の中から正しいものを1つ選ぶものとなっており,正解は「ウ x+y=2を成り立たせるx,yの値の組すべてが,x+y=2の解である」です。
続く(4)では「連立方程式(式省略)を解きなさい。」という出題で,「二元」も「一次」も書いていません.(3)では「二元一次方程式」を明示することで,x+y=2はx(だけ)の方程式でもy(だけ)の方程式でもなく,2つの文字x,yの値の組を考えて,どんな値の組が等式を満たすかどうかを考えることが,期待されているわけです。
連立でない二元一次方程式は,一次関数とも関連します。xとyの係数がともに0でなければ,2次元平面上にグラフを描くと,直線になります。ここまで参照してきた数学Aでは,大問13として,「二元一次方程式2x+y=6の解を座標とする点の全体を表すグラフ」を問題文に明記し,4つのグラフの中から該当するものを選ばせています。
学習者ではなく大人向けの情報を書いておくと,現行および次期の学習指導要領の中学校数学に「連立二元一次方程式の必要性と意味及びその解の意味を理解すること」の項目が設けられており,『中学校学習指導要領解説数学編』では,連立をつけない二元一次方程式についての説明を読むことができます。
出題事例の検索対象を,全国学力テストではなく,高校入試の数学に切り替えてみると,どうでしょうか。都道府県別 公立高校入試[問題・正答]で,近畿の2018年度の出題をざっと眺めてみると,兵庫*3には「中点連結定理」と「同位角」,奈良*4には「平行線と線分の比」が正解となるものがありました。いずれも名称を書かせるのではなく,選択式の出題です。
*1:解答用紙の該当箇所には右に「回」が印字されているので,「40から56回」という解答になります。
*2:個人的に「範囲」は統計の用語と認識していますが,中学の数学で学習するという意味で,「数学用語」となっていると思われます。なお,「40から56まで」と関連する数学用語は,「区間」です。
*3:https://resemom.jp/feature/public-highschool-exam/hyogo/2018/math/question04.html
*4:https://resemom.jp/feature/public-highschool-exam/nara/2018/math/question03.html