かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

文字を用いた式の意味

 「奇数と偶数の和は奇数である」を,中学・高校の数学の学習をもとに,説明することにします。文字を用いた式(文字式)を使用します。
 例えば次のようにして,説明することができます。

 整数を表すmを用いて,奇数を2m+1と表す。
 整数を表すnを用いて,偶数を2nと表す。
 これらの和は,(2m+1)+2n=2m+2n+1=2(m+n)+1となる。
 mとnは整数なので,m+nも整数である。2(m+n)+1は「2×整数+1」の形なので,奇数である。
 したがって,奇数と偶数の和は奇数である。

 次のように書いたら,正解と言えるでしょうか。

 整数を表すnを用いて,奇数を2n+1と表す。
 整数を表すnを用いて,偶数を2nと表す。
 これらの和は,(2n+1)+2n=4n+1=2×2n+1となる。
 nは整数なので,2nも整数である。2×2n+1は「2×整数+1」の形なので,奇数である。
 したがって,奇数と偶数の和は奇数である。

 これを正解とするわけにはいきません。(2n+1)+2nは,「奇数と偶数の和」ではなく,「連続する2つの整数(ただし小さい方が偶数)の和」だからです。「奇数と偶数」と「連続する2つの整数(小さい方が偶数)」を比べると,前者は後者を真に含みます。2n+1+2n=4n+1=2×2n+1により,「連続する2つの整数(小さい方が偶数)の和は奇数である」が説明できても,「奇数と偶数の和は奇数である」の説明になっていないのです。
 ここで,「整数m,nにより,(2m+1)+2nが,奇数と偶数の和を表すこと」「整数nにより,(2n+1)+2nが,連続する2つの整数(ただし小さい方が偶数)の和を表し,一般に奇数と偶数の和を表すものでないこと」は,式の意味を読み取る活動と言えます。
 中学校学習指導要領の数学のうち,第2学年A(1)ア(イ)の「具体的な事象の中の数量の関係を文字を用いた式で表したり,式の意味を読み取ったりすること。」および(ウ)の「文字を用いた式で数量及び数量の関係を捉え説明できることを理解すること。」が関連します。『中学校学習指導要領(平成29年告示)解説数学編』ではpp.103-104に,「二つの奇数の和は,偶数である」について,整数を表す文字m,nを用いた説明が書かれています。前後には「文字を用いて式に表現したり,式の意味を読み取ったりする力を養う」「文字を用いた式を使って,ある命題が成り立つことを説明する場面で,文字を用いて表現したり,文字を用いた式の意味を読み取ったり,計算したりする学習が総合的に行われることが重要である」とあります。
 「かけ算の順序論争」に関連して,式に表すと意味を失うというツイートを,見かけますが,上記の(2m+1)+2nや(2n+1)+2nのように,式に表したとき,場面に合っているか(「奇数と偶数の和」になっているか)を確かめる活動は,「式の意味」と不可分であることを示唆しています。
 関連情報です。https://mathsoc.jp/publication/tushin/1801/chousa-houkoku.pdfより読むことのできる第一回 大学生数学基本調査報告書では,「偶数と奇数をたすと,答えはどうなるでしょうか.」で始まり,「(a) いつも必ず偶数になる.」「(b) いつも必ず奇数になる.」「(c) 奇数になることも偶数になることもある.」より一つを選ばせてから,「そうなる理由を下の空欄で説明してください.」とした問題について,詳しく解説しています。「証明」ではなく「説明」と表記した意図も,記されています。「偶数は2m,奇数は2m+1(mは整数)と表せる」とする説明の仕方は,「[C-1] 隣り合う偶数と奇数に対してのみ証明している答案」に分類しています。
 鹿児島県総合教育センターが発行し中学校などを対象校種とするhttp://www.edu.pref.kagoshima.jp/research/result/siryou/hyoudai/sansuu/pdf/2049_suugaku_154.pdfでは,(偶数)+(偶数)=(偶数)を説明する問題で,正しくない説明の例を示し,誤りについて考えさせる学習を提案しています。