かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

3÷1.5は1×2

 https://twitter.com/takehikom/status/857369826242605056から始まる一連のツイートを参照され,記事に修正がなされています。修正前の内容は,魚拓より読むことができます。
 選ぶ図と式を正しいものに変更しているほか,「演算決定論」のうち「演算決定」にカギカッコをつけています。また「この問題に対して,教科書は二重数直線を書かせて」だったところは,「大日本図書の教科書は二重数直線の形から」に変わっています。
 とはいえ以下のツイートについて,教師経験者・指導者としての知見やアドバイスが見当たらないのは,残念なところです。

 ところで,https://twitter.com/takehikom/status/857370189939097600とその次のツイートの「1.5×2」は間違いでした。もとの記事にもあるとおり,「1×2=2」であり,その考え方は「3kgは1.5kgの2倍」です。そのことが分かるよう,図にかき加えると,次のようになります。
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 二重数直線を使わせてもらいましたが,これらの数の関係は,2行2列の表であらわすこともできます。関係表に「何倍」「何でわる」といった関係を添え,複数の式の立て方が可能となるのは,『田中博史の算数授業のつくり方』やVerguand (1983, 1988)でも見ることができます。
 二重数直線に関して,以前に作ったまとめは,「×」から学んだこと 14.02 - わさっきです。そこでもリンクしている,二重数直線といえば必読の白井ら(1997)を読み直したところ,「ある種のかけ算が,わり算に置き換えられる」事例を見つけました。
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 二重数直線があり,上の数直線には「(kg)」,下の数直線には「(倍)」が,右方に書かれています。「倍を表す数直線が□倍になると重さも□倍になるという関係を見いだす。」という文から,30×□=90という式にし,そこから,□=90÷30としています。ここでは,両辺を30でわったのではなく,3年で学習する,乗法と除法の相互関係をもとにしたと考えられます。
 なお,⑧の番号が見られますが,該当のページは全体が1つの表になっていて,丸囲みの番号は1から12まであります。二重数直線は②から⑧までに使用されており,⑥の式は「20×5=□」でいわゆる第2用法*1,⑦は「□×4=24」と「□=24÷4」で第3用法(等分除),⑧は上記のとおりで第1用法(包含除,割合を求める演算)です。
 大日本図書の丸たの図から,見いだすことのできる「×2」も,割合に対応します。
 2017年になんだかんだ言っていることは,20年前にきちんと考慮されていた,というわけです*2
 ところで,二重数直線は現行の小学校学習指導要領解説算数編(2008年)に掲載されており,前のものにはありません*3。近年の教科書で採用されているのも,その記述が反映されたと考えることができます。良性か悪性かは分かりませんが,腫瘍と診断されて取り除かれるべきなのは,教科書よりも,信頼性に欠けたブログの記述ではないか,とも思います。

*1:「『3用法』は時代遅れ」と思った方は,教育工学の分野ですが今年論文になったhttp://search.ieice.org/bin/summary.php?id=j100-d_1_60&category=-D&year=2017&lang=J&abst=をご覧ください。http://d.hatena.ne.jp/takehikom/20170105/1483561059にて紹介しています。

*2:二重数直線の背景にあるのは「比例関係」です。これについて白井らは,演算決定の根拠として,(a)から(f)までを挙げてからそのいくつかに課題を指摘したのち,「しかし,(f)の数直線をもとにする方法は,数が拡張されても,問題文が複雑になっても,数量関係を明確にとらえることが容易である上に,比例的な関係をもとに,演算決定も簡単にできる.」と述べています。

*3:新しい学習指導要領に基づく「解説」では,「二次元表」が掲載されるかが,気になっています。全国学力テストの今年の出題や,日本学術会議の分科会による昨年の提言とともに,主要なところをhttp://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2017/04/21/062705に書きましたのでご覧ください。