かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

白と赤を1本ずつ

 本日の記事では「1つ分の数」と「1つ分」を区別します。
 これにより得られる知見は,記事の途中で強調表示させていますが,できれば先頭から順にご覧ください。

 これと類似した問題を,10年ほど前に読んだことがあります。

 かけ算・資料集1(2010年までの書籍) - わさっきhbより転載します。

〈2〉2×5と5×2
1つの花びんに紅白2本ずつの花がさしてある.この花びんが5つあるときの花の総数はいくつであろうか.
名数をつけて式をかくなら,2本ずつ5つであるから,2本×5である.そして,5×2本でもいけないし,5本×2もばつとなる.果たしてそうであろうか.
ある子どもは紅の花5本,白の花5本とみて,5本×2としているかもしれないし,事実,この例があったのである.また,間違いでもない.5×2本は小学校では避けた方がよい.というのは乗法を適用する場面をとらえるのが,しっかりしていない段階では混乱を起すからである.しかし,高校では,これが平然と使われる.(a・b)本の意味でa×b本とするのではなくて,ab本としても,誰も間違いは起さない.とすると,5×2本は小学校だけで間違いであるとは,おかしなことになる.小学校ではこの書き方を避けるということを教師は踏まえて,適当に指導するのがよい.
(p.116.《複数解》.編者・松原元一の解説)

 「1つの花びんに紅白2本ずつの花」では,あとに書かれた式と整合しません。
 「1つの花びんに紅白1本ずつ,2本の花」に読み替えます。こうすることで,式は,名数付きなら「2本×5」も「5本×2」も認められ,名数をなくして「2×5」「5×2」のいずれも正解となる,という事例です。
 花という制約を外すと,また別の本で,事例を見ることができます。平成20年8月に筑波大学附属小学校で行われたという授業です。

 これもメインブログで2011年に取り上げています(例えば,デカルト積のピクトリアル - わさっきhb)。最も重要なのは以下のp.69です。

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 前後のページと合わせて,読み取れるのは,画像の左上で囲まれた「はこが、4はこあるよ。それぞれのはこには、あめが3こずつ入っているよ。」という文に対しては,あめの個数を求めるかけ算の式は3×4が正解,4×3は間違いであることです。
 そのあと「3. 文の元になった絵を見せる。」として,図を提示すると,「「4×3にも見える」という声が出てくると予想される。それは、箱の枠を取り払い、新しいかたまりをつくることで見えてくるものである」とし,4×3という式もOKとなります。
 ただし「4の活動については、深入りすると混乱を招く心配があるので、軽く触れる程度にする」というのも書かれています。上の「小学校ではこの書き方を避けるということを教師は踏まえて,適当に指導するのがよい.」と重なります。実のところ,一つの場面でa×bでもb×aでもよいという事例は,もっとシンプルなものが,教科書などで取り入れられています(令和2年度算数教科書読み比べ(3)~みのまわりから2020年筑波の板書本に見る,被乗数と乗数の順序)。
 ここまでを振り返ると,「1つ分の数×いくつ分=ぜんぶの数」に当てはめて立式し答えを求めるにあたり,問題提示として,「1つ分」の構成要素が同種のものか,異種のものかで,認められる式が異なり得ることが把握できます。
 同種の(区別できない)場合には,「1つ分の数」と「いくつ分」が一意に定まり,式も1種類で,かけられる数とかける数を反対にして書くと「間違い」と見なされます。
 それに対し,「□△○」や「1つの花びんに紅白1本ずつ,2本の花」や「白いチューリップを 1 本ずつ、赤いチューリップを 1 本ずつ」を,それぞれ「1つ分」とすると,いずれも,異種のもので構成されています。その状況から,「新しいかたまりをつくることで」,「1つ分の数」と「いくつ分」が見出され,2つの数が反対のかけ算の式も認められる,というわけです。
 同種と異種とで扱いが異なるのは,小学校2年生で学ぶかけ算よりもむしろ,高校の条件付き確率(P_A(B)=P(A∩B)/P(A))に興味深い題材があります。検索して,ちょうどよいページが見当たらなかったので,創作します。

  • 問1. 区別の付かない2個のサイコロを同時に振ったところ,一つの目は偶数でした。もう一つの目も偶数である確率を求めなさい。
  • 問2. 大小2個のサイコロを同時に振ったところ,大のサイコロの目は偶数でした。小のサイコロの目も偶数である確率を求めなさい。

 このとき,問1では「区別の付かない2個のサイコロ」としたけれど,物体としては異なっているわけで,区別が付くものとみなしたとき*1,2つの目の奇数・偶数の組み合わせは,順序対を用いて(奇数, 奇数),(奇数, 偶数),(偶数, 奇数),(偶数, 偶数)の4通りが考えられ,いずれも同じ確率です。ですが「一つの目は偶数でした」により,(奇数, 奇数)を除外します。もう一つの目も偶数である確率は,P_A(B)=P(A∩B)/P(A)=(1/4)/(3/4)=1/3です。
 それに対し問2では,大の目・小の目の順序対として(奇数, 奇数),(奇数, 偶数),(偶数, 奇数),(偶数, 偶数)の4通り(これらも同じ確率)を書き出したあと,「大のサイコロの目は偶数でした」により,(奇数, 奇数)と(奇数, 偶数)の2つが除外されます。小のサイコロの目も偶数である確率は(1/4)/(2/4)=1/2と求められます。


 「かけ順擁護派と思われる方からいくつかリプを頂いた」の一つはhttps://twitter.com/watanabeKSU/status/1457826919370694662と思われます。

*1:この考え方は,区別の付かない2個のサイコロを同時に振ったとき,「奇数と奇数」「奇数と偶数」「偶数と偶数」の3つの場合が考えられるけれども,同じ確率でないのはなぜかを答えるときにも使われます。