かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

2の倍数は,偶数

 https://twitter.com/flute23432/status/896650436266008576から始まるツイートに触発されて,「倍数」の学習や出題に関する事例調査を試みました。
 調査結果の前に,改めて問題意識を言葉にしておきます。数学において2の倍数と言えば「0,±2,±4,…」です.なのですが,小学校では負の数を扱わないから「0,2,4,…」となるのか,というとそうではなく,0も除外し「2,4,6,…」と書くのがどうやら一般的です。算数と数学のギャップについてどのように理解し,またこれまで指導・評価されてきたのか,するとよいのかを,Webで読める情報を通じて探ろうと考えたのでした。
 小学校での学習やテストにおいて,倍数を考える範囲を明示するというのは,容易に思い浮かぶ対応策です。
 例えば,平成29年度 大妻中野中学校 シンガポール会場入学試験*1では,「1から200までの整数を考えます。」から始まって,3の倍数や5の倍数などの個数を出題しています。こう書いてあれば,0のことを考える必要はないわけです。
 範囲の明示は,米国Common Core State StandardsのMathemaicsにおいて,約数(factor)・倍数(multiple)の学習事項でも,取り入れられています。Grade 4のGain familiarity with factors and multiples.には,"whole number in the range 1-100"が3回,出現します。"whole number"だけであれば,(日本の)小学校算数の「整数」に対応し,0,1,2,3,…のことです。"in the range 1-100"により,その段階での約数・倍数の学習では値が限定されるけれど,後にはその限定を解除して考えることも可能となります。
 なお,whole numberの定義はwhole number=整数は、正しい?|特許翻訳 A to Zで整理されています。その中で,"zero or any positive multiple of 1"という定義もありますが,このmultipleは,倍数というよりは,整数倍(positiveとあるので正整数倍)と解釈するのがよさそうです。
 倍数の出題例をWebで検索して,よく目にするのは,倍数や公倍数を,小さな数から順に,指定した個数だけ答えさせるものです*2。その際に0を含めないのが,暗黙の了解事項となっています。
 例えば,学ぶ 教える.COMの倍数と約数では,問題5・問題7が該当します。
 教材出版 学林舎のhttp://gakurin.co.jp/topnewimage/toppdf/tikara/tikarakkauninsei.pdfにおいて,「倍数の求め方」「公倍数の求め方」に出現します。倍数・公倍数は「小さいものから順に5つ」なのに対し,約数・公約数は「すべて」です。
 株式会社 認知工学が提供しているhttp://ninchi.sch.jp/sample/s35sample.pdfの例題1には「2の倍数を小さいものから5個書き出してみましょう」とあり,答えは「2」「4」「6」「8」「10」です。そして直後の「2の倍数は、偶数とも言います。」を見て,2の倍数と偶数との違いを,さらっと記してあるように感じました。
 「2の倍数は、偶数とも言います」を「xが2の倍数であれば,xは偶数である」に置き換ることができます。しかし,小学校算数の範囲で「偶数は、2の倍数とも言います」や「xが偶数であれば,xは2の倍数である」は言えないのです。0は偶数だけれど,2の倍数に入れないからです。
 『トップクラス問題集』では小学4年に倍数が出てきます。https://books.google.co.jp/books?id=LXy7iCAV8z8C&pg=PA8には「12と30と50の公倍数で3番目に小さい数を求めなさい。」とあります。公倍数に0を含むか否かで答えが変わりますが,残念ながら解答は参照できません。
 「小さい数から順に」のほか,数直線上で倍数を○で囲むのが教育開発出版株式会社によるhttp://www2.kyo-kai.co.jp/img/material/shou/2990/2015pira_5s_sample.pdfに見られます。数直線の「0」が薄くなっています。その一方で,「ただし,0は倍数に入れない。」には網掛けが施されています
 今年出版された本に,気になる出題がありました。『すいすい解ける! 中学数学の文章題 驚異のサザンクロス方式』*3です。Googleブックスで一部を読むことができ,https://books.google.co.jp/books?id=v9NTDgAAQBAJ&pg=PA99 の⑧は「自然数nを用いて、4の倍数を表せ。」となっています。答えは「4n」です。この場合,0や-4などは,4の倍数に入らないことになってしまいます。
 学習指導要領・解説からいくつか取り出します。新しい小学校学習指導要領解説の算数(1)のPDF文書内に,「例えば,「整数」,「比例」という用語は小学校で初めて学習するが,中学校では負の数を学習する際に,これらの用語の意味を捉え直す必要がある。」という文があります。
 算数の「整数」は数学の「整数」と異なり,例えば前者はwhole number,後者はintegerと書き分けられます。
 whole numberをnatural number(1,2,3,…)に置き換えて0を除外するという,解釈あるいは書き方がしばしば見られ,倍数・約数や「整除」においても該当する,というのが,当ブログでの基本的なスタンスとなっています。
 昭和33年の小学校学習指導要領 算数*4では,「約数」「倍数」は第5学年の用語に入っています。指導上の留意事項に「(5) 倍数,約数の指導は,分数の計算に必要な程度にとどめること。」とあり,ここでも0は除外と言っていいでしょう。
 高校の(現行の)学習指導要領解説には,「約数と倍数」の中で,「二つの整数a,b(a>0)について,b=aq+r(r=0,1,2,…,a-1)という表現や割り算の余りによる分類を利用して整数の性質を考察させることも考えられる。」と記されています。bは0であってもよいので,この段階では0は2の倍数に含まれると読めます。
 先月出た中学校学習指導要領解説数学編には,「連続する三つの整数の和は3の倍数になる」が2回,出現します。意図としては文字式で表し証明することなのですが,「連続する三つの整数」として,-1,0,1を考えてみますと,(-1)+0+1=0となり,和は0です。この段階で,0を3の倍数から除外するのは都合が悪い,0を3(や他の正整数)の倍数に入れよう,と指導をするのはどうでしょうか。

*1:http://www.otsumanakano.ac.jp/admission/pdf/2017_singapore_sansu.pdf

*2:ざっと見た限りでは,0を含むいくつかの整数が並んであり,その中から2の倍数などを選ぶような出題は,見当たりませんでした。

*3:isbn:9784408456263

*4:http://www.nier.go.jp/guideline/s33e/chap2-3.htm