かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

「1個a円の品物の3個の代金」を表す文字式は,(a×3)円か,a×3(円)か

 経緯についてはいずれかのツイートをクリックし,前後のやりとりもご覧ください。「かけ算の順序」よりも,受け取った(前者の)ツイートを見て気になったのは,「(a×3)円」「(3×a)円」のように,式全体にカッコを付けて書くことへの違和感です。
 回答した(後者の)ツイートに,平成29年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の問題へのリンクを入れました。実際にはそのツイートをするより前に,文字式に単位を添えて書くまた別の事例を,同じ年度の中学数学の出題より,把握していました。

 数学A 大問6 (2)です。5つの選択肢に,式全体にはカッコを付けず,単位にカッコを付けるという表記が見られます。問題文の一部と選択肢を書き出します。

 n角形は,1つの頂点からひいた対角線によっていくつの三角形に分けられますか。下のアからオまでの中から正しいものを選びなさい。
 ア n+1(個)
 イ n(個)
 ウ nー1(個)
 エ nー2(個)
 オ nー3(個)

 さて2番目のツイートに入れた,同年度の数学B 大問2を詳しく見ていきます。図を一切使わずに,その大問で何をしているのかを文章にすると,次のようになります:6本のストローで,六角形を1個つくります。横並びで,ただし隣り合う六角形で共有する辺のところは1本のストローとして,n個の六角形をつくります。そのときに必要なストローの本数を,nを使った(2通りの)式で表す,という問題です。なお,六角形ではなく四角形(正方形)であれば,現行および次期の『中学校学習指導要領解説数学編』に(そしておそらく教科書にも)載っています。図形を変えても同様に,式で表したり,式を読み取ったりできるかを問う,というわけです。
 ツイートに入れたリンク先は,この大問の(2)です。以下の通り,説明が箱で囲まれています。

 ストローを図1のように囲むと,1つの囲みにストローが6本ある。その囲みがn個あるので,この囲みで数えたストローの本数は6n本になる。このとき,2回数えているストローが□本あるので,必要なストローの本数は6n本より□本少ない。
 したがって,六角形をn個つくるのに必要なストローの本数を表す式は,6n-(□)になる。

 そのすぐ下に,「上の説明の□には,同じ式が当てはまります。□に当てはまる式を,nを用いて表しなさい。」とあって,ここでは「n-1」が期待されます。3箇所の□に当てはめると,「n-1本」「n-1本」「本数を表す式は,6n-(n-1)になる」となります。はじめの2つは,式全体にも単位にもカッコを付けていません。また最後は,文字式のみで単位がありませんが,単位に関しては直前の「本数を表す式は」が担っていると,考えることができます。
 興味深いことに,その次,(3)の正答例の中に,最初のツイートと同様に,式全体にカッコを付け,単位はカッコなしという記載が出てきます。解答例は以下の通りです。

1つの囲みにストローが5本ある。その囲みが(n-1)個あるので,この囲みで数えたストローの本数は5(n-1)本になる。このとき,囲まれていないストローが6本あるので,必要なストローの本数は5(n-1)本より6本多い。

 なのですが,「六角形をn個つくるのに必要なストローの本数を表す式が6+5(n-1)になる理由について,下の説明を完成させなさい。」という出題ですので,全体の式が解答者に見える状態になっています。解答(正答例の作成)にあたっては,このうちの(「n-1」ではなく)「(n-1)」を取り出して,「その囲みが(n-1)個あるので」と書いた,と考えることもできます。解答例に2度出現する,「5(n-1)本」においては,単位を除く式「5(n-1)」全体にカッコを付けていない点にも,注意しないといけません。
 ここまでの書式を,最初のツイートに適用してみます。「1個a円の品物の3個の代金」を表す文字式として,以下の書き方が想定できます。

  • 式全体にも単位にもカッコを付けない:a×3円,3a円
  • 式全体にカッコを付け,単位には付けない:(a×3)円
  • 式全体にはカッコを付けず,単位には付ける:a×3(円),3a(円)
  • 前に「~を表す式は」を置き,式全体にはカッコを付けず,単位を書かない:代金を表す式はa×3,代金を表す式は3a

 中学数学の教科書や,教師用指導書は,手元にありませんが,代わりに書店で参考書を購入して,読み比べることにしました。以下の5冊です。

中1数学 新装版 (中学ニューコース参考書)

中1数学 新装版 (中学ニューコース参考書)

チャート式基礎からの中学1年数学―新学習指導要領準拠

チャート式基礎からの中学1年数学―新学習指導要領準拠

中1数学 (まんが攻略BON!)

中1数学 (まんが攻略BON!)

中学総合的研究 数学 三訂版

中学総合的研究 数学 三訂版

完全攻略 中学1年 数学

完全攻略 中学1年 数学

 「文字を使った式」を重点的に見ました。『中1数学 新装版』はp.55で,「a×2(円)」「500-a×2(円)」「x÷3(cm)」「m×8(g)」「m×8+n(g)」といった表記を見つけることができます。同じページの右の欄外に,「単位のつけ方」についても書かれています。書き出します。

(くわしく)単位のつけ方
 かっこを使った単位のつけ方には,次の2通りがある。
①式はそのままで,単位をかっこで囲む。
 ⇒500-a×2(円)
②式全体をかっこで囲んで,単位をつける。
 ⇒(500-a×2)円
 本書では主に①の表記をする。

 『チャート式 基礎からの中学1年数学』の最初の出現は,p.48で,「b×\frac{2}{10}\frac{b}{5}(人)」です。次のページには,「(a×8)円」「(b÷4)円」「(500×x+100×y)円」などがあります。また「参考 次のページで学ぶ×,÷を省略する表し方では」としたあとには,順に「8a円」「\frac{b}{4}m」「(50x+100y)円」という表記も見られます。大部分が,式全体にカッコを付け,単位には付けないというスタイルですが,p.52の「x×3個」など,そうでない書き方も見られます。
 まんがの『中1数学』での初出は,p.30の最下段,「100-x(cm)」です。次のページには「a×200(円)」のほか,「(チョコバナナクレープの値段)×200よりも,a×200としたほうが,式が簡単だね!」と,単位を書かない式もあります。下段には,上の『中1数学 新装版』の注意書きと同様に2種類の式を挙げ,この本では式全体にはカッコを付けず,単位には付けるスタイルを用いることも書かれています。
 『中学総合的研究 数学』において,文字と式での最初の出現は,p.75で,「(30+6x)本」です。次のページには「(36000-1100×n)個」や「(36000+2900)x個」とあり,さらにp.78には「単位があるときは(a×4)cmのように( )」をつける。」という注意書きも見られます。
 ただしその注意書きに合わないものも見られます。一つはp.77の「36000a^5個」で,他にはp.82の「複雑な数量を文字で表す」というページに書かれた「a×\frac{b}{60}\frac{ab}{60}(km)」などが該当します。
 『完全攻略 中学1年 数学』の「文字を使った式」は,p.28から始まります。先に×や÷の記号を使わない表し方を述べており,その後に「数量を表す式」の例題があります。答えとして書かれているのは「20a円」「\frac{x}{3}時間」「0.9y円」と,式全体にも単位にもカッコを付けていません。またそれらの式を含むp.29には,たし算・ひき算を含む,数量を表す式が見当たりません。それはp.31の標準問題の中にあり,「長さa mの針金から,長さb mの針金を10本切り取ったとき,残りの針金の長さ」を文字式で表す問いに対し,解答は「a-10b(m)」として,式全体にはカッコを付けず,単位には付けるスタイルが採用されていました。
 以上より,参考書の読み比べの結果としては,「(a×3)円」のように式全体にカッコを付け,単位には付けないのと,「a×3(円)」のように式全体にはカッコを付けず,単位には付けるのを,十分な数,得ることができました。「n本」や「3a円」「\frac{x}{3}時間」(または「\frac{1}{3}x時間」)のように,単項式*1と単位を書く場合には,式全体にも単位にもカッコを付けないスタイルが採用されています。
 また等号を含む場合,おおむね次のとおりであることも分かりました。一つは,計算や等価な書き換えを,等号で表した場合,最終的に得られた式の後ろにのみ,カッコを付けて単位を添えます。もう一つは,方程式として表した場合*2には,単位を付けません
 これらが確認できるのは,『中1数学 新装版』のp.107です。「50円切手と80円切手を合わせて23枚買ったところ,代金の合計が1390円でした」とし,50円切手を「x枚」買うとすると,80円切手は「23-x(枚)」買うことになります。右の欄外で,50円切手の代金は「50×x=50x(円)」,80円切手の代金は「80×(23-x)=80(23-x)(円)」で,いずれも等価な書き換えを行っています。本欄に戻って,方程式としては「50x+80(23-x)=1390」であり,単位なしというわけです。
 文字式と「かけ算の順序」との関わりについて,2件,見つけたので簡単に記しておきます。まずは『中1数学 新装版』のp.55で,「1冊a円のノートを2冊買って,500円出したときのおつり」に関して,「ノートの代金=1冊の値段×冊数」をもとに,ノートの代金の文字式を「a×2(円)」と表しています。右欄外に「2×a(円)とすると?」というのも書かれており,「代金を求める式は,(1冊の値段)×(冊数)なので,2×a(円)では,1冊2円のノートをa冊買ったときの代金を表す式になる。」と続いています*3
 もう一つはまんがの『中1数学』です。先にも紹介した(チョコバナナクレープを200個売ったときの売り上げの表す式の)「(チョコバナナクレープの値段)×200よりも,a×200としたほうが,式が簡単だね!」について,次のページではこれを「200a」と表します。さらにp.34では,「チョコバナナクレープの値段が150円のとき,aに150をあてはめるから,200×150=30000(円)」というセリフとともに,代入の説明をしています。この「200×150=30000」は,200aと表した文字式を用いたものですが,「チョコバナナクレープ1個のねだん×個数」を根拠とするなら,「150×200=30000」として計算することになります。この場合には,かけられる数・かける数を交換した2つの式がOKというわけですが,背後にあるのはa×200=200a=200×aという等式です。

*1:この語は中学1年では学習しませんが。

*2:「センテンス型」と言うこともできます。それに対し「一つは」のほうを含め,方程式でない場合の文字の式は「フレーズ型」と呼ばれます。https://ci.nii.ac.jp/naid/110006447269よりオープンアクセスで読める論文の注記には,フレーズ型の量を表す式として「331+0.6t(m/秒)」が例示される一方,センテンス型では「a+b=b+a」「3χ+1=8」「V=I×R」のように,単位の表記がありません。

*3:明記されていませんが,学校や塾において,ノートの代金は「冊数×1冊の値段」と,誰かが言ったら,先生または他の生徒から,あれそうだっけとツッコミが入るようにも思います。