かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

a×b×cか,(a×b)×cか

 3つの数のかけ算について,文章題を含むXのポストを見かけました。

 前後関係から,どちらも「かけ算の順序」に批判的な立場での創作と思われます。数量を維持しつつ各文章題を書き換えてから,小学校3年で期待される式を挙げておきます。
 団子の件は,「1箱あたり三色団子が4本入っている商品があります。この商品を4箱買ったとき,団子は何個ありますか。」と表せます。ここで三色団子は,三色だんごとは - スイーツモールのように,ピンク・白・緑の団子を1個ずつ串に刺したものとします。1本に3個の団子がある,ということです。答えは48個です。
 このとき,1箱の団子の数を求めてから,4箱の団子の数を求めるとすると,分解式は3×4=12,12×4=48となり,一つの式にまとめると(3×4)×4=48です。
 これと別に,4箱の団子の本数を先に求めてから,「1本あたりの団子の数×本数」により全部の団子の数を求めることにすると,4×4=16,3×16=48となり,一つの式だと3×(4×4)=48です。
 タバコの件は,「1箱には20本のタバコが入っています。1カートンには10箱入っていて,それが3カートンあります。タバコは全部で何本ですか。」と表せます。答えは600本です。
 1カートンのタバコの本数を先に求めてから,総数を求めると,分解式は20×10=200,200×3=600で,対応する総合式は(20×10)×3=600です。
 3カートンのタバコの箱の数を先に求めてから,総数を求めると,分解式は10×3=30,20×30=600で,総合式は20×(10×3)=600です。
 結合法則の学習としては,「(3×4)×4=3×(4×4)」「(20×10)×3=20×(10×3)」と表せるのですが,これまで読んできた内容と,少し異なっています。
 その違いを,文字式で表すと,こうです。小学校3年で学習する,乗法の結合法則の等式は,「(a×b)×c=a×(b×c)」ではなく,「a×b×c=a×(b×c)」であるように見えるのです。
 具体例を挙げます。まず,月給20万の社員5人がいる会社が1年間に払う給料の総額はで取り上げた教科書の文章題は,「1こ50円のドーナツが,1箱に4こずつ入っています。2箱では,何円になるでしょうか。」でした。式は,「50×4=200 200×2=400」「4×2=8 500×8=400」「50×4×2=50×(4×2)」の3つです。
 もう一つあって,小3算数・計算の順序でリンクした小3算数「計算の順序」指導アイデア《乗法の結合法則の理解と計算への活用》|みんなの教育技術に出現する式は,はじめに「(ア)① 3×2=6 ② 6×5=30」と「(イ)① 2×5=10 ② 3×10=30」で,「この2つの式を1つの式にまとめることができます。」の直後に「3×2×5」とあります。教師向けの情報のうち,「発表・検討場面では(略)3×2×5=3×(2×5)と等号で結び、等しいことをまとめていきます。」が一つの段落になっています。ノート例やその後の発表も「3×2×5」ばかりで,「(3×2)×5」の式は見当たりません。
 本棚の,また別の情報と,照合しました。先に結果を述べると,以下の本は「(a×b)×c=a×(b×c)」を支持し,「a×b×c」には(結合法則を学習する段階では)カッコを付けるほうがよいとする立場です。

 「1 かけ算」(9時間)のうちの第7時,「1つの式にできるかな?」です。板書イラストがpp.34-35で見開きになっていて,p.34のほうに,言葉と図による問題があります。上から順に,「えんぴつを たばにして くばります。」,図,「えんぴつは,何本いるでしょうか。」の配置です。図は,4人の子どもが左右に並び,それぞれに吹き出しがついています。吹き出しの中は,3本が1束で2束の鉛筆の絵です.文章題にすると,「鉛筆を束にして配ります。3本の鉛筆を1束にして,1人に2束を配ります。4人に配るには,鉛筆は何本いるでしょうか。」となります。
 右のページの板書では,「いろいろな式があるよ。」に波線を施したあと,上から順に「ア、①3×2=6 ②6×4=24」「イ、3×2×4=24」「ウ、①2×4=8 ②3×8=24」です。アの右には「⇒(3×2)×4=24」、ウの右には「⇒3×(2×4)=24」もあります。イの右には,カッコを含む式はありません。
 授業としてはアの式とウの式を比較して「アもウもどちらも正しい」とし,「(3×2)×4=3×(2×4)」の式にまとめています。
 イについては,p.35の下部,板書イラストの外のところで,「だったら,イの式にも括弧をつけた方がいいね」が1つの発言になっています。別の子どもの発言は,「3×2を先に計算するから,(3×2)×4にするんだね」です。
 文字式に立ち返ると,「a×b×c」という式は,算数・数学において*1「『a×b』を求めてから,『その結果×c』を求める」と解釈することができ,結局それは「(a×b)×c」です。「(a×b)×c」と書いても,そのカッコはわざわざ書かなくてもいいじゃないか,という見方もできます*2
 このことが,前述のドーナツの教科書問題や,みんなの教育技術のページに,出現する式にも反映されているように感じました。

 「かけ算の順序」に批判的な立場での創作の一つに,違和感があります。というのも,https://twitter.com/SAsIYZF4Oz78075/status/1777802440739549243では(前後のポストも踏まえて),団子の問題で書かれた式「3×4×4」のうち「3×4」に着目して,「箱数に対するひとつ分とみなすことが妥当かどうか」を尋ねていますが,「3×4」は「三色団子が4本あるときの団子の数」を表すとともに,直後の「×4」における1つ分の数でもあり,したがって「箱数に対する一つ分とみなす」ことができると言えます*3。文章題から「3×4×4」という式を立てるのはトップダウンアプローチに,乗法の結合法則を学ぶ授業を想定したときの「3×4=12,12×4=48」の立式はボトムアップアプローチに,それぞれ対応します。

*1:プログラミングでは乗法演算子は左結合なのが一般的である点とも整合します。

*2:ふたたびプログラミングの話ですが,変数xに整数値が格納されているときに,その十の位の数(x=123なら,2)を求める式を,商を求める演算子/と剰余を求める演算子%を使って表すと,x/10%10です。(x/10)%10と書いてもよく,個人的には,カッコ付きの式が読みやすいように思います。

*3:ここでもプログラムコードを用いて説明すると,C言語などでx=y+2;と書いたら,代入演算子=の右オペランドは「y」ではなく「y+2」である点に注意して,コードを読むことになります。x=y=z;という文も,左の=の右オペランドは,「y」ではなく「y=z」です。