検定教科書に関する批判を含む記事です。
算数について,「1時間の授業で完成した黒板のイメージを教科書に盛り込んだ(日本文教出版)」というのが,画像になっています。
問題文は,本文によると「2デシリットルで平方メートルぬれるペンキがあります。1デシリットルでは何平方メートルぬれるでしょうか」です。本文にも画像にも明示されていませんが,これは6年の学習内容です。
教科書そのものではないことに留意しつつ,違和感のある記述が目立ちます。最初に引っかかったのは,求めたい数値(二重数直線の「ぬれる面積」)のところと,まとめの式の両方に,それぞれ異なる意味で,「□」が使用されているところです。
このような混在は,書き方として良いものではありません。実際の黒板を使った授業となると,どっちにも「□」にしたい気持ちを抑え,ぬれる面積のほうを「?」にするか,の各シンボルを,白以外の色にすることが考えられます。
次に,二重数直線に着目したとき,かかれた数量の関係から,□はで求められるとするには,情報(根拠)が不足しています。
この場面では,ぬれる面積とペンキの量に比例の関係があることが前提となっています。これをもとに,ペンキの量が2dLから1dLになる(÷2)とき,ぬれる面積も,㎡に÷2をすればよい,と言えるのです。このことが,欠落しています。
言葉をすべて,黒板上に書けないというのなら,以下の図のように矢印と「÷2」を付けるのでも,いいはずです。
最後に,「2デシリットルで平方メートルぬれるペンキがあります。1デシリットルでは何平方メートルぬれるでしょうか」という問題が,「わられる数が分数の場合の計算のしかた」の学習に適切なのかについて,検討の余地があります。というのも,この問題であれば,□=と立式したあと,と計算するのが,認められるべきだからです。式変形だけでなく,数直線の「ぬれる面積」上で,とに該当する箇所にも小さな目盛りを書き足せば,÷2によって,分子の値が半分になっても分母は変わらない(「5」のまま)のが確認でき,「答え ㎡」とできるのです。
問題文を「2デシリットルで平方メートルぬれるペンキがあります。1デシリットルでは何平方メートルぬれるでしょうか」に変えると,分子でわり算がしにくくなります。無理して,やってみますと,まではできます*1。なお,分数をわり算の式にするのは,を用いました。3÷2÷5=1.5÷5=0.3=ですが,このように(有限)小数にできるのは,わる数が2と5だからです。もとの問題で,これらの数が変わると,無限小数(循環小数)が発生し,循環小数をわり算しようとなると,結果が大変なことになります。
上記の不具合を避けながら,うまく計算してを得ようとすると,通分を取り入れてとするのが一つのやり方となり,3と5と2(まとめの記号の□と○と△)が他の数であっても,同様に計算ができます。毎回通分を行い,分子に△をかけてから△でわるのは無駄だということに気づけば,「分数を整数でわる計算は、分数をそのままにして、分母にその整数をかけます。」に到達するわけです。
ところで「分数を整数でわる計算」は,次の3パターンに分類できます。
- 分子とわる数が互いに素である。例:
- 分子はわる数の倍数である。例:
- 分子とわる数は(1より大きくわる数より小さい)最大公約数を持つ。例:
わり算はかけ算の逆の演算,と解釈したとき,3つの中でもっとも分かりやすいのは「分子はわる数の倍数」です。しかしこれを起点とし,により「分数÷整数」を理解してしまうと,他のパターンに適用できません。
「分子とわる数が互いに素である」ような数で導入し,他の2つのパターンに適用できるとともに,約分を行う必要のあることを学ぶのが,正攻法ではないでしょうか。
ともあれ,日本文教出版の教科書が「分子はわる数の倍数」を,分数÷整数の導入に採用している可能性も,否定できません。教科書展示会*2では,この件もチェックしたいと思います。
*1:とすることも,可能ですが,繁分数式は小学校では扱われませんし,ここからどのように計算するのかについても,見通しを立てることができません。