本記事は,上記記事の後ろに書きたかった内容です。
「四則演算」か「四則計算」か
小学校・中学校・高等学校の算数・数学の学習指導要領で,「四則」を検索してみました。
小学校算数には「四則」と「四則計算」が出現し,中学校および高等学校の数学では「四則計算」のみでした。
ただし,『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 数学編 理数編』には何度か「四則演算」が出現します。小学校・中学校の算数・数学の解説と合わせて,「演算の意味」「演算記号」「逆演算」といった表記を見つけることもできます。
以上より,学習指導要領に基づいて議論などを行う場合には「四則計算」が最もよく,「計算」と「演算」の語は,類義語ではあるけれども互いに交換できない場合もあることに,留意しておきたいところです。
「増加」から「包含除」までを一言でいうと何か
単項演算と二項演算の表に記された「増加」「合併」「求残」「求差」「倍」「積」「等分除」「包含除」の8つは,いずれも,各演算(加法,減法,乗法,除法)が用いられる場合の名称です。
『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』を見ていきます。「増加」「合併」「求残」「求差」は,「加法,減法が用いられる場合とそれらの意味」としてp.84に記載されています。「等分除」「包含除」は,「除法が用いられる場合とその意味」で,p.146です。
乗法については,「倍」および「積」を,(乗法が)用いられる場合と記載していません。「乗法が用いられる場合とその意味」(p.114)の項目の最初の文は,「乗法は,一つ分の大きさが決まっているときに,その幾つ分かに当たる大きさを求める場合に用いられる。」です。次のページの「また乗法は,幾つ分といったことを何倍とみて,一つ分の大きさの何倍かに当たる大きさを求めることであるという意味も,併せて指導する。」や,この2ページで記載されているかけ算の式はいずれも*1,「倍」であるように見えます。「倍」と判定できるのは,被乗数と積が同種の量であり,乗数は「4皿」のように具体的な数量として出現していても,実際の計算においては,「4つ分」「4倍」「×4」などとして単位が除かれ作用するからです。
ただし,『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説算数編』には,低学年(第2学年・第3学年)においても,「積」の演算に基づくと解釈できる事例があります。「12個のおはじきを工夫して並べる」(p.106)による2行6列や3行4列の●の並びは,「積」の事例です。「ものの個数を数える際に,数のまとまりに関心をもつ活動~乗法との出合い~」(p.128)のうち、掲示物の枚数について「3×4,又は4×3と式で表すことができる」件も,「積」と読み取れます(同ページの団子の数は,「倍」です)。第3学年では,p.157の「3×4」「4×3」と3行4列の○の並びが該当します。
「倍」と「積」の識別方法として,かけ算の順序論争について(日本語版) - わさっきhbでは,a×b=pで数量の関係が表されるとき,『aとbとpがすべて同じ種類の量か,pがaとbのどちらとも異なる種類の量のときは,「積」』であり,『pがaとbのちょうど一方と同じ種類の量のときは,「倍」』であることを示しました。積に基づく乗法の認識について - わさっきhbでは,[Greer 1992]の分類表のうち最初の7つ(equal groups:同等のグループ, equal measures:同等の量, rate:単位量あたり, measure conversion:単位の変換, multiplicative comparison:乗法的な比較, part/whole:部分と全体, multiplicative change:乗法的な変化)を《倍の乗法》,あとの3つ(Cartesian product:直積, rectangular area:長方形の面積, product of measures:量の積)を《積の乗法》と分類していました。
学習指導要領では「増加」から「包含除」までの名称は見当たりません。解説において,加法の「増加」「合併」,減法の「求残」「求差」,除法の「等分除」「包含除」については各演算が用いられる場合に名称および具体例を挙げています。「乗法が用いられる場合とその意味」では「倍」「積」を並置しておらず,意味としては「倍」のみですが,「積」となる具体例を見つけることができています。教科書の精査をしていきたいところです。
異なる演算のあいだの関係(メモ)
以下は未完成です。
- 加法の「増加」と減法の「求残」は,互いに逆の演算となります。
- 乗法の「倍」と除法の「等分除」は,互いに逆の演算となります。
- 乗法の「倍」と除法の「等分除」「包含除」は,相互関係を持ちます(割合の三用法)。
- 加法の「増加」と減法の「求残」「求差」は,相互関係を持ちます。
*1:「4×100mリレー」を除きます。これはかけ算を行って400mという長さを求めるために書かれた式ではなく,1個の競技の名称となっています。関連:https://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2025/02/23/055319