かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

速さの式を,three-place relationとfour-place relationで

 アンチはじきの最後の段落について,大人モードで検討してみます。ただしわり算については,「分子/分母」の分数式ではなく「被除数÷除数」の形を使用します。
 速さに関して,次の3つの公式あるいは「言葉の式」を書くことができます。

  • 速さ=距離÷時間
  • 距離=速さ×時間
  • 時間=距離÷速さ

 これについては,単位時間当たりに移動する距離を速さと定義することで,第1式を得て,文字式の変形(両辺に同じ言葉をかける,わるなど)により他の式を導きます。「距離÷(速さ×時間)=1」という式にもすることができて,これが「はじき(みはじ)」の根拠となります*1
 「距離」「時間」「速さ」という3つの量のうち,2つが既知であれば,残り1つは計算により求められます。3つの数量の関係ですので,three-place relationというわけです。
 ここで一つ,補足です。現実的には一定の速度で進むというのは難しく,多少,速くなったり遅くなったりもしますし,また出発は速さゼロからという可能性も考えられます。それでも「速さ=距離÷時間」などの式で,計算ができるのは,この速さは「平均の速さ」だからです。平均の速さと瞬間の速さとの違いや,算数の教科書にはどのような出題があるのかなどについては,速さ|算数用語集がおすすめです。
 また別の,2つの量の関係を見ていきます。そこでは「速さという量」が出現しません。「a秒でbメートルなら,c秒でdメートル進む」から話を始めます。合わせて,対象物は,一定の速さで進むことも,前提とします。秒やメートルは,他の単位に置き換えることもできます。
 4つの文字の関係を,表にします。aとbを同じ縦位置,cとdも同じ縦位置に並べます。

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 4つの数量の関係,ですので,four-place relationです。
 この関係表を算数で活用する際には,4つのうち1つを「1」にします。例えば,a=1とすると,bは,1秒で何メートル進んだかを表しまして,要は秒速です。
 「c秒でdメートル進むとき,1秒で何メートル進むか」という問題に対して,three-place relationを前提とせずに,解答を試みます。four-place relationでは,言葉の式が使えないわけですが,かわりに,比例関係を活用します。cからaにする(かける,または,わる)のと同じように,dからbにする(かける,または,わる)のです。
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 cからa=1にする操作は,「cでわる(÷c)」です。dからbにも,「cでわる(÷c)」とすればよく,ここから,b=d÷cを得ます。これで速さを求めた,というわけです。
 a=1のまま,bとcを既知,dを未知とすると,問題文は「1秒でbメートル進むとき,c秒で何メートル進むか」と書くことができます。活用する比例関係は,aからcにするのと同じように,bからdにする,となります。関係表は先ほどと同じです。a=1からcにするのは「cをかける(×c)」です。bからdにも「cをかける(×c)」とよいので,ここからd=b×cを得ます。
 a=1で,bとdを既知,cを未知とすると,どうでしょうか。問題文は「1秒でbメートル進むとき,dメートルを進むには何秒かかるか」です。式を得るのに使用する比例関係は,aとc,bとdの関係,ではなく,aとb,cとdの関係です。具体的には,bからaにする(かける,または,わる)のと同じように,dからcにする(かける,または,わる)ことにします。
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 bからa=1にする操作は「bでわる(÷b)」です。dからcにも,「bでわる(÷b)」ことで,d÷b=cを得ます。
 ここまで得られた式を,箇条書きにすると,次のようになります。

  • b=d÷c
  • d=b×c
  • c=d÷b

 bを速さ,dを距離,cを時間とすることで,three-place relationで示した3つの言葉の式と一致します。これはfour-place relationをもとに,1つのかけ算と2つのわり算の関係式が導出できることを意味します。
 ずっと,a=1としてきましたが,これは「単位時間」に対応します。そしてbは,「メートル」の単位がつく,「長さ」であるとともに,表のa=1とbの列においては,「単位時間当たりに進む距離」,すなわち速さに対応します。dは,three-place relationのうちの距離に,またcは時間に,それぞれ結びつけられます。
 a=1の固定を外して,b,c,dのいずれかを1とするときの解釈を,簡単に書いておきます。b=1のとき,aは,「一定の長さを移動するのにかかる時間」となります。「一定の長さを移動するのにかかる時間」は,現行の『小学校学習指導要領解説算数編』では第6学年に,次期の解説では第5学年に,記載されており,現行でも,また将来的にも算数での学習が期待されています。
 cを1とすると,dが速さに対応づけられますが,a<cですので,測定時間は1秒未満だけれど,そこから秒速が(c=a÷bにより)求められることを意味します。dを1とした場合は,cが「一定の長さを移動するのにかかる時間」であり,b<dですので,単位長(1メートル)未満での対象物の移動から,cの値を求めることなどが意図されます。
 a,b,c,dのいずれも1でなく,かつ1つだけが未知という場合,時間が1,距離がxの列を新たに設け,その列と,上下とも既知の列をもとに,xを求めてから,未知の量がある列と組み合わせて,答えを得るという手続きが考えられます。帰一法です。


 「はじき」と「4マス関係表」の違いについては,以下の本のpp.143-144にも書かれています。「4マス」の意義を示している文脈ということもあり,「は・じ・き」を,意味のない図としており否定的です。

田中博史の算数授業のつくり方 (プレミアム講座ライブ)

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 「three-place relation」と「four-place relation」の対置は,以下より読むことができます。