かけ算の順序の昔話

算数教育について気楽に書いていきます。

速さの包含除・等分除

  • 大畑智裕: 子どもたちにとっての除法とは. 算数授業研究, Vol.129, p.50 (2020).

 「リレー連載*提言」の一つで,1ページ(左右2段組)で構成されています。囲まれた2つの文章題*1よりも,読んで興味深かったのは,左右のカラムにまたがって書かれている考察です。

 今更で恥ずかしい話だが,包含除と一口に言ってもいくつかの段階があり,乗法の意味が拡張されるように,除法の意味も拡張されるのだろうということに気付かされた。
 速さの問題で「道のり÷速さ」で時間を求めるのは包含除であり,「道のり÷時間」で速さを求めるのは等分除というイメージがわく。しかし,「み・は・じ」の図をかいて答えを求めることしか知らなかったらそのイメージはわかず,「なぜ割るのかわからない」となるのだろう。割合の問題で,シュートを10回打って,8回ゴールに入ったときの割合を求める「8÷10」は等分除と包含除のどちらだろうか。そもそも,すべての除法を,等分除と包含除に分けようとすることがナンセンスなのだろうか。そのようなことを考えていると,子どもたちにとって,除法とはどのような計算なのだろうかという疑問がわいてくる。

 なぜ「道のり÷速さ=時間」が包含除,「道のり÷時間=速さ」が等分除となるのかについて,二重数直線を作ることで検証ができます。例えば次の図は,包含除です:
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 「12kmを時速4kmで歩いたときの時間」と「12個のあめを1人に3個ずつ配ったときに配れる人数」のいずれの場面にもなります.わられる数とわる数が同種の量---ただし速さは「4km/h」ではなく「(1時間あたり)4km」に読み替えます---,商はそれらと異種の量(3時間,3人)という共通点もあります。二重数直線の図では,求めるべき数は「1」と同じほうの数直線上にあります。
 等分除の図は:
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 こちらは,「12kmを4時間で歩いたときの速さ」と「12個のあめを4人で同じ数ず分けたときの1人分の個数」です。わられる数と商が同種の量で,わる数は異なります。二重数直線の図では,求めたい数は,「1」に対応する,他方の数直線上の値です。
 「シュートを10回打って,8回ゴールに入ったときの割合を求める「8÷10」」は,ここまでと同様に考える(または図をかく)ことにより,包含除と分かります。なお,シュートの件では,(同種の量の)割合を求めるのに対し,道のり÷時間で求められる速さは,異種の量の割合となります。
 「すべての除法を,等分除と包含除に分けようとすることがナンセンスなのだろうか」について,いくつか検討してみました。

  • 等分除・包含除に分けられない,わり算の場面として,Greer (1992)の表*2のうち,"Cartesian product","Rectangular area","Product of measures"に分類されるものが知られています。
  • 等分除にも包含除にもなり得る場面を,作ることができます。「1個90円のシュークリームが2箱あります。全部で540円です。1箱には何個のシュークリームが入っていますか。どの箱にも,同じ数のシュークリームが入っているものとします。」*3です。求めたい数を□として,かけ算の式で表すと,90×□×2=540となります*4。ここから□を求めるのですが,
    • かけ算の式を(90×□)×2=540と考え,90×□=540÷2=270,□=270÷90=3とすると,後者のわり算は「1箱のシュークリームの値段は270円です。1個のシュークリームの値段は90円です。1箱には何個のシュークリームが入っていますか。」と解釈でき,包含除です。
    • かけ算の式を90×(□×2)=540と考え,□×2=540÷90=6,□=6÷2=3とすると,後者のわり算は「6個のシュークリームが,2箱に同じ数ずつ入っています。1箱には何個のシュークリームが入っていますか。」であり,等分除です。
  • 同種の数量どうしのわり算でも,等分除の場面を作ることができます。「70cmの高さから落とすと,28cmの高さまではね上がるボールがあります。このボールを1mの高さから落とすと,何mの高さまではね上がりますか。」*5で,単位をメートルに変換した上で式は0.28÷0.7=0.4と表されます。被除数・除数・商のいずれも単位はメートル(同種の数量)です。なお,二重数直線で関係を表すと,0.28と0.4が,はね上がった高さとして,また0.7と1が,落とす高さとして,それぞれ同じ数直線上に位置付けられます。

 はじめに引用したうちの「イメージ」について,教師や児童らがそれぞれイメージを持っていることを前提とし,教師から見て児童の持つイメージが適切でないと判断したときに,することは,イメージの共有化ではないかと思います。引用では,シェマまたは演算決定のための手段に対して,「イメージ」の語が使用されていますが,歯車の回転数,あめの分配,1Lあたりの重さといった,問題を解く対象を起点として,それぞれ絵をかくなどにより共通点・相違点を発見することができ,このプロセスも「イメージ」づくりに役立てられます。

*1:「歯の数が12の歯車Aが3回転すると,歯の数が18の歯車Bは何回転するでしょうか。」と「5.8Lの重さが5.1kgの油があります。この油1Lの重さは約何kgですか。小数第二位を四捨五入して,小数第一位までのがい数で求めましょう。」です。

*2:https://books.google.co.jp/books?id=N_wnDwAAQBAJ&lpg=PR1&hl=ja&pg=PA280#v=onepage&q&f=false, http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2019/09/10/211914

*3:http://takexikom.hatenadiary.jp/entry/2018/08/23/130215からの改題です。

*4:「Greer (1992)に載っていない,かけ算の場面」と言うこともできます。なぜ載っていないのかというと,Greer (1992)は,1回の演算(1個の演算記号)で求められる場面を扱っているからです。

*5:https://takehikom.hateblo.jp/entry/20120127/1327611401からの改題です。